表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
荒廃のアスタリスク  作者: ガルムン
プロローグ
2/5

プロローグ2 誰かの手を握って

 上空2000メートル。

無人ステルス偵察機の機内で、1人の少年が通信を待ちわびていた。

「ヴィクター1、応答しろ」

 待ち望んでいた通信がインカムに入る。司令部からだ。

「こちらヴィクター1。作戦の許可は下りたか?」

「肯定。降下した後、生存者を救出せよ。なお、生存者の一部が敵部隊と交戦中と思われる」

「了解した。バックアップは?」

「十分後に増援部隊がヘリで到着する。それまでに付近の安全を確保せよ」

「了解」

「行くぞアイリ、降下準備だ」

 少年は右腕に装着されている端末に話しかけた。「あいあい」と可愛らしい声が返ってくる。狭い機内に浮かび上がる少女の姿。

「太陽、私のこと待たせすぎ!」

 愛らしい少女。いや、幼女というべきか。コバルトブルーの瞳は好奇心で溢れ、きゅっと結ばれた口は桜色を帯びている。

彼女の名はアイリ。少年の戦闘を補佐する、自律型戦闘インターフェイスだ。

ポニーテールを横に流しているのも、彼女がハーフパンツにTシャツという活動的な(戦場には合わないが)格好をしているのも、それはあくまで実戦仕様な為である。

武装は無い。あくまで戦うのは少年自身である。だが、彼女無しでは少年は敵の前に立つことすらままならない。

「仕方ないだろ、許可がおりなかったんだから。あとでペロペロキャンディー買ってやるから許せ」

「ま、また子供扱いして!」

 アイリが顔を真っ赤にして抗議する。彼女は子供扱いされるとすぐムキになるのだ。

「ほら、とっとと行くぞ」

 プリプリと怒るアイリを無視して、降下準備。ハッチを開く。強烈な風が少年の体を煽った。

「太陽、パラシュート?」

「いや、のんびり降下していたら撃墜されちまう。脚部にナノマシンを展開」

「わかった。着地の衝撃をカバー」

「任せたぞ、アイリ!」

 少年は、漆黒の闇へと身を委ねた。


 もの凄い音を立てて、何かが地面へと落下した。

 舞い上がる砂埃。パラパラと砂が辺りへ飛び散る。

「痛ェ……」

 砂埃が晴れる。現れたのは、しゃがんだまま蹲っている少年だった。

男も唖然とした表情をしていた。なにが起こっているのか把握していないらしい。

それもそうだろう。いきなり空から人が降ってきたのだから。

「アイリ!お前失敗しただろ!」

 なにやら怒鳴っている少年。その影から、小さな女の子がぴょこんと顔を出す。

「太陽がみじゅ、くものなんでしょ!」

「そんなとこで噛む奴に言われたくねえ!」


「……は?」

 男が間の抜けた声を出した。

「……一体何なんです?君たちは?」

 男は訳がわからないといった表情を浮かべながら、額に手を当てる。

「まあいい。殺せ」

 機械兵達が一斉に動き出す。残っているのは五機。一部が壊れているとはいえ、人間の敵う相手ではない。

 構えられたガトリングが回転を始める。

「止めて!」

 思わず、遥は叫んでいた。

吐出される弾丸の嵐。もの凄いマズルフラッシュが巻き起こり、嵐に飲まれた少年達の姿が一瞬で見えなくなる。

「全く、訳がわからなかったが、邪魔者は消すだけですよ。一人残らずね」

 男は少年達を見ることもなく、遥に言った。またあの笑みを顔に浮かべながら。

 だが、そんなことは驚くに値しない。

視線は煙の先へ釘付けになっている。

そんな、まさか――

男は遥が驚嘆しているのを見て、ようやく気がついた。自分のことなど目にも入っていない。

「なあ、そこのおっさん」

 煙が晴れていく。そこに現れる二つの影。

「邪魔者ってのは、俺達の事か?」

「馬鹿な……そんな、馬鹿な!」

 男の表情に焦りが生まれる。

ガトリングに使われているのは、7、62mm弾。それが何千発も降り注いだのだ。人間が無事な姿でいるはずがなかった。

にもかかわらず、少年は当たり前のようにそこに立っている。

銃創はおろか、体には傷ひとつ無い。

「撃て!」

「アイリ、シールド展開!」

「あいあい!」

新たな命令を待っていた五機の機械兵達が動き出す。更に発砲。だが、先ほどと同じように砂埃が上がることすら無い。

 少年の正面に、霧のようなものが集まっていた。それが盾のように、全ての銃撃を受け流していく。

降り注いだ弾丸の雨を、少年の前に現れた霧の盾が一発残らず防ぎきる。

「凄い……」

 遥は息を呑んだ。

「ナノマシンだと!?貴様、何者だ!?」

 その少年の姿を見て、男が叫ぶ。もはやその表情に余裕はないどころか、表面に現れた憎悪を隠そうともしない。

「ただの落ちこぼれだよ。お前と同じさ」

 小馬鹿にするように少年が笑った。

「自律による近接戦闘を許可!殺れ!奴らを抹殺しろ!」

 男が叫ぶ。それを受けて機械兵達が散会。

 その中の一機がガトリングをパージ。腕部のガンパレットから近接戦闘用のナイフを展開し、少年達へと襲いかかる。他の機械兵はガトリングの狙いを定めている。

「ナノブレード、展開!」

「わかってるよ!」

 少年の両手に、霧が集まり、形作られていく。稲妻型の双剣が、少年の手に握られる。

 双剣を構え、接近する機械兵目掛け、少年が雄叫びをあげながら突っ込んでいく。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」

一閃。ナイフもろとも両断された機械兵が、為す術もなく爆散する。

あと四機。

脚部から煙を上げている機械兵が、少年達へガトリング砲の狙いを付ける。

回避、いや間に合わない。

迷わず片方の剣を投げつける。胴体に突き刺さり、機械兵は機能を停止する。

あと三機。

発砲しようとしていたもう一機の機械兵に一気に接近。その腕部を叩き切る。武装を無くした機械兵を盾に。少年を狙っていた銃撃が機械兵へ直撃する。ガトリングをまともに喰らい、異音を発してそのまま沈黙する。

あと二機。

機械兵の正面から廃墟に身を隠していたアイリが突っ込む。武器も何もないままただ突っ込んでいく。更に背後からは少年が盾にしていた機械兵を放り、攻撃を仕掛けようとしていた。

キケンドヲハンダン。テキイチ、ブソウナシ。テキ二――

旧式の兵器に、その判断は荷が重すぎた。

 どちらを優先すべきか、判断できなかった機械兵は、頭部と胴部を両断され沈黙。

「な、何をしている!殺せ!」

「センリョクテキフリ。テッタイヲシンゲンスル」

 最後の機械兵は警告を発していた。

「黙れ!ただ命令に従えばいい!奴らを殺せ!」

 命令を受けた機械兵はガトリングを構える。

だが、遅すぎた。

少年が残った剣を投擲。ブーメランの様に宙を滑っていった剣が機械兵の装甲を食い破る。少年は続けて腰のホルスターから拳銃を抜き発砲。むき出しとなった配線を寸分狂わぬ銃撃を浴びズタズタにされ、機械兵は動きを止める。

 これで、ゼロ。

「在庫処分の旧式が、粋がってるんじゃねえ!」

「すごいぞ!太陽!」

 場違いにはしゃぐ少女。

「馬鹿な……たかが人間に……」

 男は信じられない、と呟き、呆然と目の前の光景を眺めている。五機いたはずの機械兵は一機残らずスクラップと化した。

「こうなれば、貴様らもろとも――」

「ちょっとお前ダマレ!」

 いつの間にか回り込んだ少女が男の首筋に飛びヒザ蹴り。男はまともにそれを喰らった。

膝をついて倒れ込む男。どうやら気絶したらしい。

「出来したアイリ!」

「うう……こいつかたい……」

 アイリは涙目になりながら膝をさすっている。アイリの膝周りには霧が集まっていた。

「休んでろ」

 少年の声で、アイリを霧が包み込む。そして彼女の姿は霧に混じり、霧散していった。

「片付いた!至急救援を回してくれ!」

 無線機で救援を要請する少年。通信を終えると、すぐに遥へと駆け寄ってくる二人。

「大丈夫か!ほら、しっかりしろ!」

「貴方は……?」

 すっと手を差し伸ばした少年に、遥は問う。

 近くで少年の顔をはっきりと見た。東洋系の若い男。遠目で見ても雰囲気や声から少年だと判ったが、考えていたよりもずっと若い。

自分と同年代か、一つ二つ下といったところだろう。

「味方だ。君を助けに来た」

「私は……」

「喋らないで。時期に救援が来る」

 少年は、辺りを見回す。炎上しているヘリコプターの残骸を目にして、悲しそうな表情を浮かべた。

「……遅くなってすまなかった。君の仲間は……」

「ありがとう……」

 差し出されている少年の手を握りしめる。

 久しぶりに感じる人の暖かさ。遥はようやく安堵の表情を浮かべた。

遠くなってゆく意識。微かに聞こえるヘリの音。救助が来たのだろうか。

温かな少年の手をギュッと握りしめたまま、遥の意識は暗闇へと消えていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ