魔女狩り
乱暴に扉が開く。
ズカズカと足音荒く踏み込んできた兵士たちが、クレアリルの編み込んだ長い頭髪を掴み、引き倒した。
「魔女だ!」
驚愕に取り残される家族を守るために、クレアリルは叫んだ。
「私だけです! 他は違う! 神に誓って!」
嘘だ。
一歩間違っただけで家族も対象になるとクレアリルは知っている。この質は血によって受け継がれるものだと分かっている。
ただし、それは兵士たちの知るところでは無いとも分かっている。だから叫ぶ。
「他に手をかけたら呪ってやる!」
兵士たちが躊躇った。
彼らは、クレアリルが何ができ、何ができないかを全く理解していないと分かった。きっとクレアリルの呪いなど何の役にも立たないのに。
頭髪を捕まれたまま、引きずられ、言葉を封じるために硬い兵士の靴で腹を強く蹴られる。経験した事のない痛みに気を失いそうになる。苦痛の声が漏れた。
外に出されたのが分かった。地面が変わったからだ。
無理に立たされて、突き倒されるようにして馬車の荷台に乗せられる。
「魔女だ!」
と兵士がまた叫んだ。
あぁ、私の人生は終わりなのだ。
クレアリルは痛みに腹を抱えながら、馬車の中にうずくまった。
***
いつの時代でも、人は全て同じではない。
闘争本能が強い者もいれば、共感能力に強い者もいる。
組み合わせの結果、人よりも察しが良くて、人よりも正確な予測をすることが得意な者もいる。特別な教育を持たずとも、ある程度の薬めいたものを知っているものも。
血で受け継がれやすいもの。
親子による伝達で強化されていきやすいもの。
それらが積み重なり、今、それぞれの質が強く表れ過ぎたのかもしれない、とクレアリルは思う。
気をつけな、と近所の人や友達の間で言い合っていた。
違っていても連れていかれるのだと。
魔女と呼ばれて見せしめに火あぶりになる。
そう決められてしまえば、誰も覆すことができない。
諦めた。もう助からないと知っている。
***
油をかけられる。木にはりつけられる。周りには燃やすための薪がつまれている。
クレアリル以外にも、4人いた。
泣き叫んでいる者は1人だけだった。
他はすでに、クレアリルと同じ。助からないと、分かっていた。
兵士が罪状を読み上げた。
人心を惑わす罪。魔女。
けれど自分に本当に罪があるのか。
分からない。
男には、分からないのだと、クレアリルは思う。
そう思うこと自体が罪なのかが、分からない。
男と女では質は違う。似たようで全く違う生き物なのだ。
男は力で支配する。女は互いを理解し合う。そうやって生き延びようとする。
男が世の中を収めている。
だから、男が理解できない質を、恐れるようになったのだ。
両方が質を強めてしまった、今の世の中。
「言い遺すことはあるか!」
声にクレアリルは顔を上げた。多くの人が慄きながらも、少し遠巻きにクレアリルたちの処刑を見に集まっていた。
知り合いも混じっているだろうとクレアリルは思う。きっと不幸に、見に来ずにはいられなかった懇意な人たちが。
「あります」
発言に、クレアリルの周りに油が追加された。
自分が一番初めに燃やされるのだと、クレアリルは知った。
その光景に、今更強い悲しみが、悲嘆が湧き上がる。
こんなところで、こんな風に、死ぬのか。
それでも、もう声も出せなくなる。ここで終わるのだ。
クレアリルは言った。皆に向かって。
「私は、愚かでした。放っておけば良かった。知らないふりをすれば良かった。危険だと分かっていたのに、助けた。それが罪になるのです。決して、突出してはいけなかった」
「終わりだ! 火を!」
火がくべられた。それはあっという間に燃え広がった。
人々がどよめき、クレアリルは火の熱さに、自分が見苦しく騒がなかったのは、冷静だったわけでもなんでもなく、ただ死期を実感できていなかったからだと、知った。
どっと泣けた。
「私は! 何もしなければ、良かった!」
ただ悲鳴をあげるだけで終わりたくなくて、どうしても嫌で、クレアリルは叫び続けた。
兵士が魔女だと叫び、クレアリルを槍で突き始めた。
「生きたかったのに! 手を貸さなければ良かった!」
人が慄く。きっと後悔している人たちもいるだろう。
助けに応じて、知恵を貸した。意見を述べた。それが的確だったから、噂になった。
人よりも、先を見る知恵に優れていた。言葉にされない感情を察する事が得意だった。それだけだ。
クレアリルは正気を保っている間は、己にとって意味のある言葉を叫び続けた。
決して怨嗟をまき散らしたかったからではない。
後悔は確かに、あった。でも後悔などもう遅い。
何より、懇意なる人々に、警告と忠告をしたかったのだ。
何もするな、動くな、生きたければ、潜んでいるべきだったのだと。
それが、クレアリルのできる、クレアリルの人生の証だと思ったのだから。
***
ある時代。魔女は、このように命を落とした。




