第一部 完
「た、ただの一般人がこんな威力出せるかよ!」
有象無象のボスが、唾棄するように呟く。
そらそうだ。一般人にだせるような火力じゃない。
「まぁ、ここで生き抜くにはそれしかなかったってことかな」
にこりと微笑むが逆効果。
神経を集中させてこっちを睨みつける。
「まぁ、君達ももういいから」
ボスさんから、射線をずらしその他大勢に銃口を向けた。
躊躇いなく引き金を引いた。やつらは対抗する術もなく、塵と化した。
「あぁ……あぁ……!」
男は四つん這いになり、己の無力さに打ちひしがれている。
「……終わりましたか?」
俺の圧倒的優位だということを察したのか彼女は、ふらりと俺の近くに立った。
その目は、軽蔑も恐怖もない。
例えるならば、憂うように見つめていた。
「まぁね。あとは、コイツをアーベルさんに届けて終わり」
「そうですか……この人はこの後どうなるんですか」
この人というのは、部下を失い涙を流している男のことだろう。
なんだ、興味があるのか……?
「多分、消される。違法商品の取引をしてたみたいだからね」
「そうですか」
返事はいつも通り淡白だ。
「なんで?」
深く聞くつもりはなかったが、自然と口から出ていた。
「……この人の部下が羨ましいな。と思いまして」
羨ましい? 涙を流してくれることが……?
「それって……」
その続きは、一人の動きで中断させられることになる。
「この嬢ちゃんは、捕まえた! テメェは武器を置いてここを去れやぁ!」
男は近づいていた少女の体を掴み、懐に仕込んでいたであろう銃を彼女に向けた。
「ざんなぁやぁ! カス! ちっとでも動いたら殺すからなぁ!」
しまった、丁度効果が切れかけていたので気を抜いてしまった。
「意味ないですよ」
「あぁあああん! なんだ、テメェ!」
「私、死なないですから」
そう言って彼女は、男の銃を握る。
「放せやぁあああ!」
「いいですから撃ってください」
そして、抵抗するそぶりもなく自分の頭に密着させる。
ここで死ななければ、人質としての価値がなくなる。
それを体を張って証明するつもりなのだろう。
「だったら、殺してやらぁあああああ!」
男の指先は、トリガーにかかり放たれた。
轟音が響き渡る。
「なんだぁ……この野朗!」
「……何やってるんですか」
銃弾は彼女を貫かなかった。
「間に合って、良かったよ」
俺の手のひらの中で、銃弾は回転している。
魔法を手に集中させた。貫通はしていない、だが完全には守りきれていない。
肉を抉りながら前に進もうとする鉛を、俺の後ろに放った。
「いちち……やっぱ銃は痛いなぁ」
自分の血で濡れた服を、パタパタと仰ぐ。
「ふざけんなぁ、やっぱ化けもんじゃねーかっ!」
恐怖に駆られた男は、俺に銃を向けた。
「化けもんじゃないと、生きていけないんだよ」
対抗するように俺も、銃を構え放った。
どう考えても、先に構えていた奴の方が早い。
だが、俺は早撃ちには自信があったしおそらく構えたことすら分からないんじゃないだろうか。
男の額には、綺麗な穴が開いていた。
風穴という奴だろう。
そうして、風通しの良くなった男は地に伏せる。
残ったのは少女ただ一人だった。
「なんで、助けたんですか」
正面から見つめられる。
俺はこの目が、正直なれない。
何て言えばいいだろう。子供らしさがない、光や希望がないといえばいいのか。
「君が傷つくのを怖がらなかったから」
「は……?」
首をかしげ彼女は、彼女は困惑している。
「銃、撃たせようとしたでしょ」
「……はい」
ばつの悪そうな顔をして彼女は呟いた。
これは、言わなかったけど。
俺が殺した男が部下のために泣いていた時、羨ましいと知っていた。
この子は生まれてきて一度も自分のために涙を流してくれた人間を見たことがないのだろう。
だから、自分を傷つけるように立ち回る。
そんなのは、かわいそうだ。
「まぁ……だから助けたんだよ」
「はぁ……?」
今一ピンと、来てないんだろう。
まぁ、それでいいんだと思う。
そういうのは後で気がつけばいい。
雲が少し崩れていく。
その裂け目から、太陽が顔を覗かせた。
俺は静かに、微笑む。
「うちで仕事をしないか?」
彼女が、何を思ったのかは知らない。
だけどほんの少し、口角を上げた気がした。
「……仕方がないですね。当分お邪魔させてもらいます」
これは、俺と心を閉ざした彼女が一緒に生きる。
それだけの話だ。
ここで、一部が終わりました。
ありがとうございました。