挑む者達
そこは歪な世界だった。
硬く尖った岩。ひび割れた大地。草も木も、水も無い。
無機質で色の無い景色。
そこにあるのは、戦いの痕跡。
折れた剣や槍がいたるところに突き立っている。
太陽があるべき場所には黒い穴が空いている。穴からは暗い橙色の光が滲み出していた。
世界の終わり。歴史の果て。
そう感じさせる、およそ人が生きていくことはできないような世界。
「これが、神々が作り上げた世界とは笑わせる」
男の声がした。
声がした方向に意識を向けると、景色の中に三つの色があった。
美しい銀髪をたなびかせる黒い服を着た男。
白く輝く鎧に黄金の剣を携えた青年騎士。
鋼鉄の鎧を身に纏い、対照的な黒い剣を持つ未だ少年の面影が残る戦士。
「世界を脅かした魔王をして、この世界は異質と感じるか」
黄金の剣を携えた騎士が先をにらみながら、銀髪の男へ問いかける。
「……これが、貴様が護り導いた世界が辿り着く場所だ、天秤」
魔王と呼ばれた男が、黄金の剣を携えた騎士に答える。
騎士は何も答えずに、ただ景色を見つめている。
「さて、そろそろか」
魔王と呼ばれた男が口を開くと同時に、ひび割れた地面から何かが立ち上がった。
「見るがいい。あれが、戦い続けた者の果てだ、勇者よ」
地面から立ち上がったモノは、人のように見えた。
剣を持つ人のようなモノ。弓をつがえるモノ。書を手に異質なエネルギーを放つモノ。
人のように見えるが、それは決して人ではなかった。
「……」
勇者と呼ばれた戦士は立ち上がったモノを一瞥して、何かを考えるように目を閉じている。
「あれは紛うことなき神の尖兵。戻るなら、ここが最後だ。後戻りすることはできん」
魔王と呼ばれた男が、騎士と戦士に問いかけた。
「今更だな。天秤の騎士が剣を振るうのは世界の安寧と秩序のため」
騎士は黄金の剣を人のようなモノへ向けて言い放つ。
「相手が神とて、例外ではない」
騎士の言葉を受けた魔王は微かに頷き、もう一人の戦士へ目を向ける。
「……」
戦士は閉じた目を開き、地面を埋め尽くすほどのモノ達を見据える。
「後悔は、全て終わった後でいい」
戦士が黒い大剣を構える。魔王と騎士もまた、溢れ出たモノ達へ意識を向ける。
「行こう。戦いを……全てを、終わらせるために」