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21.事実は霧の中

突如、採石場跡の広場が濃い霧に覆われ、ルネス隊やウォン達の姿が隠されてしまう。だが、霧の中では戦闘が続いている事は、剣戟や魔法の動作音、ドラゴンの咆哮などが示している。

数瞬後、ドラゴンの甲高い悲鳴が響き、重厚な地響きが続く。そして、剣戟の音が止んだ。

同時に霧が晴れ、元の視界に戻った。ルネス隊のドラゴンは討伐完了し、ウォンが戦っていたブルードラゴンとルネスが壮絶な一騎打ちを行っていた。

霧の中、いつの間にかウォンとルネスが攻め手を交代していた。ウォンは、ルネス隊の一緒に剣を支えに呼吸を整えている。

霧の中での交代劇に周囲からどよめきが湧き、四方八方から色々な解釈が囁かれる。

「戦士のスタミナ切れで交代か」

「いや、勇者の方が確実に勝てるという判断じゃないのか」

「しかし、勇者の奴、腕を上げたな」

「全くだ。いくら半死半生のドラゴンでも一騎打ちで最後は片をつけるなんてカッコイイじゃねえか」

「勇者の奴、男だね~。途中から声の一つも出せない疲労困憊の戦士を助けてやるなんて、中々出来ないね~」

先程までは、勇者が不甲斐ないなどと言っていた連中が掌を返した様に褒め始める。

勝負は、唐突に決まった。勇者が素早く突いた剣がドラゴンの額を貫いた。ドラゴンの動きがゆっくりと止まり、地面へ傾いていき、地響きと共に腹を天にさらした。

「ルネス、ルネス、ルネス、ルネス…」

周囲から勇者を讃える歓声が起きる。何とか、勇者の面目を保てたようだ。

勇者の勝利だ。剣を抜き、血糊を手拭いで綺麗に拭き取り鞘に戻す。そして、ルネス隊の面々へ合流すべく歩き出した。私も分身魔法を解き、ルネス隊に合流すべく歩き始める。カタラも同じくついてくる。

七人が合流した時、また霧が発生し、すぐに霧は消えた。

ルネス隊の四人は、完全にスタミナ切れを起こし、ルネス君は何とか剣にしがみ以外は、地面に座り込み肩で荒い呼吸をしている。

当然、ウォンとカタラ、そして私は呼吸を乱していない。

「皆、無事か。治癒魔法が必要な者は挙手しろ」

誰も手を上げず、首を横に振る。私が見たところ、小さい怪我も無い様だ。

「カタラの出番は無い様だな」

ウォンが、カタラに告げる。

「良いのです。それは皆様が無事という証です。それにしてもこんな所で霧が発生するなんて不思議です。何か、警戒をすべきではないでしょうか」

「あぁ、大丈夫。その霧は私の仕業だ」

「ええと、新緑の魔姫 エータさんでよろしいですか」

カタラが握手を求めてくる。そう言えば、カタラとエータは、初顔合わせだな。

「はい、そうです。エータで結構ですよ」

差し出されたカタラの右手を握る。

「私もカタラで結構です。どこかでお会いしたことはありませんか」

カタラが小首を傾げながら尋ねてくる。はいはい、会ったことはありますよ。でも、エータとしては初めてですよっと。

「いえ、初めてだと思いますが」

「そうですか、失礼を致しました。私の知り合いに気配が、よく似ていましたので思わず」

「良いのです。魔法使いは、魔力を強く帯びますから気配が似ているのでしょう」

と、適当にごまかす。本当はそんなことは無い。魔力の波長は、一人一人違う。同じ気配を持つ者は居ない。

「先程の霧といい、戦士の入れ替わりは何でしょうか。気配から察するに幻の様に感じました」

さすがは、カタラだ。良い勘をしている。

「はい、仰る通りです。当王国の都合上、勇者が活躍せねばならぬのです。誠に勝手ですが、戦士殿と勇者殿を霧に隠して、幻影で入れ替えました。誠に申し訳ありません」

悪いと思っていないが、一応謝罪を入れておく。

「問題ありません。ウォンも十分楽しんでいた様です。状況は理解致しました。ウォンには、私から説明致します」

「大変、助かります。上には戦士殿と僧侶殿が活躍した旨を報告致します」

「ありがとうございます。ウォンが喜ぶことでしょう」

周囲から歓声を上げながら今回の討伐チームの面々が、ワラワラと岩の隙間から溢れ出てくる。ルネス君達に駆け寄る者、ドラゴンの死体をおそるおそる確認する者や逆に剣を突き立て勝利のポーズを取る者で狭い広場に人が溢れ、揉みくちゃにされる。ちょっとしたお祭り騒ぎだ。このどさくさに気配を完全に消し、静かに誰に見とがめられることなく広場から離れる。

周囲の気配を探るとすぐに目当ての人物の気配を見つけた。輜重隊の中隊長だ。直ぐ近くの岩の裂け目に潜んでいる。十人の部下と一緒にいる様だ。ちなみに私の後を追ってくる者の気配は無い。ウォンが好奇心でついて来るかと思ったが、どうやら観客に捕まって動けなかったようだな。戦闘で目立つからだ。

「中隊長、お待たせしたかな」

「いえ、逆にこの混乱の中、お早い位ですな。さすがは、エータ殿ですな。」

中隊長の言葉に世辞は無い様だ。本心で言っている様だ。

「では、中隊長参りましょうか。あの岩場辺りに居る様です」

西の方角の採石場跡の外れを指差す。

「分かりました。急ぎましょう」

この小隊は全員がレザーメイルを着こんでいた。金属鎧では音が鳴り、隠密性と俊敏性がとれないからだ。

小隊のメンバーは、静々とそして粛々と距離を詰めていく。目標は完全に油断している様だ。

この小隊の実力であれば、私の出番は無いな。後詰めに徹しよう。

はぁ、やっと仕事が終わる。途中で離脱するつもりだったが、王都に戻らねばならないのが面倒だ。しかし、そこまでが今回の依頼だ。やれやれ、早く終わらせよう。

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