operation “over flow” (6)
マンションを出ると、早稲田は待ち構えていたように姿を見せた。真っ直ぐに俺を見据え、何も言わずに。
午前二時。夜風は冷たく、俺もしばらく黙った。単純に、疲れ果てていた。
「とりあえず、トイレに行きたい」
公園のトイレで用を足し、外で手を洗っていると早稲田はハンカチを差し出した。素直に受け取って手を拭き、返すと、次に差し出したのは暖かいコーヒーだった。
「申し訳なかった」
早稲田は言った。「お前は悪くねぇよ」。俺は素直な気持ちで言った。確かにヤツの計画によって俺は六時間湯川邸に閉じ込められることになったが、ヤツの誘いに乗った結果だし、携帯電話は取り戻すことができた。
「結果オーライさ」
コーヒーは苦く、俺は顔を歪めた。本当はコーヒーがあまり好きじゃない。
「ところで湯川の引き出しの中にな……」
早稲田は俺を見た。どうやらヤツには自信過剰な所があるみたいだが、今回ばかりは責任を感じてるところがあるらしい。そんな顔をしている。
「俺の携帯電話の下にはエロ本やらエロDVDやらがそりゃもう沢山隠してあった。ヤツめ、学校ではあんな顔してムッツリスケベでいやがる」
早稲田はポカンと口を開けていた。
「しかも熟女ものばっかだ」
ようやく早稲田は呆れたように笑った。息を漏らして、クックと喉を鳴らした。
「女子高生ものじゃ無かっただけ良かったろ」
プッ、と俺が吹き出すと、早稲田も笑っていた。ヤツの笑った顔を見るのは初めてで、俺も久しぶりに笑った気がした。
午前二時半を回ろうとしていた。とにかく今日は帰って眠る。月曜には本当の戦いが待っていた。