出会いの剣
「おい、聞いてんのか!?」
怒声と、顔のすぐ横を掠めた蹴りに目を覚ます。
背中を預けていた校舎の壁に、衝撃がビリビリと伝わってくる。
後頭部がズキズキと痛む。
どうやらさっきまで気を失っていたらしい。
「ようやく目を覚ましたか、秋元くん?」
胸ぐらを掴まれ、無理やり上体を起こされる。
「だから持ってないって……ぐっ!」
口を開いた途端、頬にパンチが叩き込まれる。
俺が無様に倒れるのを見て、取り巻きの二人がゲラゲラと笑う。
「嘘つくなよ〜。ほら、今週は3万円渡すだけで済むんだぜ?」
最悪だ。こんな目に遭うなら最初から……
地面に横たわる体に再び蹴りが入り、意識が再び暗転した。
最初はただ助けたかっただけだ。
カツアゲされているクラスメイトの身代わりにと、易々とお金を渡してしまった。
趣味もなく、なんとなく貯めていたお金があったから、その時はそれほど苦ではなかった。
一度で済むと簡単に考えていた俺が馬鹿だった。
何度も繰り返されるうちに、金額も頻度もどんどんエスカレートしていった。
いつか何か趣味ができた時に使おうと貯めていたお金は、もう底を尽きていた。
傷だらけの体を引きずりながら校門をくぐる。
出てすぐのところで、小柄な男子生徒が待ち構えていた。
「あ、秋元くん……ぼ、僕……」
一生懸命声を絞り出そうとしていたが、次の言葉に詰まって黙り込んでしまった。
これ以上聞きたくなくて、無視して歩き出す。
そうだ。別に謝ってほしいわけじゃない。ただ……。
帰り道のコンビニに寄る。
なんとなく髪を整えて額の傷を隠し、
「これお願いします」
絆創膏をレジに置いて財布を開く。
小銭入れを探って、なんとかギリギリ購入できた。
近くの公園で傷口を洗い、絆創膏を貼る。
夕暮れの公園。5時までは小学生のたまり場になるここも、今はすっかりガラガラだった。
落ち葉を散らしながら吹く風に、急に強い孤独感が押し寄せてきた。
「なんでこんなことになったんだろうな……」
口に出したら、涙が溢れて止まらなくなった。
もっと早く誰かに相談していれば。
最初から無視を決め込んでいれば。
カツアゲされていたあの子を無視していれば……。
ちらりと浮かんだ悪魔のような考えに、自分自身が嫌になる。
「もう限界だ……」
突然、体がふっと軽くなった。
そのままベンチに倒れ込むようにして、意識が落ちた。
風の音と、木々の葉が揺れる音で目が覚めた。
気づけば、林の中にいた。
「え……ここ、どこだ……?」
爽やかな風が頬を撫でる。
傷だらけだった体が、嘘みたいに綺麗になっている。
後頭部に触れても痛みはなく、腫れもない。
腹部にあった青黒い痣も、跡形もなく消えていた。
「もしかして夢……? でも、なんだかリアルすぎる……」
痛みの引いた体を起こし、辺りを見回す。
少し離れたところに、林の中を抜ける細い小道が見えた。
「ここを進めば、どこかに繋がってるよな……?」
道沿いに歩き始める。
凸凹した木の根に何度もつまずきながら、それでも前へ進む。
「夢じゃないなら、この場所はいったい……」
ぼんやり考えながら歩いていると、突然小さな生き物が飛びかかってきた。
「な、なんだ!?」
大きさ的には猿かと思ったが、体毛がなく、尖った耳が生えている。
精一杯の力でそいつを投げ飛ばす。
ようやく全体像が見えた。
「もしかして……ゴブリン!?」
投げ飛ばされて頭を打ったのか、軽く混乱しているようだった。
細い腕の先に付いた小さな手で頭を押さえ、首を気味悪く振る。
未知の生き物を前に、恐怖で体が固まる。
ゴブリンが地面に落ちていた小枝を拾い、林の奥へ投げ込む。
それを合図にしたように、四方からカサカサと草をかき分ける音が響き始めた。
どこから来るのか分からず、動けずにいると、
突然、5匹のゴブリンが飛び出してきた。
最初に襲ってきた個体よりも一回り体が大きい。
集団で襲いかかってきた瞬間、やっと体が動き出した。
重い足を必死に動かし、小道沿いに林の中を逃げる。
途中で張り出した根に何度もつまずきながら、それでも走り続ける。
「キー! キキー!」
後ろからゴブリンの甲高い鳴き声が迫ってくる。
足音からして、すぐ後ろまで来ているのが分かった。
投げられた小石が背中に当たる。
それでも力を振り絞って走り続ける。
ここで捕まれば、殺されてしまうかもしれない――そう思うと、足を止めることはできなかった。
進み続けると、林の出口が見えてきた。
「はぁ、はぁ……あと少し……!」
最後の力を振り絞って出口を目指す。
もう少し、もう少し――というところで、地面に倒れ込んだ。
ゴブリンが投げた石が、アキレス腱にクリーンヒット。
突然の激痛と同時に、右足から力が抜けた。
一瞬で理解できず、起き上がれない。
すぐに追いつかれ、横たわる体に数匹の小さな体がのしかかってくる。
もうだめだ……ここでも俺はっ……
諦めかけたその瞬間、
体を覆っていたゴブリンたちが一斉に飛び退いた。
顔を上げると、目の前に剣を構え、鎧を身に纏った女性が立っていた。
「これ以上好きにはさせないからね!」
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