戦闘
どうやら俺はまだまだ便利な魔術を使えるらしい。
さっき本に書いてあったのだが、この探知魔術であるディテクション・アイの有効範囲を限界まで広めることが出来るらしい。
ただしその代わり、はっきりとした位置や生命の反応数は分からなくなるが、どちらの方向に反応する生命がいるのかまでは分かるらしい。これでざっくりと、生命反応の多い場所が特定出来るわけだ。
「よし、なんとなくの場所は掴んだぞ」
「おぉ......」
「これで行くべき方向は分かりましたね!」
幾分かマシにはなったが、この反応の遠さから察するに、相当な長旅になる。
やはり俺がついて行かなくては、二人が死んでしまいそうだ。
「こちらに来る際には、携帯食糧を持っていたのですが、それももう無くなっちゃいました」
「ほぼ私が食べたんだけどね」
「もう!」と、リリアが怒る。こうして見ていると、とても仲がいいのがわかる。
「ふざけてるのも良いが、ここからは長旅だ。何があるかは分からない。気を引き締めて行くぞ」
俺は、まだあるブッファローの肉を荷車に乗せる。この荷車は、俺が創造したものだ。
しかし、さすがに馬などは出せないのでロナかリリアに引っ張って貰うことになる。
「本当は俺がやってやりたいのだがな、何せこの体だからな」
そのことをロナとリリアに説明する。
ロナはアタッカーで、ヒーラーのリリアに比べると、体力面や力で勝っている。だから、俺的にはロナが引くと持っていたのだが。
「嫌だ」
ロナは、「だって重いもん」などという子供のような発言をする。
「しかた無いなぁ......」
しぶしぶ俺が引くことになった。
体に紐をくくりつけ、それを荷車に付ける。
これで俺が飛べば、荷車を引っ張れるはずだ。
「ほっ」
思ってたよりも辛くない。これならしばらくは引っ張って行けそうだ。
「よし、それじゃあ出発するぞ」
「おー!」
「お、おぉ......」
二人は元気よく歩く。
俺達の旅は、こうして始まった。
王都へ向かって歩き始めて、二時間ほど。
そろそろ俺の体力にも限界が来ていた。
「俺達の旅は、はぁはぁ......まだ始まったばかりだ......はぁ」
お決まりのセリフを言ってみるが、なんの回復にも繋がらない。
やはり鳥が荷車を引くこと自体、間違っていたのだ。
「おいお前ら......そろそろ代われって......」
なんで荷車に乗ってんだよ…...。
「えー、疲れたー」
いや、俺の方が疲れてると思うけど。
まぁ、魔王の力を持っている俺とただの人間の女の子じゃあ、体力差があっても仕方の無いことだが。
「そろそろ休憩にしないか......?」
二人は「うんいいよ」と許可をしてくれた。
俺じゃなかったらキレてるだろうな。
俺達は、近くにあった木陰で休む。
森を出てからというもの、道という道はあまりなく、途切れ途切れだった。
たまに水辺は見るが、生き物は少ししかおらず、食料調達もまともに出来ていない。
周りを見渡しても、木がちらほらと生えているだけで、大草原に申し訳程度しか無い。
「ふぅ」
俺は、鳥らしくない格好で寝転がった。
羽を大いに広げ、大の字になる。
「あとどれぐらいなんだろうな」
半分独り言のような呟きだったが、ご丁寧にリリアが応えてくれた。
「この調子なら、今日中に着いても良さそうですけどね」
まだそんなにあるのか。よくここまで歩いてこれたな。まったく、体力があるのかないのかハッキリしないなぁ。
「私達は転送で来たので、正確な距離は知りませんが」
「!?」
転送!?ワープってことか?
おいおい、そんな魔術があるなら先に言ってくれよ。
「なら、転送してもらおうよ。俺はもう無理だ」
「それが出来ればここまで歩いてきてません。転送は、術者のすぐ近くからしか出来ません」
なるほどなぁ。ま、それもそうか。結局、俺達は歩いて王都へ行く運命だということだ。
久しぶりの疲れのせいか、少し眠ってしまったようだ。
起きた時には、特に事件は無かった。
最近何かと多いからな、そういうの。俺が起きる度にトラブルが発生している。
「さてと、もうあと一時間くらいは飛べるかな」
俺は、鳥のようにテクテクと歩いく。まぁ鳥なんだけど。
紐を荷車にくくりつけ、二人を起こそうとしたその瞬間。
急に物音がした。
パカラッパカラッと馬の走る音。それと、荷車の車輪の回る音。そしてそれらが通り過ぎたと思ったら、俺達の荷車から物が落ちた。
「あぁ」
すぐに拾う。しかし、何かが足りない。あれ?こんなに物少なかったっけ?辺りを見回すが、他に何も落ちていない。無い、無い、俺の大事な本と食料が無い。
まさか!
俺はすかさず鳥の目で見る。
「やられた!!」
さっきの奴らに盗られてしまった。
追いかけるしかない。
「二人とも早く乗れ!荷物を盗られた!急げ!!」
俺の大声で既に少し目を覚ましていた二人が、眠気眼をこすりながら荷車に乗り込む。
アイツらめ......しかしおかしい。横を通りかかるまでその存在に気付かなかったとは......。隠蔽魔術か何かか?
「飛ばすぞ!捕まれ!!」
俺は全力で飛ぶ。荷車がほぼ浮いている状態になるが、そうでもしなければ追いつけない。
さっきまでの疲れようは、まるでなかったかのようなスピードだ。
「うわあぁぁああ!」
「もうちょいゆっくり!もうちょいゆっくりでお願いしますぅ!」
二人が喚こうが構うもんか。
本もまずいが、貴重な食料が取られるのは非常にまずい。
俺は、魔術で速さを強化する。
「エンハンス・スピードォ!!」
ぐんぐんと相手の荷車に近づいていく。
凄い勢いで近付いてくるこちらに気づいたようだ。
「止まれ、盗賊!俺の本と食料を返せ!」
完全に並走し、横から怒鳴りつけてやる。乗っているのは男二人と女一人、合計三人だ。
「まぁ止まるわけ無いよな」
やめろと言ってやめるなら警察は要らない。
そんな反抗的な奴らには、軽くお仕置きをしてやる。
「フローズン・アロー!」
俺は、口から氷の矢を発射し、見事に相手の荷車へと命中させた。
すると命中した矢の氷は、広がりだし、あっという間に荷車の機動力を奪ってしまった。
車輪ごと凍らせてあるので、もえ高速で逃げることは出来ない。
急に動かなくなった荷車に驚き、馬は転倒する。
力ずくだったが、足止めに成功した。
俺も、荷車をゆっくりと減速して行き、Uターンして戻ってくる。
「おい、お前ら」
俺は、倒れて動けない男の、頭の上に乗る。
「チッ、なめるな!!」
男は怒り、俺を捕まえようとする。だが、それよりも先に俺は飛び、かわす。
三人は立ち上がり、戦闘態勢に入る。腰の剣を抜き、盾を持つものは盾を構えた。あまりいい装備とは言えないが、要注意だ。
ロナとリリアは、まだ後ろでダウンしているな。仕方ない、俺が一人で相手してやるか。
こんな風に、対人戦となったのは初めてだ。もちろん、前世でも無い。勉強も運動も普通、特に優れている所は無いただの平凡な男だったが、今は違う。
魔王の力を受け継いだ最強の鳥だ。
怖いものは無し!
「うぉぉおおおお!!」
俺は、今の俺の出来る最大の魔法を放つ。
「アブソリュート・ヴォイド!!!」
その時、俺は誤ちに気づく。
俺の頭上には、黒いエネルギーの塊みたいなものがある。それが一気に縮み、小さな白い玉となった。
あ、やべ。
やり過ぎた。
小さな玉は、ゆっくりと三人の方へ放たれる。
三人は、あまりの遅さに戸惑ってしまい、逆に動けていない。
「ヤバい!伏せろ!」
自分で放っといてなんだが、これでは本当に殺してしまう。そこまでやる必要は無いので、なんとかして守ろうとする。
「フォース・シールド!!」
良し、三人ともシールド内に入れた!
幸いなことに、アブソリュート・ヴォイドの球よりも夙くシールドを展開できた。
そして、小さな球は地面へと直撃。その瞬間、轟音とともに、辺り一面が光に包まれた。
シュゥゥという音を立てながら、煙が舞う。
俺は、羽を思いっきり振って風を起こし、煙を追い払う。
「おーい、大丈夫かー?」
しばらくすると、シールドに包まれた三人の姿が見えてきた。
良かったぁ、無事のようだな。
「て、あれ?」
三人は、あまりの怖さのせいか、気絶していた。
「うーん......起きるまで待つか」
ちゃんと謝りたいし、王都への道のりも聞いておきたいしな。
それよりなにより、
「この技は封印しておこう。必殺技にしても、少し威力がありすぎる」
本に書いてあった中で、一番強そうなのを使ってみたのだが、少し強すぎた。
半径約五百メートルほどのクレーターが、それを物語っている。
俺は再び木陰へと移動し、ロナとリリアの二人と、盗賊の三人が起きるのを待つことにした。
今度は寝なかった。
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