ニセモノの魔女
貧しい生まれで、器量も良くなかった。
器量さえ良ければ、誰かに拾ってもらえただろうか。あの子のように。
でも、連れていかれるのが幸せとも限らないのだと、カノさんが言ってたっけ。
で。あたしは。
自分を守るために、魔女になろうと思った。
***
魔女は人とは違う。未来を言い当てる。占いができる。それから。
顔とか腕にペイントをして、それっぽくなるように。
でも魔女として捕まったら殺されてしまうから、隠れたところで。
あたしは、あたしの伝説を作り上げる。
初めは、どっちに行けばいい事あるよ、とか、その程度。
そのうち知恵もついてきて、もっと色々、言えるようになった。
噂話は役に立つ。それにほんの少し、魔女っぽさを加えれば良いんだから。
あたしは、そうやって生きていく。
もう、殴られるのもひもじい思いをするのも、着るものさえ奪い合うのも、もう無理。
あんな暮らしには、あたしは二度と戻らない。
***
あたしは本当に魔女になった。
身分を隠して、あたしに見てもらいに、恋に悩む良いところのお嬢様が来たことだってある。
お金持ちには、たくさんの言葉を並べて、魔女オススメの恋が実りやすくなるお守りの石なんかを買わせてみせる。
『実りやすくなる』っていうのが、ポイントだ。決して『実る』って言いきっちゃいけないの。
あたしはたくさんのお金を手に入れて、おいしいご飯も毎日食べる。
きれいな服に、宝石も買う。あたしにぞっこんの恋人もいるよ。
魔女はとても良いお仕事だと思う。これは、あたしの生活の糧。
うらやましそうにする子がたくさんいる。けど、あたしは絶対にやり方を教えたりはしない。
でも、あれは昔のあたしだから、やっぱり可哀想に思う。よくご飯をあげたり、服やお小遣いをあげたりもする。それぐらい魔女のあたしにはワケないことだから。
すごく感謝して懐いてくれる。当然だと思う。あたしだって、そんな事してくれる人がいたら懐いてた。
あたしは、昔のあたしが、誰かにやって欲しかったことを、やってあげてるんだと思う。
今じゃもう、あたしの言う事ならなんでも聞くっていう子もたくさんいる。
あたしはすごく必要とされてる。
それに、人生、とてもうまくいってる。
兵隊に捕まったら火あぶりの刑だけど。
そんなへまはしない。あたしには、仲間だってたくさんいる。みんながあたしを必要としているから、みんながあたしを助けてくれる。
***
「呪ってやる!」
その女は、はりつけにあいながらも周囲を罵った。
戦争を予言し、天候の悪化と作物の不作、それによりもたらされる貧困の蔓延を言い当てた女。
一方で、縁切りや縁結びといったことも得意だった。
あまりにも有名。皆が恐れつつも頼っていた魔女。
珍しい事に、女は自らを魔女だと宣言していた。
それは、堂々と魔女を名乗っても、己を守れる力があるという証拠。
けれど、ついに仲間もろとも捕えられた。
***
女は最後まで声を張り上げた。捕える過程の暴行により頭部からも血を流しながら、長い髪を振り乱すさまは兵士さえも震え上がらせた。
「呪ってやる! あたしを殺してただですむと思うなよ、馬鹿どもが! これからこの国は亡びるだろう、ひどい病で皆が苦しむ。罰だ! 天罰だ! あたしをこんな目に合わせて、ただじゃすまないよ! 死ね! みな死ねば良い! 呪われて苦しんで死んでしまえ!」
火がつけられる。
魔女は大きな悲鳴を上げた。人の言葉にならない声を叫ぶさまは、とても人間だとは思えなかった。
空から、雨が降ってきた。火を消すほどのものではなかったが、暗くなった天に人々は慄いた。
呪いだ。この国は呪われたんだ。
と、見物に集まっていた人々は口に恐れを出し始めた。
弱くも降る雨に勢いづいたのか、火によって苦しみながら、女が叫んだ。
「あたしは、魔女だ! 死ね!! みんな死ね!! あたしに呪われて消えてしまえ!!」
***
呪ってやる
全て言い当てた、言葉がその通りになる魔女なんだ!
滅べ。ぐちゃぐちゃになって死んでしまえ。すべて、すべて、すべて。
あたしをこんな風に殺すやつらは、死に絶えろ!
***
彼女・・・ジェリアについては数々の魔女らしい伝説のような逸話が残されており、処刑時の様子も記録されている。
約10年後にその国は滅ぶ。
人が、彼女の予言を信じたのが、全ての発端。
彼女は死後も、魔女らしい魔女として今も伝えられている。




