operation “over flow” (4)
自分の仕事を終え、管理人室の椅子の背もたれに体重を預けた時のことだった。四つのディスプレイにはそれぞれにエントランスホール、エレベーターホール、エレベーター内、裏口の映像が映っており、裏口の方で人影が動いていたのを見て僕は身体を起こした。
目を細め、画面を食い入るように見た。暗闇の中でそれは扉を開けると、画面から消え、やがてエレベーターホールを映すディスプレイの方に姿を現す。
エレベーターのボタンを押す湯川の姿がそこにはあった。僕は咄嗟に腕時計を見る。十九時四十五分。予想していたより遥かに早い湯川の帰宅に、僕は面食らう。
ディスプレイの中に映る湯川からは目を離さずに、僕はポケットから携帯電話を取り出す。そして、先ほどから何度かかけていた尾下銀の電話番号に掛けた。まずい。これはまずい。彼がまだ携帯を見つけていなく、このまま湯川が部屋に入って彼を見つけてしまったら。それは全くの想定外で、どう切り抜けようかは考えていなかったし、アイデアも浮かばない。頭が真っ白だ。
上手くいくことしか考えていなかった。計画は百パーセント完璧とまではいかないものの、ほぼほぼ完璧だったと言えた。湯川が想定外の時間に帰ってきてしまうことを除いては。
時間もあまり無かったとはいえ、自分の立てた計画の杜撰さを悔いる。しかもそれによって危機に瀕しているのは僕では無く尾下銀の方だ。エレベーターに乗り込む湯川をただ何もせずに見送り、僕は誰も出ない電話を一度切った。湯川が部屋に着くまであと何秒ある? 出来ることを考えた結果、僕はもう一度着信ボタンを押した。ただ願うことしか出来なかった。
『……もしもし?』
出た。尾下銀は電話に出た。
「携帯電話を見つけたんだな」
このタイミングに合わせるかのように携帯電話を見つけるとは。ヤツは何か持っている。
『あぁ、たった今電源を入れたところだ。それより今とんでもないモノを見つけてな。俺の携帯が隠されていた引き出しにな……』
「待て待て待て待て。話を聞け」
猶予は無かった。エレベーター内を映すディスプレイの中から、湯川が出て行く。奴は五階に着いてしまった!
『どうした』
「玄関に行って靴を回収し、部屋のどこかに隠れろ」
『え?』
「玄関に行って靴を回収し部屋のどこかに隠れろ早くッ!」
声を荒げた僕のただならぬ様子に気付いたか、彼は電話の向こうで動いた。衣摺れの音と、微かな足音。
カチャン、と金属の音がした。僕は心臓が凍る思いだった。




