迷子
目が覚めた時、俺は見知らぬ場所にいた。
そりゃあ異世界なんだから、見知らぬ場所の何がおかしいんだ。場所どころか、何も知らない。しかし、そういうことを言いたかったわけではない。
賢者の部屋でなければ、魔王の部屋でもない。俺の記憶が正しければ、昨日最後に寝たのは森の中。そうだ、ミニキャンプファイヤーをした後に、そのままその場で寝てしまったんだった。だから見知らぬ場所。
だってここは、洞穴の中なのだから。
奥には続いていない。もちろん、部屋なんかない。
ただ、なぜか周りが明るい。鳥の目のせいではなく、何かの光だ。
そして背中が熱い。まるで焼けるような......
「って熱っ!!!」
「うわぁあ!」
「うわぁあ!?」
「どわー!!」
なんだこれ。
下を見たら本当に背中が焼かれていた。
その声に驚いた人が声を上げて、さらにそれに俺が驚き、さらにさらにそれに......って何説明してるんだ俺は。
とにかく、俺は羽と足を棒にくくりつけられて焼かれていた。まるで豚の丸焼きのように。
そして、周りに人がいた。二人ほど。
「ロナ、今何か喋らなかった......?」
「えー、鳥は喋らないよ?きっと気のせいだよ。早く食べよ!」
マジかよ......俺の人生、いや鳥生はここで終了か。思えば短かったなぁ......じゃなくて、死んでたまるか!
「あ、あの!食わんといてください!」
「うわぁああ!!やっぱり喋ったよぉ!」
「あははは!本当だー!」
俺は無事救出され、鳥の丸焼きにはならずにすんだ。危なかったぁ。
「へぇ、喋れる鳥かぁ。珍しいな!」
「ま、まぁね。ところで、なんで俺を食おうと?」
「え?そりゃあお腹空いたら食べるでしょ」
まぁ分かってたけど、そうだよな。俺鳥だもんな。次から絶対に森では寝ないでおこう。
「それで、君達人間だよね。こんなところで何してるの?」
「んー、何って......」
二人は、顔を見合わせて少し考える。
「迷子?」
いや、俺に聞かれても。
どうやら迷子らしかった。
「なぜここまで?」
「いやぁ、なんか凄い勢いで街を出て行った三人組がいてさ、その人達を追いかけて来たんだけど、途中で見失っちゃって」
「気づいたらここにいました。それで仕方ないので洞穴を見つけて、一晩過ごそうとしたのですが、お腹が空いてしまって......」
そこら辺に落ちてた俺を捕まえたと。なんたる幸運なんだろうか。
ん、待てよ?
「その三人組ってもしかして、ディミトリーとオラースとレティシアか?」
当たりだったらしく、二人は明るい顔をした。
「それそれ!その人達だよ!いやー鳥さんの知り合いだったのかー」
「これでやっと帰れます......」
え、いやいや待て待て。何もう帰れるみたいな雰囲気出してるの?俺はただ知ってるって言っただけだぞ。
「たしかに三人は知ってるけど、昨夜にもう王都へ帰ったよ」
「「え?」」
二人は目を丸くした。人間はよく目を丸くするな。
「なんでそれを早く言わないの!?ほらリリア、急いで行くよ!」
「え、ちょ、ちょっとロナ!」
リリアと呼ばれる女の子は、ロナという女の子に手を掴まれ、無理矢理引っ張られる。
お急ぎのようだ。
「じゃあね、鳥さん。またいつか〜」
「おう。別に良いけどさ、帰り道分かってる?」
ビクッと、ロナの体が跳ねた。
これは、完全に迷子のパターンだ。
こちらを振り向き、何かをねだるような顔をする。しかし、
「言っておくが、俺は王都への道のりは知らないぞ」
「そ、そんなぁ」
聞いても教えて貰えなかっただろうし、こればっかりは仕方が無いだろう。
とんだ入れ違いになってしまったな。
「うぅ......」
一気にテンションがガタ落ちになる。
そんなロナを慰めるように、リリアは背中を撫でてあげていた。
「元気出して、またいつか迎えに来てくれるよ」
「いつかっていつ?」
「わ、分からないけど......いつか!」
慰め方が下手くそだ。
「どうしよう......二人じゃ狩りは出来ないし、寝るところすらないよ」
二人は半泣きになりながら、絶望的状況下にあることを確認する。
そうか、狩りが出来ないから落ちていた俺を捕まえたわけか。まぁ出来てもそうするだろうが。
たしかによく見れば、昨日の三人組に比べて、装備がショボイ。武器も短剣と杖のみで、盾などは持っていない。
見習いか。
「あー、じゃあ俺の所来るか?」
「え?」
「しばらくの間は俺がお前らの面倒を見てやる。飯も寝床もある。ただし、王都に着くまでだけどな」
パァッと、一気に顔の表情が明るくなり、二人は飛び跳ねながら大喜びした。
「やった!やった!ありがとう!でも、王都への道のりは知らないんでしょ?」
「まぁな。けど、見つければ良いんじゃないのか?」
と、軽く言ってみたものの、そんなあまいものじゃないよなぁ。
ここから王都までどれほどの距離があるのかも知らないし、きっと長旅になる。しかし、このまま二人を放っておくわけにもいかない。
「よし!そうと決まれば家へ行くぞ。飯なら昨日の残りがあるし、旅に出るとしても朝になってからだな」
俺は、二人を賢者の部屋へと案内した。途中の山道は少しキツそうだったが、これくらい登れなければ長旅は出来まい。そもそもここまで歩いて来たらしいし、体力的問題は無いだろう。
部屋に着くと、二人は「ふぅ」と安堵の息を漏らした。
「それじゃあ、あまりにも急でまだ自己紹介してなかったな。俺はライルだ」
「あたしはロナ、ロナ・フローエ。よろしくね!」
「私はリリア・ヒューミリーです。よろしくお願いします」
元気な方がロナで、大人しい方がリリアだな。
そういえばこの二人は、あの三人とは違って、俺のオーラを感じていなかったな。ちゃんと消せている証拠だな。あるいはこの二人が、単に鈍感過ぎるだけか。どちらにせよ、魔王のことで勘違いされていないのは嬉しい。
「これからよろしくな」
俺は二人に、昨日の残り物だがブッファローの肉を分けてやった。二人も腹が減りすぎていたせいか、とても美味しそうに食べてくれて、見ているこっちまで嬉しくなってしまった。
明日からは王都の旅だ。
俺も、この世界のことをもっとよく知りたいし、ちょうどいい機会だ。問題は、どうやって王都の場所を知るかだが、それは明日考えよう。
ひとまず今日は、二人の話を大人しく聞いていた。