おはようございますっ!
魔法使い。
魔法が使える、不思議な人。
魔女。
魔法が使える、女の人。大体悪者扱いされる。
――これは、私の事かもしれない。
「おい、フィネ」
やわらかい肉球が私のつむじを押す。その力は、思うよりずっと強い。それこそ髪がなくなってしまうんじゃないかーとか思うほどに。私は寝ぼけ眼をこすって声を絞り出す。
「はい……?」
「はいじゃねえよ。さっさと起きろ。そして飯を食え。そして着替えろ!」
怒られた。意味が分からない。
つむじを押したのは、ふわふわした毛に、金色の瞳が特徴の白猫さん。私の幼馴染で、友達で、かけがえのない家族で、相棒さんだ。
私は、ふぁいと曖昧な返事を返す。目の前がぼやっとして、良く見えないけれど、木の床が見える。身体も痛いし、日の光が見えない。ぼんやり考えると、そういえば昨日の夜ベットから落ちたんだっけ。そんな体に鞭打って、ベットに座る。
「なにまた寝ようとしてんだよ、はっ倒すぞ」
「朝から物騒ですよ~、白猫さんも寝ましょうよ」
白猫さんは、やなこったと唾を吐くようなしぐさをした。汚いですよ、白猫さん。そう思う。
「じゃあ、俺は部屋の前にいるから」
変なところで男女の壁を守る猫さん。いや、ありがたいけれども。
丸テーブルの上にある陶器のカップに、水を注ぐ。冷たい水がのど元を通り、一転、爽やかな気分になる。改めて目覚めた顔を上げると、そこには当然のように荒れた我が部屋があった。借りている部屋だから我が、はおかしいのかもしれないけど。
服はクローゼットからはみ出し、かばんは中身を飛び出させて教本の類が顔を見せている。
もともとそんなに綺麗な部屋ではないけれど、これは……と思ってしまう。どうやら寝ぼけ眼で支度をしたのがたたったらしい。
私はまた、溜息一つで気持ちを切り替える。
「よし、今日も頑張りましょうか」
パジャマを脱ぎ捨てて、アイロンをかけたブラウスに手を伸ばす。胸ポケットに刺繍で校章を刻んだ、私の学校の制服だ。袖を通すと、なぜか落ち着いた気分になった。続いて、チェックのスカートに足を通す。左側の腰でホックをつけ、固定する。ジャケットの代わりに魔法使いのローブを羽織れば、立派な『学生魔法使い』である。
「よし!」
かばんの中身を確認する。今日は魔法技能検定競技会、通称まほけんの日だから、教本と魔法の杖だけでいい。……はずだ。多分。
そして部屋と自分の体を見て忘れ物がないか確認する。よし、大丈夫。
「猫さん、行くよ!」
勢いよく部屋を飛び出した。
まあ、つまり、あれだ。
………………あれ、鍵閉め忘れた!?
一階に降りると、酒屋を営むおばさんたちは、まだ起きていないようだった。こっそりキッチンに忍び込み、パンをミルクとバターを用意。パンはちょっと焦げ目がつくかつかないかくらいに焼いておこう。見つかると、こってり絞られるから早く、確実に、音を立てずに。部屋を間借りするものとして礼儀のない行為は~とか猫さんはつぶやいてるけど、腹が減っては戦はできぬ、なんていうし、良いかなと思う。
猫さんには程よくあっためたミルクを用意して、浅い皿にそれを入れる。猫さんがさっさとしろと睨みつけてくるので、私の朝食と浅い皿をトレーで運んで、猫さんが飲めるように皿は床に置く。私は自分の簡単な朝食をテーブルに乗せ、ゆっくりと口に運ぶ。
芳醇なうまみが私を包み込む。そして冷たいミルクを一口飲むと、
「うん、いつも通り美味しい」
と言った。
外はカリカリ、中はふわふわなんて言葉を耳にするけど、私にとってはこれくらいだ。それでも、結構おいしんだから。
「安いやつだな、お前は」
白猫さんは何か言っていたけれど、私は敢えて無視する。
朝の冷たい空気に、温かい東から降る光。それに足元でおいしそうにミルクを飲む白猫さん、いつもの朝食。
日常がそこにあるというだけで、私はとても幸せなのだ。
どうなるかわかりませんが……大筋は決めてるけれど。続くかわかりませんw