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言い訳と怒声


 懐かしいねぇ。

 それから色々あって俺は、何とかこの街の隅っこで暮らせるようになった。

「十年もかかったけどね」

 誰にいうでもなく、呟く。

 こんなに年も取っちゃってまぁ……。

 空に刻まれた魔方陣は、雲のように薄っすらと消えていく。

 俺の時もあんな感じだったらしい。

 この街のどこかに転送され、置き去りにされる。

 こんな治安の悪い所じゃ誰も、手を差し伸べないから殺される。

 ここで生き延びるには、この街と生き延びると同義。

 つまり、手段を選ばないって事だ。

 ボロボロのマンションの階段を上がる。

 上には俺の事務所がある。

 この街で安らげる唯一の場所、といっても過言じゃない。

「んをぉ?」

 ここ数年で一番変な声が出た。

 俺の部屋の前で、もたれかかる女の子。

 年は、十七? 十八? ……いやわからん、最近の子は。

「大丈夫? 君」

 いつもの営業スマイルで、彼女に近寄る。

「……んぬぅ」

 反応は寝言ひとつだけ。

 これは営業妨害だし、何より俺が部屋に入れない。

 こんな街で野宿なんてすれば、雨よりも早く鉛弾が振ってくる。

 てかこれ……。

「君もツいてないね」

 薄っすらと憶えている現代社会の制服。 

 彼女は、女子高生だった。

 

 

 

 

 

 目を覚ます。 

 太陽はまだ顔をだしていない。薄っすらと、空は明るかった。 

 体は重くて動かない。

 昨日は彼女を持ち上げ、部屋にあげた。

 年頃の女の子と同じベットで寝るわけにはいかない。

 だからソファで寝ることにしたのだが……

「やっぱ、寝にくいねぇ」

 天井を見つめながらそう呟いた。

「ふむぅ……」

 ん?

 聞き覚えのある声が聞こえた。

 横をみると俺とソファーの間に挟まっている女の子。幸せそうに、寝言を言った。

 俺がベットを貸した意味がないじゃないか……。

 じっと、その顔を見つめていると、事務所の外から声が聞こえた。

「エイさーん! 居るんですよね!」

 小さな鈴を鳴らすかのような、可愛らしい声。

 きっとロイスだろう。

 幼い獣人で、たまに留守番や遊びにくる近所の子供だ。

 狐のようなピンと、張った耳とふわふわな尻尾がチャームポイントだ。

 だが今は、そんな事を考えている場合じゃない。

 それよりも俺の隣にいるこのお嬢さんをどけなくちゃいけない。

「誰ですか」

「え?」

 ふと意識を戻して、声のほうを見る。

 吸い込まれそうなほど綺麗な瞳は、俺を写している。

 だけど驚いたのは、意外と彼女は冷静だという事。

 普通の女性であれば、悲鳴の一つや二つ上げて俺は善意ある隣人達に撃ち殺されていただろう。

 冷静に判断しようとしている、彼女の顔に驚いていると。

「あれ、いないんですかー? 入っちゃいますねー」

 ロイスが許可を求めずに入ってきた。

 いやいや、ダメだよ! 

 俺の隣で寝ている少女よりも焦る俺。

 なんで焦ってるって? そりゃ……。

「あ、エイさん……と、女の人」

 ロイスの手から、手土産の入ったバスケットが落ちる。

「ま……」

「ち、違うんだよロイスちゃん!」

「また女の人と、そういうことしてるんですか!」

「違うんだってば!」

 ロイスの鋭い悲鳴と、俺の呂律の回っていない言い訳が同時に響いた。

 

 


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