久遠透真の事件簿 ~異世界ものオタクの探偵が現実世界で無双します~
勇者パーティーの追放者は密室に戻ったか
久遠透真はコーヒーを飲みながら追放もののアニメを見ていた。役立たずと勇者パーティーを追放された主人公が、実はすごいスキルで成り上がっていくやつだ。
「今回は追放した側のパーティーが反省するパターンか」
久遠は呟く。反省せず主人公にちょっかいかけて、返り討ちにされる方が私は好みなのですが。そう思いながらも、気づくと話は7話まで進んでいる。
電話が鳴ったのはその時だ。
「はい、久遠透真探偵事務所」
「俺だ、御堂だ。またお前の力を借りたい。ちょっと今から出られるか」
「あと5話分見てからでも良いですか?主人公が勇者パーティーに戻るかどうかの瀬戸際なんです」
「また異世界ものかよ。まあちょうどよかった、実はな、その勇者パーティーのリーダーが、追放された主人公とやらに殺されたようなんだ。もちろん、この現実世界でな。な、興味あるだろ?すぐ来てくれよ」
しぶしぶアニメの続きは諦め、久遠がゲーム会社に着いたときには、既に現場検証は終わり、開発フロアは乾いた静けさに包まれていた。
御堂刑事の後ろから、久遠はフロアを観察する。机の端に並んだ栄養補助飲料の空きボトル、床につきそうになっているブランケット、ちょっと鼻をつく数日間洗っていない服の残り香。
「まるで残業続きのギルド本部ですね」
久遠がぶつぶつ言っていると、御堂が振り返った。
「残業続きなのは確かなようだな。商品のゲームが立て続けにヒットして、人手不足で社員は皆徹夜続きだそうだ。」
壁には開発中らしきファンタジーRPGの仮広告が貼ってある。剣を掲げる勇者と、背後にそびえる黒い城。久遠の目が少し輝いた。
御堂は興味なさげに続ける。
「殺しの現場は、この第一会議室だ。ちょうどそのゲームの開発部屋と化していたそうだ。」
例え社内でも秘匿性の高いプロジェクトだったのだろう。会議室は曇りガラスで覆われ、中は見えないようになっている。出入り口も、エレベータからフロアを通らず直接入れるようになっていた。
御堂がドアを開けると、床にはまだ血痕が淡いシミのように残っていた。
「被害者は、ゲームの開発責任者の眞鍋靖彦。胸をナイフで刺されて床に倒れているのが発見されたのは今朝、出社した開発チームの一人が発見したそうだ。死亡推定時刻は深夜1時ごろだな。中が見えないようなっているだろ?それで発見が遅れたみたいだ。」
会議室は自体は普通だった。長机に椅子が並び、前の方にホワイトボードがある。ホワイトボードには、戦士、魔法使い、僧侶、盗賊といった職業名が並び、その横に成長率、スキル倍率、回復量、クールタイムらしい数字と大量の数式が書き込まれていた。
久遠がホワイトボードの前から動かないのを見て、御堂はため息をついた。
「本題はゲームじゃなくて現実世界の殺しなんだからな。まあでも、呼んでおいてなんだが、状況証拠はもうそろっているんだ。」
久遠が始めて御堂刑事の方を向いた。
「この会議室はスマートロック式で、フロア側のドアに昨夜22時以降入退室履歴はない。エレベータ側のドアは、午前0時45分に眞鍋、そしてその3分後に秋山透だ。そして1時46分に秋山だけが退室している。」
「なるほど、しかし」
「動機、だろ?この秋山は、一週間前にプロジェクトから外された、元チーフプランナーだそうだ。逆恨みの犯行。動機としては十分だろ?」
「ヒットを連発する勇者パーティーからの追放者、ということですか」
久遠が満面の笑みを作る。
半ば諦めたような表情で御堂刑事が続けた。
「その追放者と、勇者パーティーとやらのメンバーにこれから話を聞くところだ。一応、お前の意見も聞きたいと思ってな」
「私は勇者パーティーの魔法使いが怪しいと思いますね。大体性格悪いですから。追放した主人公のスキルのおかげで戦えていたのに、それを自分の力だと勘違いして。しかも反省せずに主人公が悪いと決めつけて、逆に復讐しようとしたりして。まあそれを主人公が返り討ちにするのがいいんですけどね」
「わかったわかった。俺の言い方がまずかったな。お前の意見を聞きたいのは、これから聞き取りをする容疑者候補たちの証言内容だからな。」
*
秋山透は、ひどく疲れた顔をしていた。先程までずっと警察の尋問を受けていたせいか、はたまた昨夜遅くまで何かしていたのか。無精髭が伸びているが、目の輝きは失われていない。どことなく漂う清潔感。
やはり追放された主人公だな、と久遠は思った。
「僕は眞鍋を殺していません」
秋山は開口一番言った。
「ただ、そう言っても誰も信じてくれない。社内の人間はみんな、僕ならやりかねないと思っている。この間まで、僕はあのプロジェクトのほとんど全部を見ていましたから」
御堂刑事が確認する。
「だが、実際、犯行のあった会議室には被害者の眞鍋さんの他には、あなたの入退室ログしかないんだ。深夜1時頃、あなたはここに来て彼を殺した。違うかい?」
「いえ、昨夜は家から一歩も出ていませんよ。今朝警察の方に起こされて、初めて眞鍋リーダーに起きたことを知りました。私の社員証はここにあります。一体どうやって犯人が私のログをつけたのか、私にもわからないんです」
「アリバイは無いわけだ。予備の社員証はあるのか?」
「確か数年前に作ったことがあります。あの時は最初のゲームを作っている時で、徹夜続きで作業しているうちに、社員証を無くしてしまったんです」
「それで新しく発行したと。その予備の社員証は今どこにあるんだ?」
「さあ。ゲームが完成して机を整理していたら、元の社員証を見つけたので、それから予備は使っていなかったんです。存在自体、忘れていました。あの頃は世界最高のゲームを作るという夢に向かって皆で頑張っていたんですが」
久遠が口を挟む。
「そんな勇者パーティーをあなたが追放された理由はなんですか?」
御堂刑事が咳払いをして言った。
「こいつは久遠透真、こう見えて腕利きの探偵なんだ。君が犯人じゃないっていうなら、協力してやってくれ」
秋山は久遠をまっすぐ見つめると、何か感じるものがあったのか、小さく頷いた。
「眞鍋リーダーに言われたんです。お前の設計は古い、いまはAIがバランスを見る時代だ、と。僕は反論しました。AIにゲームはまだ早い。私たちのキャラクターへの想いや好みが面白さの源泉なんです」
秋山がため息をついて続ける。
「でも私以外のメンバーは全員リーダーに賛成した。そう、あの時もちょうどこの会議室でしたよ。明日から来なくて良い、そう言われて僕は外されました。あいつら、嘲笑うかのような目で僕を見て…」
久遠は机の上に無造作に置かれていた資料を手に取った。
敵の出現間隔、回復アイテムの希少度、序盤の難易度曲線、職業ごとの成長率。資料は緻密だったが、ただ数字を並べているわけではなく、プレイヤーがどこで迷い、どこで勝ち、どこで悔しがるかまで考えられているように見えた。
「この資料、あなたが作ったんですね」
「ええ。キャラクターデザインに合うように成長曲線を変えたり、実装負荷を考えて敵配置を削ったり、クエストの難易度を調整したり、そういう積み重ねです」
秋山は懐かしそうに資料をパラパラとめくる。
「僕は他のメンバーのように、何か特別な才能があるわけではありません。でも、誰かが困っていたらそれに気づいて、フォローに回るのは得意でした」
「補助スキルですね、わかります。結局補助スキルが最強ですよね」
「補助スキル?」
思わず御堂刑事が口を挟んだ。
「気にするな、こっちの話だ。それで久遠、質問の途中だったな?」
「チームは、あなたを外したあともこの資料を使っていたと思いますか」
秋山はすぐには答えなかった。
「多分、使っていたと思います。元データやコードも共有フォルダに残していきましたから。でも、それを認める人はいないでしょう。僕を古いと言って追い出した以上、僕の資料がないと回らないなんて、言えるわけがない」
「そこのホワイトボードのキャラクター能力値に見覚えは?」
秋山が顔を上げ少し考える。
「よくわかりましたね。数字は私がいた時と変わっていますが、数式は私の考案した公式に基づいています。」
久遠は小さく頷いた。
「勇者パーティーは追放者の補助魔法を使い続けていたわけですね」
*
御堂刑事が続けて開発チームメンバーを呼ぼうとすると、久遠が言う。
「パーティーメンバーの話は、彼らのデスクで聞きましょう。冒険者は、家にいる時ほど素が出るものです」
一人目は、リードプログラマーの南颯太だった。細身で、眼鏡の奥の目が常に何かのエラーを探しているように動いている。彼のデスクにだけは書類が全くなく、モニターが二画面と、キーボード、それに右端にエナジードリンクの缶が三本、きれいな正三角形に並べられていた。
「秋山さんには、動機があったと思います」
南はそう言った。
「眞鍋さんにかなりきつく言われていましたから。会議でも、あなたの設計は古い、もうあなたの時代じゃない、みたいなことを言われていて」
「なるほど。それで、あなたは昨晩はどこに?ああ、疑っているわけじゃないぞ、定型的な質問ってやつだ」
御堂が尋ねると、南は少しムッとした表情で答えた。
「さっきも答えましたよ。昨日は珍しく眞鍋リーダーが22時には全員帰れって。そんなこと今までなかったんで、何となく怪しい気はしてたんですが。今思えば秋山さんに呼び出されてたのかな。」
「それで?」
「まあとにかく、そう言うことだったんで、22時過ぎには会社を出て家に帰りましたよ」
「南さん、あなたは一人暮らしだったな。アリバイを証明できる人はいないと」
「まあ、そうですね」
デスクの周りをフラフラしていた久遠が口を挟んだ。
「南さん、エナジードリンクの缶で魔法陣でも描いてるんですか?綺麗な星型だ。あなたはきっと仕事も丁寧で完璧なんですね」
「魔法陣?いや、ちょっとしたジンクスっていうか。いつも5本貯めて、置いておくんです。そうするとコードのエラーが解決したりするんですよ」
南は続ける。
「まあ、完璧主義っていうのは認めます。正直、この会社で腕は一番と自負していますよ。眞鍋リーダーの進めていたAI導入が実現すれば、もっとすごいゲームを作ることもできたのに、残念ですよ」
南が出て行った後、御堂刑事は久遠に言った。
「お前、初対面の人には異世界ものの話するなよ、すごい目で見られてたぞ。南はアリバイはないが、眞鍋を殺す動機もないと言ったところか」
久遠は聞こえないふりをした。
*
次は、キャラクターデザイナーの佐伯美緒だった。肩口で切り揃えた髪に、黒いニット。彼女のデスクには、ゲームキャラクターのラフが何枚も重ねて置いてあった。何枚かの端には赤字で「秋山案ベース」と書かれた付箋が貼られていた。
御堂刑事が再び定型質問をすると、彼女は答えた。
「22時に上がれたのなんてずいぶん久しぶりで、何をして良いかわからなくて。デパートもレストランも閉まっているし。結局そのまま家に帰って、ご飯も食べずにすぐ寝てしまいましたわ」
佐伯はカップを両手で包みながら言った。中のコーヒーはもう冷めているらしく、湯気は立っていない。
「全く、迷惑な話ですわ。朝からあんな酷い姿を見るなんて。おかげでコーヒーしか飲む気になりませんの。秋山さんたら、自分がプロジェクトから外されたからって逆恨みも甚だしいですわ。時代遅れっていう自覚がなかったのかしら」
朝出社して眞鍋の死体を発見し警察を呼んだのは佐伯だった。御堂刑事は既に嫌というほど彼女から文句を言われているのか、反応が鈍い。
久遠はコーヒーの匂いを興味深そうに嗅ぎながら、彼女に尋ねた。
「佐伯さん、そういう割には、あなたのラフは秋山さんの案が元になっているようですね」
「ああ、これですの?別に使わなくてもできますわよ。ただ、もう途中まで進めてしまっていますから、デザインの整合を崩さないようにと配慮しただけのことですの」
御堂刑事が最後に尋ねた。
「それで、眞鍋さんが昨夜早くチームを解散した理由に何か心当たりは?」
「さあ、眞鍋リーダーも休みたくなったんだと思っていましたわ。最近なんだかイライラしていましたから。私のキャラクターデザインには何の問題もなかったと思いますけど、コーディングやスクリプトにきっと不満があったんですわね」
佐伯がこれ見よがしにため息をついた。
「せっかく秋山さんがいなくなって、優秀な人だけが残ったと思っていたのですけど。私だけだったのかもしれませんわ」
*
三人目は、スクリプト統括の白石悠斗だった。彼のデスクは、大小様々なカラフルな付箋が折り重なるように貼ってあった。
「ふとした思いつきを全部メモしているんですよ。何がゲームスクリプトにつながるか分かりませんからね」
御堂刑事と久遠がデスクに近づくと、質問がわかっているかのように白石が答えた。
「仕事柄、常に次何が起こるのか、何を聞かれるのか考えて行動しています。ですから、当然秋山さんが眞鍋リーダーを手にかけるという可能性も考慮していましたよ。まさか本当に実行するような勇気が彼にあるとは思っていませんでしたがね」
そうスラスラと話す白石は、確かに他の二人と比べると落ち着いていた。足を組みまだ湯気の立つお茶をすすっている。
「ずいぶんと落ち着いているんだな。まるで警察が取調べに来ることも予測していたようだ」
御堂刑事が聞くと、白石は鼻で笑った。
「自分のプロジェクトのチームリーダーが殺されたんです。もちろん自分が容疑者の一人になるということは今朝話を聞いてすぐに思い至りましたよ」
白石が続ける。
「アリバイはありませんよ。昨夜は22時ちょうどに退社して、一人暮らしの自宅で本を読んで寝ただけですから」
デスクの付箋を手に取って眺めていた久遠が口を挟む。
「白石さん、あなたのメモは非常に面白い。ですがまるで複数の人格が宿っているようだ。これは全部あなた自身のアイディアですか?」
白石は嫌そうな目をして久遠を見た。
「勝手に付箋の場所を変えないでくださいよ。その辺に埋もれているのは秋山さんの言っていたことをちらっとメモしたものですね。まあ、埋もれていることからも分かる通り、全然見ていませんけどね」
「あなたから見て、このパーティーはうまく行っていましたか」
久遠が続けて尋ねた。
「正直、この1週間は停滞していましたね。自分は毎日たくさんのゲームシナリオを作ってリーダーに渡していましたけど、南さんと佐伯さんはかなり苦労していたんじゃないですか」
「南さんと佐伯さんは、ね」
「まあ、プロジェクトにはよくあることですよ。あと数日もすれば、また全てうまく回り出すと思っていましたよ。だからきっとリーダーも、昨日は皆を早く返して空気を変えようとしたんだと思いますよ」
*
一度会議室に戻った御堂刑事と久遠は、一息つくことにした。
「それにしてもなんだあいつらは。揃いも揃って自信家ばかりだな。口では秋山はだめだと言いながら、皆どう見ても未だに頼っているじゃないか」
「ええ、そうですね。会議室のホワイトボードの秋山公式や、資料のデータは南さんがコーディングに使っていたのでしょう。佐伯さんは秋山さんのキャラクターデザイン案をそのまま使っているようでしたし、白石さんは秋山さんの付箋メモを最近も見ていたのでしょう。上から貼った付箋は白紙でした。問題はー」
「誰が犯人か、だな。入退室ログに関しては、秋山の話を聞いて調べさせた。確かに、彼が使っていたデスクの引き出しに予備の社員証が入っていた。犯人がその存在を知っていたなら、犯行の際に抜き出して、後で戻しておくことはできる。」
久遠はため息をついて肩をすくめた。
「違いますよ御堂刑事!問題は、誰が魔法使いかということです!言ったでしょう?補助スキル持ちを追放する勇者パーティーの犯人は魔法使いと相場が決まっていると」
御堂刑事は何も言わない。
「被害者の眞鍋リーダーは、おそらく剣士です。かなり強引なところもあったようですし、パーティーのリーダーはだいたい剣士です。あとの三人は、魔法使いに盗賊、そして治癒師でしょうね。問題は、プログラマーの南さん、キャラデザの佐伯さん、スクリプターの白石さん、誰がどの役職かです」
「お前はいつもそうやって異世界に当てはめようとするな。だがそれでいつも謎を解いてしまうんだから不思議なものだ」
「うーん。自分たちが追放した補助スキル持ち無しでは何もできないとわかった時、勇者パーティーはどうするか」
「どうするんだ?」
御堂刑事が一応相槌を打つが、一人思考にふける久遠には届いていないようだった。
「おそらく、リーダーの眞鍋さんは真っ先に気づいたのでしょう。残されたパーティーメンバーが、秋山さん無しでは期待成果をあげられないことに。次に気づくのはおそらく魔法使いだ。魔力を底上げするポーションなんかに手を出して、怪物になってしまうのはよくあることです」
「ポーション?確かに三人とも、エナジードリンクやら冷めたコーヒーやらお茶やら飲んでいたが」
「エナジードリンクに冷めたコーヒーにお茶。御堂刑事、さすがですね。そういうことですか」
「何?犯人がわかったと言うのか?」
久遠は満足気に頷くと宣言した。
「チート能力、異世界探偵を発動します!」
「毎回それ言うよな」
御堂刑事のつぶやきは久遠には届いていないようだった。
*
久遠は翌朝、犯行現場の会議室に関係者を集めた。隣には御堂刑事、そして久遠を囲むように、追放された秋山、プログラマーの南、キャラクターデザインの佐伯、スクリプターの白石。
「秋山さんが犯人だというシナリオは、よくできていました」
久遠はそう切り出した。
「勇者パーティーを追放された元チーフプランナー。強い動機とログ。パーティーメンバーからの証言。でも、あなたたちは追放ものの良さをまるでわかっていない」
「追放ものが何だか知りませんけど、これだけ状況証拠が揃っているのでしたら犯人は秋山さんなんじゃないですか?」
南が秋山を睨むように見る。
「秋山さんはプロジェクトから追放されました。しかし、秋山さんの補助スキルをあなたたちはずっと使っていた。それは皆さんも自覚しているはずです。しかし、だんだんボロが出てきた。秋山さん無しでは、何も新しいアイディアが浮かばない。新しいシナリオを作れない。プロジェクトは停滞していった。違いますか?」
誰も反論しなかった。皆口を開きかけたが、何も言えないようだ。
「それを眞鍋リーダーはいち早く察した。眞鍋さんはきっと気づいたのでしょう。秋山さんを追放してはいけなかったのだと。そしてこのままではプロジェクトは失敗し、自分は責任を取らされ失脚すると」
久遠は容疑者たちを見ながら続ける。
「だからあなたを呼び出して、全ての責任をなすりつけようとした。違いますか?」
久遠は一人に向かって指を突きつけた。
「南さん」
全員が目を見開いて南を見た。
「そんな、南さんが犯人だなんて、そんなの嘘ですわ」
「そうだ、彼を犯人扱いするなら証拠があるんだろうな」
佐伯と白石が反論するが、南は何も言わなかった。
久遠が続ける。
「眞鍋リーダーは、あの日22時に全員を退社させる時、南さんにだけ後で会議室に来るように伝えた。南さんはきっと眞鍋リーダーが何かしてくると察しがついたのでしょう。秋山さんの予備の社員証を持って一度会社を出た」
久遠が南をちらりと見る。
「あなたは完璧主義者で整理整頓も得意です。秋山さんの予備の社員証がどこにあるかもわかっていたのでしょう。そして深夜、秋山さんの社員証で会議室に入ると、案の定眞鍋リーダーは脅しをかけてきた。犯行に使われたナイフも、眞鍋リーダーがあなたを脅すために持ち込んだものだったのではないですか」
御堂刑事が声を上げた。
「なるほど、それなら筋は通るな。容疑者四人を洗っても凶器の出所がつかめなかったわけだ」
「言ったでしょう、剣士は眞鍋リーダーだと」
久遠がむすっとしていると、南が始めて口を開いた。
「久遠さん、妄想はそれで終わりですか。今のお話に、私が犯人だと言う証拠は一つもない」
久遠は首を振ると続けた。
「いいえ、この物語には続きがあります。あなたが最初から彼を殺すつもりだったのか、揉み合っているうちに殺してしまったのかは分かりません。とにかく、あなたは眞鍋リーダーを刺してしまった。そしてあなたは落ち着くために、一度自分の席に戻った。そこで」
少し微笑みながら久遠が言う。
「あなたはエナジードリンクを飲んだ。飲んだ缶は魔法陣に加えなければならなかった。それがあなたのルールだから」
南が顔を上げた。
「昨日お話を聞いた時、魔法陣の缶の1つには、まだ飲み口に液体が残っていました。22時に残業せず帰宅する人は、エナジードリンクは飲まない、違いますか?」
御堂刑事は慌てて部下に現場検証の写真を持って来させると、確認して頷いた。
南はしばらく何も言わなかったが、諦めたように口を開いた。
「殺そうと思ったわけではないんです。眞鍋リーダーがまさかナイフまで用意して、僕を脅してくるなんて。チームに欠かせない秋山さんを、僕が恨んで追放したことにしろって言ってきたんです。そんなことできませんって僕も思わず熱くなってしまって、気づいたらナイフが…」
南は泣き崩れた。
「もうどうしたらいいかわからなくて、ふと時計を見たら1時を過ぎていて、気づいたらいつもの習慣でエナジードリンクを買って飲んでいました。空き缶で星型を作ったら少し落ち着いて、このまま秋山さんを犯人にしようと思って。指紋なんかも拭いて完璧だと思ったんですが」
うなだれる南を御堂刑事が連行して行った。
*
久遠とともに秋山、佐伯、白石が残された会議室には気まずい空気が流れていた。
「秋山さん、私思い出しましたの。ずっと秋山さんのお世話になっていたと。どのキャラクターも、秋山さんにアドバイスをいただいて作成していたのですわ。でも眞鍋リーダーに騙されてしまいましたの。さあ、犯人はいなくなりました。私たちのチームに戻ってきてくださいまし」
「その通りです。三人で天下を取る未来が私には見えます」
佐伯と白石が秋山に言いよると、久遠が遮った。
「佐伯さん、白石さん、勘違いしてはいけません。追放された主人公は、新しい居場所を手に入れて幸せに生きるものです。またパーティーを組もう、なんて言っても無駄ですよ。新しいパーティーメンバーは別で探すことです」
秋山が驚いたように言う。
「よくわかりましたね。実は僕、退職することにしたんです。プロジェクトから外されて、久しぶりに田舎に帰ったのですが、すごく居心地が良くて。幼馴染もいますし、のんびり農業でもしながら余生を送ろうかなと思っています」
「私たち、これからどうすれば良いんですの」
「このシナリオは、僕も予測していなかった」
「幼馴染と一緒にスローライフ転生だと」
頭を抱えた佐伯と白石は、一人違う反応をしていることに気づかなかった。
*
その夜、久遠は事務所のソファで、悪役令嬢もののアニメを見始めた。今回の事件の結末を考えると、追放ものの続きを見る気にはならなかった。
画面の中では、きらびやかな舞踏会の壇上で、王子が令嬢を糾弾している。背後では貴族たちが息をひそめ、白い手袋をした令嬢は、静かに王子を見つめていた。
翌朝、御堂から電話が鳴った。
婚約披露パーティで死者が出た、という話だった。
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