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夜明けのベルカント  作者: 川本浩三
第一章 亡国の憐姫
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魔剣

 先陣を切る『戦女神(いくさめがみ)』イルムガルト・クラムが方陣の一つを断ち割った。

 イルムガルトに続くフィアンマ軍からいくつかの隊が分かれ、断ち割られた方陣を細切れにして殲滅する。


「悪くない動きだ。なるほど、翠鳳(すいほう)も指揮さえまともなら戦えるのだな」


 フィアンマ軍は『銀閃華(ぎんせんか)』ジュラール・ガミラス旗下の近衛騎士団を軸として軍を再編していた。

 翠鳳騎士団も含め、フィアンマ軍の基礎を作り上げたのはジュラールだ。練度の差はあるが基本的な動きは変わらない。


 見栄や建前、派閥によって指揮が混乱していた翠鳳騎士団を解体し、近衛騎士団の指揮下に置く。簡単な再編だが、それだけでフィアンマ軍の動きは見違えるように変わった。

 イルムガルトという強力な騎士の牽引と、フィアンマ第一公女であるフィリアの指揮による戦意の向上も合わさり、格上であるグルガ帝国軍相手に優勢に立ち回っている。


 急襲に対する備えをしていたグルガ軍ではあったが、緒戦での圧勝もあり気が緩んでいたのであろうか、見る間に陣形は崩されていった。


「すごい突破力……前衛の陣は抜けそうですね」


 マリナの見立て通り、初撃は会心の一撃だ。前衛中央に位置する方陣の殆どは蹴散らされ、横からの支援が追いつかないまま、フィアンマ軍の戦法が楔のように突き立っている。


「そうだな。だが、あまり深入りしすぎると包囲される恐れがある。クラム殿であれば状況を上手く判断するだろうが、気は抜けんな」


 そう懸念を述べたのはジュラールだ。

 先の戦いで兵を失ったフィアンマ軍とグルガ軍の兵力は拮抗している。平原を駆け抜けた勢いで突撃した軍の勢いがいつまでも続くわけではない。

 足を止めれば、そこで包囲され窮地に立たされることになるだろう。


 そして後詰に入っているフィリア達の兵力だけでは、両翼を狭められれば対処は難しい。


「そのために援軍に両翼からの挟撃を指示したんだよね? 大公軍の動きはどうなの?」

「すでに二つに分かれて私達の動きに合わせようとしているわ」


 後方に砂塵が舞っている。士気が向上している翠鳳・近衛混成軍の足は速かった。

 それに合わせるように、大公軍は騎馬を主体とした機動力の高い部隊を先行させて牽制を行うようだ。


 さらに騎馬の後ろには重装歩兵の部隊も少し遅れて追従している。

 騎馬で撹乱して、重装歩兵で押し止める。両翼の動きを止める為によく考えて動いている。


 これならば――


「フィリア殿下」


 グルガ軍に楔を打ち込んだイルムガルト率いる先陣が、騎馬の勢いを止めることなく円形に迂回してからフィリア率いる本隊へと合流してきた。


「イルムガルトさん、どうかしましたか?」

「敵の前衛に穴をあけたが、そのまま先陣だけで敵将を討つのも手柄の取りすぎだと思ってな」


 やはりイルムガルトは優秀な将なのであろう。ジュラールが懸念していたように、勢いだけでの突貫ではいずれ押し包まれてしまう。

 援軍の動きに応じて本隊と連携を取る、もしくは本隊と共に敵陣深くへと斬り込む。その判断と勢いづいて伸び切った戦列を整えるために、あえて勢いを殺してまで本隊へと合流してきたのだろう。


 冗談めかしたことを言っているが、イルムガルトの戦況を見る目は信頼できそうだ。


「そうですね。私達にも出番がないと、困ります」

「ならよかった。後方からくる大公殿の軍も良い動きをしている。決するは今と見るが、如何に?」


 状況は揃った。イルムガルトはそうフィリアに告げている。

 フィリアもまた、戦の気が次の状況へ進んでいこうとしているのを感じていた。


「私もそう思います。ここで翠鳳、近衛全軍を以て敵軍中央を断ち割りましょう」

「その言葉を待っていた」


 フィリアの判断を待っていたように、イルムガルトが持つ黒い剣が紫電を放つ。

 戦いはここからだ、と叫んでいるようだった。


「では、突撃の号を任せていただいてもよろしいか?」


 紫電を放つ黒い剣を握り、イルムガルトが不敵に笑う。

 将としての経験が厚いイルムガルトなら無駄なことはしないだろう。


 敵を撃滅するための全軍突撃。その号令として相応しい方法を持っているに違いない。


「わかりました。突撃の号令はイルムガルトさんにお任せします」

「承った。それでは私は先陣に戻る。号が放たれれば、全軍で敵軍へと突撃を」

「承知しました」

「ここで勝負を決めるつもりで征く。遅れぬよう、頼む」

「はい! 終わらせましょう、この戦を!」


 フィリアの言葉頷きを返し、イルムガルトは先陣へと馬を走らせた。


 その動きに合わせて、円を描くように両翼を牽制していた先陣が鏃のような陣形に集まっていく。


「さあ、始めようか」


 鏃の頂点を走る純白の騎士が、手に持つ黒い剣を天へ掲げた。


「魔剣よっ!!!」


 イルムガルトの呼び声に応じるように、黒い剣から黒雷が(ほとばし)る。


 魔剣――


 戦女神イルムガルト・クラムが持つ剣は、魔剣であった。


 大陸に生まれ、育った者ならば誰もが知るお伽噺の主人公が持つ四つの宝剣。

 四宝剣(しほうけん)と称される宝剣の一振り、魔剣グラムスルト。


 神話の時代に国を食い尽くした暴食の王の魂が封じられていると言われる魔剣だ。

 魔剣グラムスルトは血肉をすすり、魂を食らう。その力は絶大で、扱う者によっては一軍に匹敵する程の力を発揮する。


 過去に魔剣を所有した者達の中でも、イルムガルトは随一の使い手だ。

 故にその力は――


「出番だ! 存分に喰らうといいっ!!」


――飢えた愚王の叫びグラン・グラム・ハウル


 イルムガルトが魔剣を振り下ろす。魔剣に集まっ黒雷が巨大な雷槌の剣となって降り注ぐ。

 黒雷は亡者の声のような奇怪な音を立てて爆裂し、敵軍の中央に大きな穴を穿った。


「続けぇっ!!!」


 未だ紫電が走る黒い魔剣を掲げたイルムガルトが、敵軍に空いた穴へと吸い込まれるように駆けていく。

 先陣の部隊が続き、フィリア達もそれに続こうと手綱を引いた、その時。


 フィアンマ軍の後方に衝撃が走った。






2日程投稿できず申し訳ありません。

なるべく毎日投稿できるようにがんばりますが、少し不定期になるかもです。

ブックマーク等していただければ……


投稿できる日は20時に更新します。

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