男子生徒Bの証言
え、早稲田と尾下? あぁ、知ってるよ。もちろん。
二年になってからアイツらよくツルんでるよなぁ。……うん。クラス替えの後すぐ磯村が田村達から虐められるようになったんだけど、それを尾下がやめさせようとしたんだな。それを何でかよく知らないけど早稲田が入れ知恵してやって助けて、解決してやったんだと。みんな知ってる話さ。
二人は話をしたがらないらしいから詳しくは知らないんだけど、なんか田村達が磯村の事を虐めてるその決定的場面を携帯で動画撮って校長に突きつけたんだって。そんで田村達は謹慎。虐めを見逃してた湯川もーーアイツ嫌なセンコーだったけどあれ以降シュンとしちゃっておとなしくなったよな。前までは嫌味ったらしくていかにもイヤなヤツだったけどさ。アイツが生徒から勝手に没収してた物もみんなの元に帰ってきて。坂下だって喜んでたよ、アイツ官能小説学校に持ってきて読んでてさぁ……あっ、これナイショな。
あれからもまぁ色々あったんだけど、例えば坂田と三木の財布が女子更衣室で盗まれてさ。中学の時万引きで捕まったことのある白川が疑われてて。だって女子更衣室なんて女子しか入れない訳じゃんか。でもその実、犯人は男子の黒巻だったんだよな。アイツ当日は学校休んでいやがったから最初は誰も信じなかったんだけど、あの二人がキッチリ証拠を掴んで追い詰めたのさ。黒巻は退学、白川を疑ってたヤツらはちゃんと謝らされてたよ。そんでいよいよあの二人はスゲェってなって、一目置かれるようになったんだ。
まさかあの尾下がなぁ……え? そう、俺中学一緒だったんだよ。
尾下は中学の時はそりゃあおっそろしいヤンキーだったよ。眉なんか細くって、いつもガン飛ばしてた。その辺りじゃあ喧嘩は最強だっつって恐れられてたんだ。それが何故か改心して卒業近くなって急に勉強始めてさ、うちの高校合格したわけ。
だから磯村を庇い始めた時も意味わかんなかったよ。そこまで人って変われるもんかね? まぁワルかった時も弱い者虐めをするようなタイプではなかったけどさぁ。急に人が変わっちゃって“正義の味方”みたいになっちゃって……
*
「そうなんだ」
女子生徒は相槌を打った。境界線のくっきりとした唇が、口角が上がる。目鼻立の整ったこの顔で迫られれば、大抵の男はーー女も、その口を開き、話し、会話を終わらせたくなくて喋りすぎてしまう。
「そう。なに、増子あの二人のこと気になってんの?」
男子生徒Bは女子生徒ーー増子に鎌をかけた。しかし彼自身は、そうであってほしくないと思っている。
「別にー。でも、どっちかっていうと尾下君の方がタイプかな」
増子は立ち上がると「じゃあね」と、右手をヒラヒラ振ってその場を離れた。男子生徒Bは咄嗟に上手いことも言えず、曖昧な返事をする。
廊下に出ると、ポケットから携帯電話を取り出して点ける。そして今得た情報を打ち込みながら、上機嫌に鼻歌を奏で、長い黒髪をなびかせて何処かへ去った。