村を助ける
村では、大いに歓迎された。
見知らぬ旅人だというのに、俺達三人に料理を出し、さらに踊りまで見せてくれた。
ロナとリリアはポカーンと口を開けて見ていたが、俺にはどうも嘘くさく見えてしまう。もちろん踊りが嘘だとか、料理が嘘だと言いたい訳ではなく、何かこの村の人が、村長が嘘をついていると思うのだ。
あの時、 俺達を歓迎すると言ってはいたが、その笑顔の裏では違うことを思っていたように感じた。
「そういえば盗賊の三人がいないな」
「あの人達ならさっき、村長と一緒にあっちの家に入って行きましたよ」
何か怪しい。
俺は、あまり良くないと分かっているが、「ワイヤータップ・イヤー」を使った。
簡単に言えば、盗聴魔術だ。数メートルいないの小さな音でも、壁越しでも聞くことが出来る。
音をかき分けて、村長と三人の話を盗み聞く。
『なぜまた魔物を連れてきた』
魔物、モンスターのことだろう。
つまり俺のことか。それに『また』というのが気になるな。
『すみません......』
『はぁ......なんど言ったら分かるんだ。魔物はこの村に連れてきてはいけないと』
『しかし......』
村長は、男の声を遮り続ける。
『あの時もそうだった。あのゴブリン。お前らが連れてきた、怪我をしているゴブリンだ。お前らはなぜそうやって魔物を連れてくる?』
そんなことがあったのか。ゴブリンを村に......それは危険な行為だが、怪我をしているなら別だ。盗賊だと思っていたが、そんな悪い奴らでは無いのかもしれない。
だが、村長は違った。
『村になんの利益も無いくせに、魔物なんぞ助けよって......アイツはなんだ?今度は喋る鳥の魔物か?』
やはり歓迎されては居ないようだな。これは早急に帰った方が良さそうだ。王都のことも、聞くのは諦めよう。
そう思っていたのだが、
『お前らは追放だ』
『え?』
その言葉を聞くと、そうも言ってられなかった。
『二度とこの村に顔を出すんじゃない。出て行け』
『そ、村長』
『出て行けと言っているんだ!』
そこで俺は盗聴を切った。
これ以上聞く必要は無い。
三人が何をしたっていうんだ。何も悪いことなんかしていない。魔物を、モンスターを嫌いすぎだ。
三人は間違っていない。
それを、俺が教えてやる。
「お前ら、ここで待ってろ」
「?」
「ライルさん?」
俺は、今さっき覚えたばかりの魔術を使ってみる。
「インビジブル・ムーブメント」
おぉ、これで傍からは見えないのか。
たしか制限時間とクールタイムがあったんだよな。なら今のうちに近づいておこう。
俺がどんなに羽ばたこうと、音ひとつ出ない。なんて便利な魔術なんだ。
「いた」
村長を視認。なるべく穏便に行こう。
俺だってまだ力の制御が分からない状態なんだ。もし、さっきみたいなことがあれば、今度は守れるかどうか分からない。
とにかく、力ずくは避けたかった。
だが、俺はすぐさま暴力に出る。
「ふんっ!」
隠密を解き、渾身の蹴りを顔面に入れてやった。つもりだっが、村長はそれを片手で受け止めていた。
距離を離し、一旦体制を立て直す。
「ほう、流行り魔物は魔物じゃな」
「勘違いするなよジジイ。俺はそこに倒れている三人を見なけりゃ、こんな手段は取らなかったさ」
村長の後ろで、まるで魂を抜かれたかのように倒れ込んでいる三人。俺が見ていない間に、何かされたのだろう。
「何をした?」
「追い出させて貰っただけじゃよ。ただし、この世からじゃがな」
それを聞いた瞬間。俺の目は見開いた。
鬼の形相。それに近い鳥の顔へと、変化した。鳥は人間よりも表情が無い。にもかかわらず、村長にも俺の気持ちが伝わるほどに、怒っていた。
「殺したってことか?」
「いいや、まだ魂を抜き取っただけじゃ。ま、これからじゃがの」
そう言って村長は、着物のような服の袖から、チラッと何かを覗かせた。三枚の、人型の御札だ。このタイミングで見せるということは、恐らくあの中に三人の魂が閉じ込められているのだろう。
「なら良かった」
俺は、超高速で村長の顔面間近まで飛ぶ。
容赦はしない。
「ソニック・ブレード」
発動と同時に、俺の翼は高周波ブレードのように細かく震えだした。音速で震えるその翼は、チェーンソーよりもよく切れる。
シュンッと空を切る音。
「ッ!」
この村長、どんだけ速いんだよ!だが負けねぇ。村長は最低限の動きで体をずらすことによって、俺の攻撃をかわした。だが、それを目で追っていた俺の方が僅かに速い。
「終わりだ」
二激目。初撃からの連続で、横に一閃。
するとどうだろう。村長は、さすがに対応しきれなかったようだが、腕で防御するも吹き飛ばされた。
本当に凄く速い。
だが、なんとか村長をダウンさせることが出来た。
「ぐふっ」
村長は壁に叩きつけられ、吐血する。
「無詠唱魔術か」
俺が尋ねると、村長は「クックック」と不気味な笑いを見せる。
「クイックリー・ムーブメント......これが高速で動ける理由じゃよ......それにしても、この魔術に着いてこられたのは、人間でも魔物でも、お前が初めてじゃ」
「三人を元に戻せ。話はそれから聞く」
村長は、袖から札を取り出し、空へ放り投げる。すると札は光だし、三人の肉体へと戻る。
「ヒール」
俺は村長の体を治した。村長は驚いていたが、そんなことには構わず、部屋の中へと押し入れた。
「詳しく説明しろ」
「ふん」
村長は少しまだ反抗していたが、俺の睨みつけが聞いたのか、少しずつ話出した。
「......あの三人が小さかったころ、わしはこの村の村長へとなった。この村は、夜な夜なよく魔物に襲われててな。そのせいで村人はみんな魔物が大嫌いじゃった。そんな村人達を、わしは守りたかった。しかし、あの三人はある日、怪我をしたゴブリンを連れてきた」
さっき言ってた話か。
「で、ゴブリンを追い出したかったのだが三人はそれを拒み、村は崩壊。か......」
「わしはただ、ゴブリンを元の場所へと帰して来いといっただけじゃ。それに歯向かった三人を、少し強めに怒ったのじゃが、ゴブリンは仲間意識が高くてな。助けてくれた三人を、仲間だと思ったのか、わしらを攻撃してきよった」
そういうことだったのか。
それは、誰も悪くない。三人も、村長も、ゴブリンも。誰が悪くて、誰も悪くない。
「だからわしが、悪くなるしか無い。わしが鬼となり、多くの村人達を救う。そう決めたのじゃ」
果たしてそれで村は守れるのか?
もっといいやり方があるのではないだろうか。
こうして来たのも、何かの縁だ。俺が出来ることなら、手伝ってやることにした。
「俺は魔物だ」
急な魔物発言に、村長はキョトンとする。
「そ、それは」
「だから、魔物である俺が、魔物は危険ではないと証明してやろう」
ここで俺がこの村に利益をもたらしたら、きっと村人は喜んでくれるだろう。
たとえ相手がモンスターでも、助けた恩は忘れない。まぁそれが、全てのモンスターに共通して言えることとは限らないのだが、怪我して動けないようなモンスターを、わざわざ追い出すまでしなくても良いということを教えたい。
「お前らに、王都の場所を聞きたい。その代わり、俺が食料を取ってきてやろう」
「へ?」
村長は、まだキョトンとしている。
意味がわからないといった顔だ。
「だから、お前らは俺を助けてくれ。そしたら俺が、お前らにちゃんとその恩を返す。これで俺の危険性は無くなるだろ?」
「は、はぁ。まぁたしかにそうじゃが......」
「よし、なら決まりだな」
俺は村長を置いて、部屋を出る。
そうと決まれば早速調達だ。
村長は心配そうにこちらを見て、また呼び止める。
「し、しかし」
「大丈夫だって、それに俺がここらで派手に暴れ回れば、魔物達も寄せ付けなくなるかもしれないぜ?」
これは思いつきで言ったのだが、案外良いアイデアかもしれないな。
モンスターは学習能力が高い生き物だ。
やってみる価値はある。
「じゃあな、行ってくる」
それだけ言い残し、村を後にする。
「どこへ行くの?」
「飯を取りに行く」
「もうブッファローは飽きた。他のが食べたい」
たしかにずっと同じものでは、さすがに飽きが来るな。てか、この村にあげるものなんだけど......まぁいいか。沢山獲って、ついでに俺達の分の食料も獲るか。
「それなら、新しい食材を探しましょう!」
「お、いいな。その意気だ」
なんだか、新しい食材ってワクワクするな。
気分が上がってきたぞ。
「よーし、今夜もご馳走だ!」
「「おー!!」」
俺達は翼と拳を天へと掲げ、ずんずんと森へと進んで行くのだった。