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未知数な彼女と


 迷っている子を拾ったとロイスには説明を終えた。

 少し不満そうだったが、彼女は言うことを聞いてくれ俺の隣にちょこんと座っている。

「で、君はどこから来たんだい?」

「……私ですか?」

 目の前にいる転生者は、俺の出したコーヒーをダルそうに飲んでいる。

 来訪者にはどんな人間でも、丁寧にもてなさなくちゃいけない。

「うん! それはひょっとして異世界ではやっているジョークかな? ふふ」

「……」

 彼女は静かに顎に手を当てて思考。

 そして

「違います」

 と言った。……そっか、溜めて言わないで欲しかったかな。

 ちらりと彼女の服装を一瞥する。

 服装は、どこかの高校の制服だろう。可愛くリボンがあしらってあり、全体的に明るい。

 髪は肩までに切られており、あまりお洒落などに興味が無かったのか結構ぼさぼさだ。

 だけど、顔はわりかし可愛らしく、美男美女が多いこの世界でも上位にいそうな程の顔立ちをしていた。

「で、君はどんな風にここに来たんだい?」

「……」

 さっきから考えるのに時間がかかるのか、返事がワンテンポ遅い。

 それに、頑なに目を合わせてくれないのは俺としても頂けなかった。

「……た」

「……え?」

「撃たれました」

 撃たれた? 日本人のような顔をした彼女が。

「もしかして、出身は中国?」

「……日本です」

 俺も日本人だが撃たれるような事件は頻繁に起こっていた記憶がない。

 この十年の間で変わったのか?

 だけど、虚ろな瞳で告げられたその言葉は、とても嘘を言っているようには見えなかった。

「そっか」

 適当に相槌をした。

 どの道、よこにロイスが居る時点で踏み込んだ話はやめるつもりだった。

「そういえば、ロイスちゃんは何の用だったの?」

「あ、危なかった。忘れるところだった」

 彼女は、ぱぁっと顔を明るくさせてバケットをごそごそと探る。

「アーベルさんが、この人の顔を撮ってきてってさ!」

 渡されたのは、一人の男が移った魔力紙。

 要するに写真。 

 受け取り、裏を見る。

「またこの手の仕事か」

 ロイスに聞こえないように呟く。

 裏には何も写っていないように見える。

 だが、目に魔力を宿すと薄っすらと文字が浮かび上がる。

「「こいつの始末を頼んだ。 

 違法ポーションを売買している。

 数名の護衛がいる模様。

 報酬は、百万パール」」

 だるい、と言って断ろうとしたが報酬に目を引かれる。

 百万パール、日本と価値はほぼ等価なので百万。

 当分雑用をせずに、この街で暮らしていける。

「分かった、アーベルさんにはやっておくって伝えておいて」

 ロイスは笑顔で「うん」と頷き去っていった。

「バイバーイ! エイさん! 足に気をつけてね!」

「うん! 気をつけるねー」

 手をひらひらと振って一息。

 そして扉は閉じた。

「あの子。情報提供役ですか?」

「あー……うん。よくわかったね」

 このやり取りで、そう判断したならこの子は普通の子じゃない。

 撮るというのをこの国では隠語で、殺害するという。

「あたしも最初は……」

「……」

 その先を何と言おうとしたのか。

 だが、聞かなかったことにして俺は話を続ける。

「君はこれから、どうするの?」

「……」

「俺は今から、写真の相手を始末しないとだからさ」

「できるんですか?」

「へ?」  

 ぽーっと、こっちを見つめながら彼女は続ける。

「随分年もとられてるみたいですし、足も悪そうです」

 分からないようにしたつもりだったけど、ばれたか。

 やっぱりこの子は、普通じゃない。

「まぁ、大丈夫だよ。これでも、昔は凄かったんだよ!」

「……そうですか」

 少し悲しそうな姿を見せる彼女。

 どうすればいいんだ、一体。

「店先まで送るよ」

「……はい」

 


 

 

 正直この辺は、治安がいいとは言えない。

 安全な国にいくか、安全な仕事に就くまで見てあげるのがいいんだろう。

 だけどまだ俺には余裕がない。 

「あの、ありがとうございました」

「いやいいよ。いいよー」

 ペコリと頭を深く下げる彼女に、軽く返事をしておく。

 ウサギをライオンのいる檻に放るような気分だ。

「また、何かあったらさ。俺に言ってね」

「はい」  

 そう言い残し、彼女は背を向けて歩く。

 彼女……というか、名前を聞いてなかった。

「あ、そういえばなんだけどさ」

「はい?」

「君の名前ってさ何?」

 その時だった。

 路地裏から大きな影が出てきた。

「死ねやぁああああああああ!」

 視界に入ったとき、それは銃を俺に向けた男だとわかった。 

 くそ……! 完全に気を抜いてた。

 手を胸元に伸ばす。それまでの距離が酷く長く感じた。

 間に合わない。

 目を閉じて、恐怖から逃れようとする。

 轟音が俺の鼓膜を揺らす。

「くっ……」

 大量の血飛沫が俺に降りかかった。

 痛みはない。俺の血じゃない……?

 薄目を開けると、目の前には心臓からとめどなく血が溢れた彼女が居た。

「くそがっ」

 もう助からない。

 そう判断するのは容易かった。二発目が来る前に、男の前に駆け寄る。

「来るんじゃねぇよ!」

 男が引き金を引こうとした瞬間、俺は懐に忍び込む。

 接近戦に置いて、相手のリーチに入れば有利を取れることをこいつはしらない。

 いや、実戦が足りていないのだろう。

 懐から、リボルバータイプの銃を取り出す。

 仕組みは現代のものと大して変わらない。違うとすれば銃弾の仕組みだろう。

「近寄るなぁあぁあ!」

 一歩下がったのを見て、一歩つめる。

 ここは俺の間合いだ。

 男の顎に、銃を突きつける。

「悪いね。バイバイ」

 ハンマーが銃弾の裏に刻印された魔法印に反応し、けたたましい音をあげる。

 顎の下に密着させた銃口は、鉛弾を勢いよく吐き出し頭を一直線に突破した。

 これは、双硬銃術。

「まだまだ、使えるもんだねぇ」

 目の前にいる脳の機能が停止した体は、地に伏せる。

 横を見ると地に伏した、彼女の亡骸があった。

「……」

 悲しみはない。あるのは後悔と反省だ。

 この街では、いつ死ぬかわからない。過去よりも未来のためにこの事実をうけいれなくてはいけない。

 両手を合わせ目を閉じる。意味があるかなんて分からないが、せめてもの供養だ。

「何やってるんですか?」

 ほうけた声が足元から聞こえた。

 驚き目を見開く。

「あれ……君は、死んでなかったのかい」

「……は」

 彼女は、手や体をぼーっと見つめる。

「みたいですね」

 そして、人事のように呟いた。

「女神の人に、死にたくないと言ったからでしょうか」

「……そんなスキルもらえるんだね」

 ちょっと羨ましい。そんなのチートだ。

 俺なんてこの銃一つで生き抜いたというのに、バカみたいじゃないか。

「スキルとか、ステータスってみられるんですか?」

「んー。ギルドに行けばわかるよ」

「そうですか。あとで、行ってみます」

 スッと彼女は、立ち上がり歩き出した。

「どこにいくんだい?」

「……あなたの仕事を手伝います」

「俺の?」

「はい、泊めてもらった恩は返します」

 確かに彼女がいれば、負けはしないんだろうけど。

 でも、まだ能力は未知数だ。

 まかせっきりは良くないだろう。 

「分かった。でも、無茶はしないでくれ」

「はい」

 

 

 


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