ラーメン店
「嬢ちゃんネギいるかい?」
「ううん。いらない」
小さなラーメン屋。客は二人。小さな女の子とその父親。
店主は小さな女の子にネギを勧めるものの、女の子は首を横に振った。
店主はカウンターに身を乗り出していたずらっ子のような表情になった。
「なんだ、美味しいぞ?」
すると、女の子は嫌な顔をして
「だって辛いじゃん。うちはきらいだもん」
そう言った。
まだ小さい手でレンゲと箸を使いちょっとづつ麺を食べていく。
「はっはっは、それはな、火が通ってないからだよ!ほれ、これ食ってみな。甘いぞ~?」
店主は豪快に笑い、小さな器にスープと火が通ったネギを渡した。
女の子は素直に受け取り、ジッとネギを見た。
そして、まだきちんとした持ち方ではない箸でネギを拾い、口に入れた。
「えぇー。……ほんとうだ!おいしい!お父さん!ネギがおいしい!」
女の子の口にはあの辛さではなく甘みが広がった。
女の子は凄くうれしそうな顔で隣の父に話しかけた。
「そうか。よかったな」
父はフッと笑い女の子の頭を撫でた。
女の子はもっと笑顔になって残りのネギも食べた。
「だろう?ほれ、もっとネギいるか?」
「うん!」
女の子は今度は首を縦に振った。
―――今もうあのラーメン屋は無い。いや、あったかどうかもわからない。夢だったのか現実なのか。
ただ、記憶にあるだけ。これがあったから一つ嫌いな物が減った。
夢か現実か。今となっては知る術も無い。
実話なんですよ、これ。
本文にもあったとおり、夢なのかはわかりませんが。
でも、味が分かっているから現実でしょうね。
今では、かなり好きですよ。ネギ。