いらっしゃいませ
今生きていることに、疲れ、絶望し、悲しくなる。
そして人は考える「元に戻りたい…」
誰でも生きているなかで、1度は思った事があるだろう。
そう強く願ったときだけ、たどり着ける一軒の店があるらしいと噂がたったのはつい最近のことだ。
なんでも高校生位の少年が店主を勤め、1度だけ人生をリセットさせてくれる。
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どうして、私だけがこんな思いをしなくてはならないのか。
イライラのぶつけ先に困りヒールの音を高く響かせながら大股で歩く。帰宅途中にあるキラキラと輝くショーウィンドウには目もくれず、ただただ家を目指して歩く。
頭の中で再生されるのはこのイライラの原因をつくった自分の上司の声と顔。
他会社との大切な会議で配る書類に相手の会社名を間違えるという重大なミスがあった。
上司が作った書類なのに、勝手に私が作ったことにされ、会社に泥を塗ったと濡れ衣を被せられ、散々人前で怒鳴ったあげく、クビにさせられた。庇ってくれる人など居ない。皆自分の事が一番なのか、下を向きじっとするばかり。
上司が書類を作っていた時間まで戻りたい。
シングルマザーとして小学生の子供がいるのだ、これからどうしろというのだろうか。
不安、イライラなど様々な感情が混ざり涙が溢れる。
子供にこんな顔は見せられないと、バックからハンカチを出して涙を拭き取った所で足が止まった。
考え事をして、前を見ずに歩いたからだろうか気付いたら知らない路地裏を歩いていたようだ。
慣れ親しんだ土地の筈だが見覚えのない道。キョロキョロと辺りを見渡し人を探す。
暗闇で良く見えないが少年がこちらに歩いてくるのが見えた。
「あの、、、」
「ん?あぁ、いらっしゃい」
「いらっしゃい?私は道を聞きたいのですが」
「だって、貴女。元に戻りたいのでしょう」
確かに元に戻りたい、とは思っている。
「こっちでお話し聞きますよ」
普通ならいくら少年とはいえ、こんな怪しい人に付いていくなんてしない。
それでももし、元に戻れるならと望みにすがるため少年についていく。
少し歩いていると、寂れた裏路地には似合わない洋風な立派なお店が見えた。看板には筆記体で「リセット」と書かれている。
少年は少し大袈裟に両手を広げ、
「さあ、お客さんつきましたよ。ようこそ、人生のやり直しをお手伝いする店リセットへ。僕は店主の烏兎と申します」
と言いながら綺麗にお辞儀をした。