食事
「はっ!」
「おりゃあ!!」
「ふんっ!」
おー、あんな感じで闘うのか。なんか、あんまり魔術使わないなー。
俺の想像では、もっとガンガン魔術とか使って、The・ファンタジー!って感じだったんだけど......
まぁそれでも、ちゃんと剣撃は当たっているし、防御も出来ている。ちゃんとチームになってるなぁ。
それに比べて俺はというと。
「フレア・アロー!」
と、牛みたいなモンスターに炎の矢を撃ち込むだけだ。
「ブッフォオオオ!!」
モンスターは大声を上げ、倒れ込む。
普通は魔術を使いすぎると、魔力切れを起こすらしいのだ。だから、人間はあまり魔術を使わずここぞと言う時に使うと聞いた。
だが、俺は魔王から貰った魔力量だ。
全く減る気配がない。
「はぁはぁ、さすがにブッファローの群れはキツイです......」
「おい見てみろよ......ライルのやつ、全く息切れしてねぇぞ」
「ずっと空中にいて攻撃を受けないとはいえ、私達の三倍は仕留めてるわ......」
三人とも、辛そうにはぁはぁと息切れをしている。
うーん......さすがにこんなに沢山は食べ切れないかもしれないな。
あまり取り過ぎないようにしないと。
鳥だけに。
「みんな、ここらでやめにしよう」
俺の声を聞いた途端。三人とも、吊られていた糸が切れるかのように倒れ込んだ。
「ぶわぁぁぁ」
「疲れたぁ」
「こんなに動いたのは初めてなんじゃないか?」
ええ、そうなの?三人は冒険者らしいんだけど、冒険者ってもっと過酷なことをしていると思っていた。
「うん、これくらいあれば充分だな」
俺と三人が仕留めたのを合わせると、約四十頭ほどか。やはり少し狩りすぎたかもしれん。
「ちょっとやり過ぎたな。まさかこんなに簡単に倒せるとは思ってなかった」
と俺が言うと、三人は目を丸くして俺の方を向いた。なんだその驚愕って顔は。
「ブッファローは中級のモンスターですよ!まぁたしかに中級の中では下の方ですが......」
「その分美味しいけどな!」
へぇ、そうなのか。前世ではバッファローの肉を食べたこと無かったし、どんな味なのか楽しみだ。
「じゃあ、早速料理して貰おうかな」
「おうよ!任せな、このために人間ってのは器用に出来てるんだぜ!」
「アンタは不器用だけどね」
レティシアは、優しいチョップをディミトリーに食らわせる。和むなぁ。
俺も前世は人間だ。少しくらいは料理の作り方を知っている。しかしこの鳥の体じゃあ、料理を作ろうにも作れないからな。
そこで、人間の三人組に代わりにやって貰うのだ。
「そうですね......ブッファローの肉だけでも美味しいとは思いますが、おそらく物足りなくなるでしょう。ディミトリー、そこら辺の木になっている胡椒を取ってきてください」
「あいよ」
胡椒?胡椒って、この世界でも実なのか。
しかし、どこに行ってもやはり調味料は欠かせないな。
「私は肉を切って来ますので、レティシアは火をおこしておいてください」
「りょうかーい」
「......」
何か、俺にも手伝えることは無いだろうか。鳥の体でも、出来ることの一つや二つくらいあるはず!
そう信じて、三人に聞いてみたが
「いいよいいよ、ライルは沢山狩ってくれたし」
うーむ......少し納得はいかないが、まぁ仕方あるまい。次に何かすることがあったら、手伝うとしよう。
そして、肉を焼き始めた。
パチパチと音をたてるミニキャンプファイヤーの周りに、串を刺した肉を突き立てる。
おー、これはよく見るヤツですな。
ちなみに串は、木を魔術で削って作った。
「美味しそうだな」
見ているだけで、ジュルっとヨダレが垂れてしまいそうになる。また、久しぶりの食事でもあるので、より一層美味しそうに見える。
「よし、もういいぞ」
そう言ってディミトリーが、肉に胡椒をかけてから、俺に一本渡してくれた。
「いいのか?」
「あぁ、腹減ってるんだろ?」
なんて優しい奴らなんだ。気が利くぜ。
この世界の人間は、もしかしたら俺が居た所の人よりもずっと優しいのかもしれない。
「ありがとう」
手がないので、足で受け取る。鳥は、特に鷹などは、器用に獲物を掴んで食べることが出来る。
俺はガブリと食いつく。
「う......」
「「「う?」」」
「うっまぁああい!」
心の底からの叫びだった。本当に美味しい。
空腹は最高の調味料とも言うが、こんなに美味しい肉は、前世ではありつけなかった。
といっても、別に家は貧乏では無かったし、ごく有り触れたものを食べていたのだが、ただ単にこの世界の肉が美味しいだけだろう。
「こんなに美味いのは初めてだ!ありがとうな!みんな」
「お、おう......」
「喜んで貰えて、嬉しいわ......」
あれ?ちょっと引いてる?
「うん、たしかに美味しいです。それにしても、少し多過ぎますね......」
「お前らが帰る時のお弁当にでもすればいいよ」
「オベントゥ?」
お弁当知らないのか。えーと、お弁当ってなんて言えばいいんだ?
「携帯食糧だ、携帯。持って行ってくれ」
「あー!携帯食糧ね。って良いの?貰っちゃって」
いいに決まっている。別に俺一人のものじゃないしな。それに、何度も言うがこんなに沢山は食べきれない。
「なら、お言葉に甘えさせて貰います」
「おう。あ、なら持ち運べる物が必要か」
俺は少し考える。だが、どう頑張っても効果の長続きする袋などは魔術で作れない。
この世界にもゲームみたいに、アイテムボックスみたいなのがあれば良いのに。インベントリ機能とか。
「それなら、私の魔術で」
そう言ってレティシアは、詠唱を始めた。
「クリエイト!」
するとレティシアの目の前に、大きな箱が現れた。
「はぁはぁ」
またレティシアは息切れをしてしまう。魔力を使い果たしたようだ。
「これは?」
「箱よ。本当は馬車でも作れたら良いのにね......私にはこれが限界」
馬車だって?そんなものも作れるのか。
そいつは便利だな。
「なんて言う魔術だ?」
「クリエイトって言うシリーズの魔術で、自分の想像した物を創造出来るの。ただし魔力量以内でね」
だからこの箱はこんなに透明なのか。しかし、魔力百パーセントの物質を作るというのは、相当想像力が必要になるだろう。
「想像する力が強ければ強いほど、もっと複雑なものを作れるわ」
少し試してみよう。俺は目を瞑り、想像力を働かせる。集中しろ、考えるんだ。
「クリエイト......」
唱えると、俺の目の前に大きな手引き車が現れた。手引き車というのかは知らないが、あの人や荷物を後ろに乗せて引いて動かす奴だ。馬車の車の部分。
「あ......あ、あ」
声にもならない声で、再び三人は目を丸くして驚く。これで二回目だ。
そんなにか?
「ふぅ、結構キツイな。これでどうだ?持ち運べるか?最悪、俺が飛んで持ってくけど」
「い、いや。どうだって言うが......」
「もはや俺達とは次元が違うようだな」
またまた〜お世辞がお上手なこと。
「ここまで精密に再現するとは、驚きだ。それにこの大きさ。さっき闘っていたばかりだというのに、なんという魔力量......」
また引かれてしまう。そんなに凄いことなのか?中学校、高校と想像は得意としてきたけれど、生まれてこのかた一度もそれを生かせたことは無い。だがついに、ここで役立つ時が来たってわけだ。
「あ、ありがとう!」
「礼は要らないよ。けどもう夜も遅いし、今夜は泊まって行くか?」
泊まって行くなんて言っても、どこにもそんな部屋はないのだけれど。ついつい人間の時の癖で言ってしまった。
まぁ、寝泊まりできるとしたら、賢者の部屋くらいかな。
「いや、俺達は夜に出ていくとするよ。王都は遠いんでね、どうせ歩いてても日が暮れちまう」
「そうか」
少し、寂しいな。俺も出来れば王都までついて行きたいのだが、それを薦めないということは、おそらくまだ問題があるのだろう。
この人たちが俺のことを分かってくれても、王都の人はまだ俺を知らない。俺が本当に害のないモンスターだと分かって貰えるようになるまでは、人間への接触を避けよう。
「よし、じゃあ行くか」
「もう行くのか」
「あぁ、悪いな。本部に早めにものどれって命令されてるし、肉も腐っちまうしよ」
それなら仕方無いな。
寂しくはなるけど、またそのうち会えることを祈ろう。
「悪いな、色々と手伝わせちゃって」
「良いってことよ。また縁があったら会おうぜ」
俺と同じことを考えてくれている。やはり、この世界の人間が大好きだ。
俺は、幸せな世界に来たのかもしれない。
「じゃあな、ライル。世話になった」
「短い時間でしたが、楽しかったです」
「バイバイ、またいつか」
三人は、俺の作った引き車に肉を乗せ、歩いて行く。
後ろで見送る俺に、手を振ってくれる。俺も思わず手を振ったが、羽をバサバサとさせるだけ。だがもう、自分が鳥だということも忘れてしまうくらいに、慣れてしまった。
「ありがとうな!」
俺の声が、もう届かないくらいに遠くなってしまった。
三人が居なくなった森は、とても静かだ。
まるで、お祭りの後みたいに。寂しくて、とても愛しい。人間が、愛しい。
「これからどうするかな......」
お腹が膨れると、眠くなってしまった。これは人間の時もそうだった。鳥も同じなのかな、それとも人間の頃の癖なのか。
どちらにせよ、俺はその場で眠ってしまった。
賢者の部屋では無く、真っ暗な森の中で。