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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕が優しくなれるまで

作者: 十三使徒

 肩がじくじくと痛みました。

 でもそんな痛みよりも、僕はとても空っぽなことが気にかかりました。



















































 僕は高校生です。高校二年生です。

 大学進学のための特進クラスに居て、ちょっと頭がよくって、ちょっと体が強いです。

 人よりハンデを持ってますが、人並みの自己肯定感を持っています。その分自己否定感もあります。普通の人間です。普通の女の子です。


 僕は口が悪いです。自慢じゃないですが、男の子とじゃれる方が向いた性格をしています。ちょっとした習い事もやっているので、喧嘩も慣れている方です。

 僕は記憶力が人並み以下です。人の名前と顔が中々一致しません。興味の沸かない歴史などは特に点数が上がりません。それと同じように、クラスメイトの大半は僕の記憶にありません。意識にも入りません。それが僕にとっての普通です。

 僕にとっての普通は、他の人からは"変"なものらしいです。少し悲しいですが、僕が僕であるために僕の価値観が世間に完全に認められる必要はないので、無視します。仲のいい何人かが僕のことを一部認めてくれたらそれでいいんです。そういう状態にあるなら、僕は一人でいても気になりません。僕は孤立している訳じゃないからです。


 僕は性格が悪いらしいです。半端に頭がいいので、無意識で相手を見下す癖があるようです。直さなければと思いますが、中々直せません。

 僕は普通の顔です。全然美少女とかでもないですし、むしろ背も小さいので気持ち悪いらしいです。同い年と並ぶと、大体僕がワースト三人の一人です。背が低いのがコンプレックスの一つです。

 僕は汚いらしいです。僕の机や椅子、リュックに触ったあとはカーテンで手を拭きたくなるらしいです。お風呂には毎日入っています。髪は邪魔なので切っています。制服も毎日洗ったものを着ています。

 僕は気に障るらしいです。僕が考え事をしたりペンを回したり指を鳴らしたり、そんな些細なことをする度に笑われて、真似をされます。そのくらいなら僕は、何も思いませんけれど。


























 最初は些細なことだけでした。名前に様付けをされたり、笑われたり、紙飛行機を"誤って"当てられたり。最初は軽く怒って、それだけでした。戯れの一貫として、僕はそれを許容しました。

 別に物を盗られたり、殴られたりした訳じゃありません。落書きもされませんでしたし、持ち物に手を出されることもありません。

 ただ笑われる。

 それだけでした。


 それでも僕だって人間です。時に腹に据えかねることはありますし、そもそもあほらしいと思うことも多いです。

 僕は習い事をサボり気味になりました。


























 僕は優しくなろうと思い立ちました。

 僕が優しくなれば彼らは自分の行いを改めるだろうと思ったからです。人を笑うことのつまらなさを知ると思ったからです。僕は笑われることは大して気にならないたちでしたが、僕を笑う彼らへの嫌悪感は少しずつ積み上げていました。

 馬鹿らしい、あほらしい、幼稚だ。恥ずかしくないのだろうか、楽しいのだろうか、面白いと思えるのだろうか。


 僕に彼らを理解することは難しそうでしたし、そもそも彼らは相互理解を求めてくれませんでした。

 何度か対話を試みました。その度に笑われて終わりました。


 僕は自分のコンプレックスとハンデが憎くなりました。これがなければ彼らが僕をからかう要因が減るのに、と。


























 僕はとうとう我慢できなくなりました。

 僕は僕の机の横に、ご丁寧に集められたごみくずを見て……彼らが僕のことをどう思っているのか、察したような気がしました。

 僕は主犯格の一人に掴み掛かりました。






「僕は一体、お前に何をした? お前はなんの悪感情があって僕のことを笑う? 僕はお前にとって不愉快か? 僕は目障りか? 僕のことは嫌いか? 会いたくない? 口もききたくない? 視界に入らないでほしい?」

「それならそう言えよ。先生に頼んで席を離してもらおう。互いに得がないものね。離れた方がお互いのためだ。そうだろう?」

『───────、───────』

「……ああ、そうかい」

「それは、すまないことをしたね」


























 僕は"気持ち悪い"んだそうです。掴みかかったことも目を見たことも表情も、僕は何一つ受け入れてもらえずに"気持ち悪い"の一言で片付けられてしまう存在ということらしいです。


 対話はその後、何度か持ちかけました。

 結局笑われて終わりました。


 とても痛かった。頭が熱かった。血が上ると言うよりは下がっていたのに、限りなく熱に近い痛みが走っていた。

 僕は、端から見たら滑稽だったのでしょうか。僕は馬鹿にしか見えないのでしょうか。"気持ち悪く"て、"汚く"て、"どうでもいい"存在。

 まるで地面に掃き集められたごみくずのような、汚泥のような。


 僕は確かに、彼らにとっては必要のない存在です。邪魔で、(うるさ)いのでしょう。だから排除しようとする。

 それは構いません。人間として、生物として、それは当然のことだからです。和を乱すものを排除する。それが種の存続のための方法の一つです。それは確かです。


 だったら僕は構わないでほしかった。僕のことが嫌いなら、邪魔だと思うなら、そもそも僕に関わらないでほしかった。僕は僕のままでいるための関わり合いはすでに満たしていた。だから彼らとの会話は必要なかった。できることなら不干渉を貫きたかった。

 泣きそうだった。嫌だと言っても、睨みを効かせても、いくらやっても対話が成り立たない。僕の言いたいことを汲んでくれない。僕の気持ちを無視していく。


 泣いて済むなら泣いてしまいたかった。けれども、『反応を楽しむ彼らにそれは悪手だ』と言われてしまった。だから耐えた。

 やめてくれと言って、唇を噛んで耐えた。

 紙屑を丸めて投げられて、笑われて嘲笑われて嗤われて、真似をされて馬鹿にされて気持ち悪いと言われて……。


 苦しかったし、意味が分からなかった。

 僕自身に非を見出だせなかった。どうすれば良いのか分からなくなっていった。謝るのも違うと思った。やめるように言っても無駄だと感じた。

 意味がわからないくらいに苦しかった。


























 腹が立った僕は言いました。






「僕に軽く叩かせておくれ。それで今日のこと、ひいては昨日以前のこともチャラにする。叩かれるだけが嫌なら、僕のことも叩けばいい。それで痛み分け。対等の条件(イーブン)だろう? さあ、先に叩かせろ」






 彼は『互いになら』と、了承しました。

 だから僕は友人になろうと言う意味も込めて、肩を軽く、手のひらで叩きました。これで僕とお前……君は対等だと。全て水に流そうと。

 親と教師に言われていたんです。僕はちょっとした習い事をしている……武道を習っているので、本気で喧嘩をしてはいけないと。だからわざと手を抜きました。大して痛くなく、すぐに痛みが引くように。叩き終わったあとに、すぐ仲直りができるように。



















































 思いきり、体重を乗せた拳で肩を殴られました。



















































 僕は、間違っていたのでしょうか?

 分かり合うことも仲直りすることも、僕が見出だそうとした友人としての人間関係も、僕が僕である限り不可能なものなのでしょうか?

 僕には分かりません。僕にはどうすれば良いのか、よく分かりません。

 僕は悪人であるつもりはなかったんです。僕は彼とただ単に、対等でいたかったんです。

 なかよくなって、いつか、笑い話にしてしまいたい。そんなことを考えていたのに。友達になって、いつかこれまでのことをブラックジョークにしてしまいたい。そう思っていたのに。

 間違って、いましたか?


 僕は何を、間違えたんですか……?


























 僕が彼と友人になるために、全てをブラックジョークにしてしまうために、僕は、もっともっと優しくならなければいけません。

 僕はまだまだ優しくない。

 あと何日、あと何年。どれだけかかるのだろうか? わからないけれど、僕は優しくならなくちゃいけない。僕は優しくなりたい。

 全てを包み込み、笑えるくらいに。僕は、優しくならなくちゃいけないんです。






 僕が優しくなるまで、僕が優しくなれるまで。

 僕は僕自身を嫌いでいなくちゃいけません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ダークだ。ものすごくダーク。 しかも物語の最後に救いがない。 主人公は年単位の時間の中で傷付きながら、暗い学生生活を送るのだろうと思うと……ね。 広く出版されている作品では味わえないような…
2018/11/19 18:07 退会済み
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