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カミあわないフタり  作者: 木下秋
over flow
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operation “over flow” (1)

 やはり尾下銀は思った通りの男だった。挑発に乗りやすく単純だが、素直で誠実。愚かなほどに正義感に溢れている。


 頭はそこまで良いとは思えない。しかし、生まれ持った大きな体躯、顔立ちも悪くはない。上手くやり過ごせばそれなりに幸せな人生を送っただろうに、不器用な奴。クラスメイトへの虐めを見逃せずに友人と対立、孤立。


 彼のことを指して『孤立』だなんて僕が言えた立場では無いけど、僕は好んで独りで居る。なんせ人生は短い。一生の内三分の一は眠っているとして、残りの時間ーー必要最低限の勉学や労働に取られる時間をそこから省いて、健康に自由に使える時間はどれだけある? 世界は広い。人類の歴史だって、地球の歴史から比べたらほんの一瞬だろうけど、僕の一生と比べたらはるかに長い。数多の物語が創られ、数多の音楽が奏でられ、数多の建築物が建てられているけれど、僕はそれらを全て鑑賞することは出来ない。……人生は短い。


 だから僕は独りで本を読む。観たいものが無くなることは、おそらく一生無い。人の創った美しいものを観るのが好きだ。だから、クラスメイト達と話を合わせている暇は無い。



「なぁ、そろそろ何処に行くのか教えてくれよ」



 ーー思うに、虐められる方にだって問題はあるだろう。嫌なら嫌と言えばいい。誰かが動いてくれるまで、自分から第三者に訴えかければいい。抵抗すればいい。力が無いなら付ければいい。悔しいなら死に物狂いでぶつかって眼球でもえぐり取ってやればいい。目には目を。当然の報いだ。虐めをする奴なんてロクな奴じゃない。罪には罰。当人はそれ程の覚悟を持って断固たる決意をもって抵抗するべきだ。


 しかし。絶対的により(・・)悪いのは虐める方だ。泥棒に入られてしまったという話を聞けば防犯対策を疑うし、不倫されてしまったという話を聞けばその人の人を観る目(・・・・・)を疑うけれど、絶対的に泥棒は悪だし、不倫をする奴は悪だ。


 だから田村や松田ーーああいった、誰かを虐めることで強者になった気分になり悦んでいる下賤な奴らこそが悪だし、見過ごしていた湯川も同罪であるというということは揺るぎない。


 僕は正義の味方になりたいわけじゃない。特別な力も持っていないし、直接奴らを断罪してやりたい訳でもない。



「なぁ、って!」



 でもーーそれ(・・)を黙って見逃している僕は悪だろうか?


 尾下銀がたった独りで正そうと行動していることまでも、僕は見過ごすのか? それでいいのか?


 君と、でならーー

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