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15.ルネス隊出発

晩餐会から四日後、春の陽気の中、馬車に揺られ王都を出発した。沿道を勇者のファンであろう人々が埋め、歓声を上げて見送る。ルネス君以外にも固定ファンがいる様で「ルネス様~」の声の中に「燃えろ、ベース!」、「ニヒルだわ、プーチ様」、「トーカーちゃん、可愛い~」等と言う声も混じっている。

ルネス隊は、冒険者を引退しても城勤めが出来そうだな。それまで生き残れば、将来は安泰だな。

「エータさん!結婚してくれ~!」

唐突に名を呼ばれ、一瞬思考が止まる。はて、幾度かルネス隊として参加しているが、そんなに私の知名度はあっただろうか。

「エータ殿、市民に手を振って下さい。これも仕事です」

ルネス君が市民の声援に笑顔で応えながら、私に囁く。

仕事か…。ならば、手を振るとしようか。今は、エータだからな…。取りあえず、馬車の外に向けて、手を振る。先程、声が聞こえてきた辺りから雄叫びが上がる。

顔も判らぬ者に良くそこまで熱を入れられるな。

「なぜ、私までファンが居るのだ。解せん」

「ルネス隊唯一の若い女性ですから、男性ファンが付いてもおかしくありませんよ。それに、エータ殿は意識されておられない様ですが、その服装は、割と体型がハッキリと出まして、魅力を感じます」

ルネスに指摘された服を見直す。確かに胸が大きい為か、胸回りが窮屈そうだ。腰回りはいつでも剣が下げられる様にベルトを確りと締めているため、腰の細さが目立っている。下半身は、剣術で鍛え上げた足腰の為、どうしてもお尻周りが大きくなる。

「なるほど、これがいわゆるボン、キュ、ボンとかいう奴か。ふむ、異性に対し魅惑の効果があるならば、戦闘に有利に進むだろう。このままで問題ないな」

「エータ殿、言いにくいのですが、我々も目のやり場に困る事があります。ローブでも羽織られたら如何ですか」

「一向に欲情していいぞ。どの様な妄想や思惑を抱き、実行をしないのであれば、個人の自由だ。私は気にしない。ただし、手を出してくる場合は、正当防衛をさせてもらうがな。いや、過剰防衛かな」

「わかりました。エータ殿のお好きにして下さい」

ルネス君がため息を一つつく。はて、何かおかしかっただろうか。ま、気にしないでおこう。

さて、この国での勇者は、偶像として十分に政治に役立っている様だ。これだけ人気があるルネス隊を抱えていれば、必然的に王の権威も高まるだろう。

なるほど、人造の勇者がこの国では必要な訳だ。大臣や王が勇者達を厚遇するのも納得だ。

その王との謁見も大臣の指示通りに無難にこなした。狡猾そうな顔つきで元戦士だったこともあり、恰幅の良い老人だ。正妻の他に妾も多数いるそうで、現在も募集中らしい。

謁見中も王からの好色な目で、上から下まで舐められる様に見られていた。これがミューレならば、速攻鉄拳制裁を下しているが、エータの身では我慢するしかなかった。ええい、悔しい。さて、王の事は忘れよう。ドラゴン共を退治すれば、この依頼は終了だ。

一団は順調に王都の主要路を南下していく。この群衆共に興味は無いので眠ることにした。ブーケで顔が見えないので、外から眠っているとは思わないだろう。ブーケの方が、存外便利かもしれない。仮面を止めて、ミューレもブーケに変えようか。いや、魔法使いと違い、剣術を使うとなれば激しい動きでブーケが捲れ上がるだろう。やはり、仮面のままが良いか。

ちなみに、私達の一団は、屋根付きの二頭立ての立派な馬車にルネス隊の五人が乗り込み、その周りを軍から派遣された中隊約四十人が囲む。さらにその外回りを冒険者ギルドより派遣されたパーティーが十組ほど囲んでいる。

軍から派遣された中隊は、馬車が多く、その中の装備を見ると輜重中隊の様だ。道中の食事の世話等をしてくれる様だ。軽く中隊長と挨拶を交わす。本当にルネス隊は、ドラゴン戦まで何もする事が無い様だ。

周囲に何か面白い物でもないかと気配を探るが、冒険者の中に目立って強い気配も無い。かといって弱い気配も無い。一応、街道に現れるゴブリンやオークの類は、無難に狩れる実力者を用意して来た様だ。

はぁ~、ドラゴンとぶつかるまで暇だな。


王都を出た後、私の横に座ったトーカーが、休み無く今までの冒険譚を語ってくれるが、興味をそそる話が出ない。この四人でジャイアントやサイクロプスを狩ったと聞いた時は、成長しているのだなとも思ったが、どうやらその辺りのモンスターが四人で対応できる限界の様だ。

間違いなく、スモール級のドラゴンと戦うのは無理だな。

いまだ、トーカーは話し続けているが、私の心を動かす話が出ない。そろそろ、鬱陶しいな。

「外の空気を吸う」

一言告げ、走行中の馬車の扉を開ける。御者席の方を見ると足場になりそうな飾りが幾つもある。これならば、問題なく御者席へ行ける。

「エータ、危ない!」

後ろ手に馬車の扉を閉める。丁度、タイミング悪くトーカーが顔面を強打した様だが、気にしないでおこう。併走する軍人達が私の姿を見て驚くが、声はかけてこない。へたに声を掛けて馬車から転落されては、かなわないという判断だろう。分隊長級の軍人が私を見ながら油汗を流している。ま、ドラゴン戦を前に勇者隊へ怪我をさせれば、自分の首が飛ぶのだろう。

ま、私には関係ない。軍人共の注目を集める中、馬車の側面を伝い御者席に危なげなく滑り込む。

御者の驚きと周囲の緊張が解けるのを感じる。

「や、邪魔をする」

中年の御者が、目を白黒させながらこちらに話しかけてくる。

「エータ様、どうやってここに来られたのですか」

「壁伝いに」

「一言かけて下されば、馬車を止めましたのに」

「いいんだ。暇だったからな。しばらく、ここで景色を見せてもらう。私は居ないものとして、普段通りにしてくれていたらいい」

「はい、わかりました」

御者が視線を前に戻すが、関心が私に向いていることが良く分かる。話しかけてこないだけ良しとしよう。トーカーの長話には疲れた。

街道を百人近い集団が、馬か馬車でゆったりと進んで行く。あまり、急いでも馬を潰してしまうだけだ。どうせ、大臣の事だ。どこかで替え馬を用意しているだろう。

やはり、馬車の中で大人しくしているより、御者席に座っている方が落ち着く。流れる景色、変わる匂い、そして全身に浴びる風。全てが気持ち良い。

御者も私の存在に慣れて来た様で自分の仕事に専念する様になってきた。

やっぱり、私に勇者は無理だな。早く、ミューレに戻りたいものだ。頭の中で新しく覚えた魔法式を分解、再構築を繰り返している内に眠気がやって来た。少しばかり、昼寝でもしようか。帽子が風で飛ばされないかを再確認し、眠気に身を任せた。

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