一話 強襲
不定期連載です。よろしくお願いします。
今からおよそ150年ほど前、人類がまだ西暦といわれる年号を使用していた頃、それは何の前触れもなく起こった。
異世界の侵食。後にwolrd encroachmentと呼ばれる人類史上最悪の災害。世界各国でピラーと呼ばれる時空断層の柱が世界を穿ち、その断層から大量の異世界の生物が出現した。
当時、石油やレアメタルなどの天然資源をすでに枯渇させ、深刻なエネルギー不足とそれに伴う紛争、利権戦争を行い、心身ともに疲弊していた人類はこの異世界からの脅威に十分な対策をとることも出来ず、異世界に蹂躙された。
この災害のせいで、人類はその数をおよそ5分の1にまで減少させられ、一時は種の存亡危機にまで陥った。
しかし、人類は滅びなかった。異世界が世界を食いつぶしていたのと同様、世界も異世界を侵食していたのである。
世界が手に入れた事象は二つ。一つは人類の心的エネルギー具現化 (イド)への目覚め。もう一つは、異世界からの超自然的エネルギー(マナ)の流出。皮肉なことに侵食から得たこの二つの要因によって、人類は異世界からの侵食を抑え込み、さらなる成長を遂げた。
wolrd encroachment(以下WE)から、150年人類は度々の侵食の危機に陥りながらも生きてきた。
そして現在、この世界同士がお互いを食い合うといった混沌とした「世界」で異世界を探索する人種がいた。人々は彼らを畏怖と尊敬の念を込めてこう呼ぶ、
世界喰と・・・。
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今回の仕事は特定目標の捕獲もしくは殲滅。自分たちの十八番といえる任務だ。しかし、今回の目標はあらゆる意味で特殊だった。
「ターゲットは、異世界クリーチャー・女王種。目標は極東のサードピラーからおよそ北東に100km付近にて確認。むろんガイヤ側でだが、すでに軍団規模のコロニーを形成、侵食は近いだろうとのことだ」
作戦会議の場で状況報告がされた時、その場にいた誰もが息をするのを忘れた。その無謀な作戦内容にではなく、最悪の状況にだ。
「すでに、連合サードピラー常駐軍がガイヤにて防衛線を構築、また国家存亡特例法案により帝国から大和学園都市の教師、上級学生らも緊急徴兵され、戦線投入が決定している・・・。総力戦だ」
女王種が確認された時点ですでに最悪の事態は避けられない。クリーチャー達を無限に生み出し、統率するクリーチャー・女王種とはそのようなものだ。
「だが、連合・帝国共に先の第4次ユーラシアセカンドピラー攻防戦の傷が癒えていない状況だ。負けはすまいが、次回の侵食には耐えきれないだろう」
沈黙の中、女性の鋭い声が続ける。
「そこで、我々の出番だ」
「総力戦になる前に我々が女王を狩る」
我が部隊長、紅 鈴鹿大佐は静かに告げた。
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クリーチャー侵攻からおよそ3時間、自分達はガイヤの地で時を待っていた。
作戦会議終了からの動きは迅速だった。部隊員各々の準備が完了後、女王に最も隣接する場出る小規模ピラーからガイヤに突入、マナで隠蔽したの後、最速でターゲットに限りなく接近。
連合・大和がある程度クリーチャーを引きつけた所で、強襲し女王を殺す。作戦内容に女王の捕獲ともあったが、それは無視した。部隊内ではすでに暗黙の了解となりつつある。上のマッドマッドサイエンティスト達はクリーチャーの中でも特殊な存在である女王種をサンプルを欲しているのだ。いずれにしても女王の捕獲などは現実的に無理であるし、したくもない。捕獲の機会があっても皆必ず殺すだろう。
「そろそろか・・・」
おそらく交信によって情報集と状況確認をしていた大佐が、マナの影響で名の通り紅みがさした髪を異世界の風になびかせながら呟く。そして、静かに告げた。
「作戦を開始する。私が道を作る。後は各自己が役割を果たせ」
彼女が此方を見据え
「リズ、睡、テオで血路を維持しろ。やれるな?」
全幅の信頼を寄せる己が部下に問う。
「「「了解」」」
人種、性別、年齢あらゆる点で異なる三者が一糸乱れず答える。
そして最後に、
「アキラ」
彼女は俺に
「はい」
「お前が女王を狩れ」
大功を所望した。
「了解」
すべてはあなたのために。
何時から詠唱を行っていたのだろか、彼女の周りにはすでに戦略級の魔術の幾何学魔法陣が編み出されていた。
「いい返事だ。では始めよう。貫き穿て!!」
彼女の一言で天からマナの光が降り注ぎ、女王を中心とした半径一キロ四方と俺たちから女王までの直線状の敵が一瞬にして消滅した。
「死んだら屍は拾ってやる。さぁ、行って来い!!」
精神からイドを引き出し、大気からマナを集め解放、イドとマナを併用することによって通常ではありえない運動エネルギーを身体に纏わせる。そして、俺は女王に向かい疾駆する。
「開戦だ・・・」
死闘が始まった。