裏路地にて
「雨か、俺達ついてるね」
「そうですね」
なぜ雨がいいのか、この子はわかっているのだろう。
証拠や足跡がばれにくい。
それよりなにより……。
「なんで、俺の前あるいてんの……?」
苦笑いを浮かべる。
だか彼女は、振り向くことは一切なく
「それが、効率的ですから」
そうだとしてもさ……。
このやりとりは、もう五回目。意外と頑固だ。
俺達は新たな情報屋から話を聞き、裏路地を通っていた。
どうやらこの近くが住処らしい。
雨も降ってるし、絶好の奇襲日和だ。
「……」
死なない、か。
羨ましい話だ。俺はステータス画面を開く。
クロサキ・エイジ
HP 100
MP 25000
スキル
無し
チートのチの字もないステータスに苦笑いをする。MPが多いだけのおじさんだ。
路地裏を歩く、彼女の後ろを着ける。
「そういえば、私は木葉 舞です」
「このは、まい?」
「はい」
名前を聞いている途中で彼女は死んだ。
そのやり取りの続きなのだろう。結構律儀だ。
「そっか。そういえばなんだけどさ」
「はい」
返事も必ず返す。意外とかわいい。
「なんで、手伝ってくれるの?」
恩だとしても普通の人間はここまでやらない。
死なないにしても不確かなことが多すぎるし、痛みが無いわけではないだろう。
「恩、もありますけど。一番は、似ていたからです」
「似てる?」
「はい、私の飼い主に」
飼い主、その言葉に俺の眉がピクリと揺れた。
そんな風に言わせている人間にもだが、それを認めてしまっている彼女にもだ。
「私は暴力団の娘でした」
そうなのか……その言葉すら、起伏がないがためわかりにくい。
「そして、人を殺すために色々なことを教えられました。それだけです」
「それだけって……」
「そえ以上も以下もないです」
俺の困惑も、動揺も興味がないとばかりに話を終えた。
俺が現世にいたときも、もっとマシな生活をしていた。
それなのに、まだ幼いこの少女は罪を犯し、感情を殺して生きてきたのか。
「でも、娘にそんな事させるのか。人じゃないね。そいつ」
「……隠し子だからだと思います。早く死んで欲しかったんじゃないですか?」
まるで小説の感想でも言うかのように言い放つ彼女をみて悲しくなった。
そして、俺はこの子を肉壁にしてしまっている。
「舞」
俺は名前で呼んだ。
彼女は、足を止める。こちらは振り返らない。
命令でも待つ、兵士のように静かだ。
「俺が守るから、後ろにいなさい」
でも、これは命令じゃない。俺の意見。やさしく諭すように言った。
「ですが、それだと依頼の達成が難しく……」
「関係ないよ、俺がどうかしていたんだ」
ポン、と頭を撫でて俺は前に出た。
奥から人の声が聞こえる。目標だろう。
「私は、それぐらいしかやれないのでっ……前に、盾になります!」
だけど、すぐには聞いてくれない。
はじめて見たわがままのような姿に、息を飲む。
「じゃあ、盾が必要ないって分かればいい?」
「へ……?」
「すぐに終わるよー」
いつもの笑顔を見せる。
懐から拳銃と、手のひらに収まるほどの瓶を取り出す。
そして、路地裏から出ていった。