表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/56

村を助ける

村では、大いに歓迎された。

見知らぬ旅人だというのに、俺達三人に料理を出し、さらに踊りまで見せてくれた。

ロナとリリアはポカーンと口を開けて見ていたが、俺にはどうも嘘くさく見えてしまう。もちろん踊りが嘘だとか、料理が嘘だと言いたい訳ではなく、何かこの村の人が、村長が嘘をついていると思うのだ。

あの時、 俺達を歓迎すると言ってはいたが、その笑顔の裏では違うことを思っていたように感じた。


「そういえば盗賊の三人がいないな」

「あの人達ならさっき、村長と一緒にあっちの家に入って行きましたよ」


何か怪しい。

俺は、あまり良くないと分かっているが、「ワイヤータップ・イヤー」を使った。

簡単に言えば、盗聴魔術だ。数メートルいないの小さな音でも、壁越しでも聞くことが出来る。

音をかき分けて、村長と三人の話を盗み聞く。


『なぜまた魔物を連れてきた』


魔物、モンスターのことだろう。

つまり俺のことか。それに『また』というのが気になるな。


『すみません......』

『はぁ......なんど言ったら分かるんだ。魔物はこの村に連れてきてはいけないと』

『しかし......』


村長は、男の声を遮り続ける。


『あの時もそうだった。あのゴブリン。お前らが連れてきた、怪我をしているゴブリンだ。お前らはなぜそうやって魔物を連れてくる?』


そんなことがあったのか。ゴブリンを村に......それは危険な行為だが、怪我をしているなら別だ。盗賊だと思っていたが、そんな悪い奴らでは無いのかもしれない。

だが、村長は違った。


『村になんの利益も無いくせに、魔物なんぞ助けよって......アイツはなんだ?今度は喋る鳥の魔物か?』


やはり歓迎されては居ないようだな。これは早急に帰った方が良さそうだ。王都のことも、聞くのは諦めよう。

そう思っていたのだが、


『お前らは追放だ』

『え?』


その言葉を聞くと、そうも言ってられなかった。


『二度とこの村に顔を出すんじゃない。出て行け』

『そ、村長』

『出て行けと言っているんだ!』


そこで俺は盗聴を切った。

これ以上聞く必要は無い。

三人が何をしたっていうんだ。何も悪いことなんかしていない。魔物を、モンスターを嫌いすぎだ。

三人は間違っていない。

それを、俺が教えてやる。


「お前ら、ここで待ってろ」

「?」

「ライルさん?」


俺は、今さっき覚えたばかりの魔術を使ってみる。


「インビジブル・ムーブメント」


おぉ、これで傍からは見えないのか。

たしか制限時間とクールタイムがあったんだよな。なら今のうちに近づいておこう。

俺がどんなに羽ばたこうと、音ひとつ出ない。なんて便利な魔術なんだ。


「いた」


村長を視認。なるべく穏便に行こう。

俺だってまだ力の制御が分からない状態なんだ。もし、さっきみたいなことがあれば、今度は守れるかどうか分からない。

とにかく、力ずくは避けたかった。

だが、俺はすぐさま暴力に出る。


「ふんっ!」


隠密を解き、渾身の蹴りを顔面に入れてやった。つもりだっが、村長はそれを片手で受け止めていた。

距離を離し、一旦体制を立て直す。


「ほう、流行り魔物は魔物じゃな」

「勘違いするなよジジイ。俺はそこに倒れている三人を見なけりゃ、こんな手段は取らなかったさ」


村長の後ろで、まるで魂を抜かれたかのように倒れ込んでいる三人。俺が見ていない間に、何かされたのだろう。


「何をした?」

「追い出させて貰っただけじゃよ。ただし、この世からじゃがな」


それを聞いた瞬間。俺の目は見開いた。

鬼の形相。それに近い鳥の顔へと、変化した。鳥は人間よりも表情が無い。にもかかわらず、村長にも俺の気持ちが伝わるほどに、怒っていた。


「殺したってことか?」

「いいや、まだ魂を抜き取っただけじゃ。ま、これからじゃがの」


そう言って村長は、着物のような服の袖から、チラッと何かを覗かせた。三枚の、人型の御札だ。このタイミングで見せるということは、恐らくあの中に三人の魂が閉じ込められているのだろう。


「なら良かった」


俺は、超高速で村長の顔面間近まで飛ぶ。

容赦はしない。


「ソニック・ブレード」


発動と同時に、俺の翼は高周波ブレードのように細かく震えだした。音速で震えるその翼は、チェーンソーよりもよく切れる。

シュンッと空を切る音。


「ッ!」


この村長、どんだけ速いんだよ!だが負けねぇ。村長は最低限の動きで体をずらすことによって、俺の攻撃をかわした。だが、それを目で追っていた俺の方が僅かに速い。


「終わりだ」


二激目。初撃からの連続で、横に一閃。

するとどうだろう。村長は、さすがに対応しきれなかったようだが、腕で防御するも吹き飛ばされた。

本当に凄く速い。

だが、なんとか村長をダウンさせることが出来た。


「ぐふっ」


村長は壁に叩きつけられ、吐血する。


「無詠唱魔術か」


俺が尋ねると、村長は「クックック」と不気味な笑いを見せる。


「クイックリー・ムーブメント......これが高速で動ける理由じゃよ......それにしても、この魔術に着いてこられたのは、人間でも魔物でも、お前が初めてじゃ」

「三人を元に戻せ。話はそれから聞く」


村長は、袖から札を取り出し、空へ放り投げる。すると札は光だし、三人の肉体へと戻る。


「ヒール」


俺は村長の体を治した。村長は驚いていたが、そんなことには構わず、部屋の中へと押し入れた。


「詳しく説明しろ」

「ふん」


村長は少しまだ反抗していたが、俺の睨みつけが聞いたのか、少しずつ話出した。


「......あの三人が小さかったころ、わしはこの村の村長へとなった。この村は、夜な夜なよく魔物に襲われててな。そのせいで村人はみんな魔物が大嫌いじゃった。そんな村人達を、わしは守りたかった。しかし、あの三人はある日、怪我をしたゴブリンを連れてきた」


さっき言ってた話か。


「で、ゴブリンを追い出したかったのだが三人はそれを拒み、村は崩壊。か......」

「わしはただ、ゴブリンを元の場所へと帰して来いといっただけじゃ。それに歯向かった三人を、少し強めに怒ったのじゃが、ゴブリンは仲間意識が高くてな。助けてくれた三人を、仲間だと思ったのか、わしらを攻撃してきよった」


そういうことだったのか。

それは、誰も悪くない。三人も、村長も、ゴブリンも。誰が悪くて、誰も悪くない。


「だからわしが、悪くなるしか無い。わしが鬼となり、多くの村人達を救う。そう決めたのじゃ」


果たしてそれで村は守れるのか?

もっといいやり方があるのではないだろうか。

こうして来たのも、何かの縁だ。俺が出来ることなら、手伝ってやることにした。


「俺は魔物だ」


急な魔物発言に、村長はキョトンとする。


「そ、それは」

「だから、魔物である俺が、魔物は危険ではないと証明してやろう」


ここで俺がこの村に利益をもたらしたら、きっと村人は喜んでくれるだろう。

たとえ相手がモンスターでも、助けた恩は忘れない。まぁそれが、全てのモンスターに共通して言えることとは限らないのだが、怪我して動けないようなモンスターを、わざわざ追い出すまでしなくても良いということを教えたい。


「お前らに、王都の場所を聞きたい。その代わり、俺が食料を取ってきてやろう」

「へ?」


村長は、まだキョトンとしている。

意味がわからないといった顔だ。


「だから、お前らは俺を助けてくれ。そしたら俺が、お前らにちゃんとその恩を返す。これで俺の危険性は無くなるだろ?」

「は、はぁ。まぁたしかにそうじゃが......」

「よし、なら決まりだな」


俺は村長を置いて、部屋を出る。

そうと決まれば早速調達だ。

村長は心配そうにこちらを見て、また呼び止める。


「し、しかし」

「大丈夫だって、それに俺がここらで派手に暴れ回れば、魔物達も寄せ付けなくなるかもしれないぜ?」


これは思いつきで言ったのだが、案外良いアイデアかもしれないな。

モンスターは学習能力が高い生き物だ。

やってみる価値はある。


「じゃあな、行ってくる」


それだけ言い残し、村を後にする。


「どこへ行くの?」

「飯を取りに行く」

「もうブッファローは飽きた。他のが食べたい」


たしかにずっと同じものでは、さすがに飽きが来るな。てか、この村にあげるものなんだけど......まぁいいか。沢山獲って、ついでに俺達の分の食料も獲るか。


「それなら、新しい食材を探しましょう!」

「お、いいな。その意気だ」


なんだか、新しい食材ってワクワクするな。

気分が上がってきたぞ。


「よーし、今夜もご馳走だ!」

「「おー!!」」


俺達は翼と拳を天へと掲げ、ずんずんと森へと進んで行くのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ