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魔王

『誰だ』


うぉお!?

思わず飛び起きた。


『貴様、何者だ?』


脳内に直接声が聞こえる。何だこれ。

俺のことを言ってるんだよな......


『ふん、山の頂上まで来い』


脳内の声は、それだけ言ってプツリと切れた。まるで電話だ。

山の頂上?普通はこんな怪しいことは避けるのだが、今は異世界で興奮してるためか、なんでもできる気がする。興味本位で行ってみることにした。

バサバサと飛び、頂上に着く。

頂上ってここら辺のはずだが......

俺は、頂上と思わしき場所に降り立つ。すると地面が魔法陣の形に光出した。

うお、うおおおおおお!


転移魔法。みたいな感じだと思う。

俺の体は光に包まれ、別の場所へと送り込まれた。

目を開けるとそこは、暗めの部屋。

正面にはとても大きな椅子が置いてあり、黒い巨人が座っている。マジかよ......これ絶対魔王じゃねぇか。


『ようこそ、我が魔王城へ。私は魔王イーヴル。といっても、鳥には分からぬか』


やっぱり魔王だったか。驚きはしたが、しかしよく見ると何かに拘束されている。

まるで動けないように見える。


『いや、ただの鳥ではないだろう?貴様は自分の意思で転送ゲート近くまでやって来たように見えたが。それに貴様、見たことの無い魂だ』


魔王ってのは、生で見ると迫力が違うなぁ。で、俺のことを何となく分かっているような言い方だな。どれ、ここらで一つ尋ねてみるとするか。この世界の魔王なら、何か知っているかもしれないしな。


「あ......あ、が......」

『ん?』


上手く喋れない。言葉を発せないというのは、思っていたよりもずっと苦痛なものだった。


『ハッハッハッ!まさか貴様喋ろうとしているのか?ハッハー!面白い!どれ、少し手を貸してやろう』


そう魔王が言った途端、俺の舌の動きが柔らかくなった気がした。


「あ、あーあー」


おお!これなら話せるぞ!


「えー、初めてまして魔王様。これでよろしいでしょうか?」

『......!驚いたぞ…...まさか本当に喋りおったとはな。たかが低級の雑魚モンスター風情に、思考能力が備わっているとは』


凄い言われようだ。それに、どうやら俺は雑魚モンスターらしい。少し期待していたのだが、残念だ。


『貴様何者だ?』


あー、やっぱり聞いてきますよね。俺は、隠すかどうか迷ったが、元の世界への戻り方を知るには、その経緯を説明しなくてはならない。本当にのことを話すべきだろう。

嘘ついたら殺されそうだし。


「えーとですね、俺は転生者なんですよ......元は人間だったんですけど、事故で死んじゃって。気づいたら鳥になってました」

『ほう。そういえば我をこうして封印したのも、その転生者とやらだったな』


俺以外にも転生者はいるのか。というか、魔王様封印されてるの?


『それで、そんな貴様に頼み事があるのだが』


頼み事?魔王に出来ないことなどないと思っていたのだが......さっきの部屋の本にも書いてあった通り、魔王とは絶対的強者。魔王に出来ないことは無いとのことだ。そんな魔王が、俺のような下級モンスターに頼み事......


「なんでしょう?」

『我の力を貰って欲しい』


え?


「それはどういう......」

『そのままの意味だ。我はこんな状態でも、力を与えることぐらいは出来る。いらんのか?魔王の力は』


いやいや。ちょっと待ってください。いるいらない以前の問題で、なぜ力を与えるなんて言うのか、それが気になります。


「なぜ力をくれるのですか?」

『ん?あぁ、飽きた』

「え?」


今度は口に出てしまった。


『もえ長年ここに閉じ込められていてな。さすがに飽きてしまったのだ。つまらん。だから、そろそろ死なせて欲しい』


なるほど。魔王様はずっとこの部屋に閉じ込められていたのか。そんなの、俺だったら耐えられるわけがない。一日でも辛いと思う。


『だが、我は最強だ。我を殺せるものはいない。あの勇者でさえも、封印するしか無いくらいにな』


強すぎて倒せなかった。だから封印か。そんな生き地獄、残酷すぎる。

俺は魔王がどんな悪さをしたのかを知らない。あるいはしていないのかも知れないが、こんな風に永遠に封印され続けるのは、さすがに可愛そうだ。


『そこでだ。我の力を貴様に譲渡すれば、貴様は我に匹敵する。いや、それ以上の強さになる。そして我にトドメを刺して欲しいのだ』

「良いんですか......?」


そりゃあたしかに良いアイデアかもしれないけど。探せばもっといい方法もあるかも知れない。いや、もう探し尽くしたのか。俺なんかが想像つかないくらい、長い時間を、魔王はここで過ごした。


「俺なんかが、力になれれば......」

『本当か!?助かる』


魔王は本当に嬉しそうだった。暗い中でも見える俺の目で、しっかりと魔王を見た。


『それでは、力を譲渡しよう』


ふんっと、魔王は力を込める。すると、ハッキリと感じる。大量の魔力が流れ込んでくるのを、凄い力が湧いてくるのを感じる。

これが、魔王の力......。


『はぁ......これで貴様に全て渡した。短い時間だったが、少し楽しめたよ』

「ありがとう。魔王様、俺はこういうのは初めてで、上手く言えないけど」


俺は思ったことをそのまま言った。


「良い転生が出来るといいな!」


魔王は微笑んでれた。そうなんだ......こんな魔王もいるんだ......。案外優しい魔王だったのかもしれないな。


『最後に名を聞いておこう』


名前か。前世では羽鳥(はとり) 鳥羽(とば)という名前があったのだが、この世界に適して無いな。


「そうだ、どうせなら魔王様が付けてくださいよ。まだこの世界での名前は無いんです」

『ふん。鳥の分際で生意気なものだ。だが、良いだろう。この我が直々に命名してやる』


俺は鳥だから、鳥っぽい名前の方が良いのかな?そもそも俺はなんて種類の鳥なんだろう。


『そういえば、貴様はエンペラーイーグルという名前のモンスターだったな。現世で、それに似た生き物はいないのか?』


エンペラーイーグルか、てことは鷲かな。


「鷲という鳥がいますね」

『ワシか......ワシ、ワシ』


すごくよく考えてくれている。なるべくカッコイイのにして欲しいなぁ。


『なら、ライルなんてどうだ?』


鷲関係ねぇー。エンペラーイーグルを適当に略しただけじゃねぇか。別に良いけど......まぁまぁカッコイイし。


「うん、気に入った!すごく良い!」

『そうか!ハッハッハッ!』


魔王はまた笑った。なんだか、話していて楽しいな。本当に、殺さなくてはならないのか。

それでも、本人がそう望むのなら俺は。


『これでもう思い残すことは無い。さぁ、殺ってくれ』


魔王は目を瞑り、覚悟を決める。いや、覚悟なんてもうとっくに決まっていたのだろう。

俺は魔王の側まで飛んで行き、その巨体の上に降り立った。


「行くぞ。魔王」


俺は覚悟を決め、詠唱を唱える。魔王に貰ったこの力で、出せる限りの最大威力の魔法。

まさか初めて使うのが魔術ではなく魔法とはな。とんだ偶然だぜ。


「光よ、その力は闇を消し去り、太陽よりも輝く力、万物を照らしだし、この手に宿れ!」


俺は飛び上がり、口を開く。詠唱を終えると、くちばしから光が漏れだし、 力が溜まる。


「シャイニングブラスト!!!」


魔王ってのはだいたい闇属性な気がする。だから、なんとなく光属性の魔法を放つことにしたが、思ってたのよりも魔力量が多い。


『ライルよ、本当に』


発射。光の渦が、魔王の体へと向かう。


『ありがとう』


直撃し、一気に吹き飛ぶ。俺は思わずその威力に驚いて、少し引いてしまったが、こうでもしないと魔王は死なない。


「うおおおおおおお!!!」


ブワッと、全てを消し去った。光の眩しさで、自分も見えなくなるほどだった。


目が開けるくらいに落ち着いたころには、もう魔王の姿は無く、魔王の封印されていた場所ごと無くなっていた。

俺はただ一人、山の頂上でうなだれていた。


「こちらこそありがとうな」


ああ、鳥になっても悲しさはあるんだな。

鳥はただ、空を飛んでるだけで楽そうだなと。楽しそうだと思っていた自分が恥ずかしい。

魔王イーヴルよ。俺はお前の分まで生きる。お前の力で、お前と一緒に生きていくよ。

そう心に決め、心を落ち着かせた。

一段落ついたところで、お腹が空いたことに気づく。

そういえば、転生してから何も口にしていなかったな。

せっかく魔王に貰った力だ。狩りに利用させて貰おう。

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