operation “box” (5)
頭の中で、先ほどまで繋がれていた点と線が解け、新たな材料が放り込まれる。
『薬の過剰摂取』ーー『注射器』ーー『違法薬物常習者』ーー『告発』ーー『自殺』。
そしてそれらは再び、一繋がりになった。
「ヤツは麻薬をやってた……ってことか?」
「湯川は違法薬物の常習者だった。……死因は違法薬物の過剰摂取か」
「……そうか。だから金も無くなってった、てワケか?」
そう言って尾下銀は薄暗い部屋を見回した。
天井には、雨漏りの後のような染みがある。
「それはあり得るだろう」
「つまり……その……とりあえず俺達のせいでヤツが死んだってわけでは無い、ってことか?」
なぜ湯川が麻薬に手を出したのか……その理由を手繰っていった先に僕達による一件からのストレスがある、という可能性はあるし、僕達の一件の前から手を出していたとしても、それが理由で摂取量が増えた、という可能性だってある。
「あぁ。そうだね」
でも、僕はそう答えた。それで尾下銀の心にかかる負担が少しでも減ったらいい。
「湯川はそれを理由に、脅迫されていた?」
僕は再び、文面を目でなぞった。
「いや、これは『脅迫文』とは言えないだろう。『脅し』のような言葉は無い。『バラされたくなければ……』といった風な言葉が、だ。『告発文』、と言うのも少し違う気がする。第三者でなく、本人に直接送っているのだからな。何と言うべきか……『告発宣言』みたいなところかな」
「でも、本人的には脅しのように感じたんじゃないか? これって、『お前の秘密を握ってるぞ』って事だろ?」
確かに……一理ある。本人がどう受け取るかは、その当事者次第だ。
「送られてきたのはいつだ?」
「八月の初めだ」
尾下銀は箱を手に取った。シンプルで飾り気のない、何も印刷されていないダンボールの小箱。郵便の伝票が貼り付けてある。
「誰が送ってきた?」
「住所と名前、写真撮っておこう」
携帯くれ、と言うので僕は自らが封をした郵便物を開け、尾下銀に渡した。
二つの箱。何者かが、僕らのように何らかの行動をしている。
告発宣言を送ったのは誰なのか。その誰かも、何のために湯川に直接それを届けたのか。その行動を数ヶ月前の僕らに当てはめたのならーー
ーー断罪?
ピピピピピッ。ピピピピピッ。
「君、携帯の音切ってたんじゃないのか?」
携帯電話の着信が鳴った。僕のではない。しかし、荷物として運ばれている最中に鳴ってしまわないよう、尾下銀には携帯の音を鳴らないように設定させていたのだ。
携帯を受け取ってまずその設定を解除させたのか? そんな推測が頭をよぎったが、彼は自分の携帯ではなく、告発宣言の入っていたと思われる押入れの中のダンボール箱の中を見て固まっていた。
ーー僕は動いた。手を伸ばし、ダンボール箱の中を見る。隙間を埋めるために詰め込まれた塵紙の奥に、光る小さな携帯電話が入っていた。
一昔前の折りたたみ式携帯電話。いわゆる、ガラケーというやつだ。
開くと、無機質な光が薄暗い部屋の中では眩しいほどに光っていた。
『非通知』。着信音は控えめなボリュームで、一定の間隔で鳴り続けていた。