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都市伝説好きな少女の記録

グーリンと呼ばれた熊のぬいぐるみ

作者: 大浜 英彰
掲載日:2026/01/26

挿絵の画像を作成する際には、「Ainova AI」と「Gemini AI」と「AIイラストくん」を使用させて頂きました。

 お気に入りのぬいぐるみに名前をつけて、お出掛けに連れて行ったり写真を撮影したりする程に入れ揚 げる。

 そうした所謂「ぬい活」と呼ばれる行為が市民権を得てから、もう随分になるね。

 だけど過度な感情を込め過ぎるのは、ちょっと考え物かも知れないよ。

 何しろ人形と同じく、ぬいぐるみは魂の依り代になりやすいからね。


 私のクラスメイトの従姉にあたる高校生の高石羽衣子さんも、熊のぬいぐるみに「グーリン」って名前をつけて可愛がっていたの。

 羽衣子さんはグーリンを色々な所に連れて行っては、ぬい活写真を必ずと言ってもいい程に撮影していたんだって。

 浜寺公園のバラ園に通天閣の展望台、それに御堂筋のイルミネーション。

 それらの写真はアングルも凝っていて、羽衣子さんのグーリンに対する愛情が溢れていたんだ。

 言うまでもない事だけど、羽衣子さんはグーリンを家族旅行にも連れて行っていたみたい。

 春休みの台湾旅行や夏休みのバヌアツ旅行にも連れて行って写真も沢山撮影したし、今年の正月休みを利用した犬吠埼での温泉旅行でもそうするつもりだったらしい。

 しかしその冬の温泉旅行が、羽衣子さんとグーリンの蜜月に終止符を打ったんだ。

 運命の悪戯は、「東洋のドーバー」と名高い景勝地の断崖で起きてしまったの。

挿絵(By みてみん)

「きゃっ!」

 突如として南南東微南より吹いてきた冷たい強風が、羽衣子さんの手からグーリンをもぎ取ってしまったんだ。

「あっ!?グーリン!」

 慌てて手を伸ばしたけど、もう遅かったの。

 綿を芯にした熊のぬいぐるみは勢い良く吹き飛ばされ、断崖の真下で荒れ狂う冷たい冬の太平洋の白波へ水音も立てずに消えていってしまったんだ。


 言うまでもない事だけど、羽衣子さんはすっかり意気消沈してしまった。

 御両親が同じぬいぐるみを探し求めて買い与えても「あの子はグーリンじゃない」と言って見向きもしないし、すっかり食が細くなって痩せ衰えちゃうし。

 止むを得ず高校を休学させて心療内科へ通院させても、羽衣子さんの病状は全く好転しなかった。

 それどころか此の頃は、何もない空間に向かい「グーリン、そこにいたの?」と話し掛ける始末。

 心療内科の先生は「ぬいぐるみを紛失したストレスからイマジナリーフレンドの生成に至った」と一応の説明をつけたものの、治療は遅々として捗らなかったの。


 そうして間もなく一年が経とうかという今年の十二月上旬、高石さんは藁にも縋る思いでクラスメイトの私に話を持ち掛けたんだ。

「もしかしたら鳳さんなら何とか出来るんじゃないかって…」

 確かに今年1年は、理科室で蛇の動物霊を祓ったり遠足先でヒダル神の対策をしたりと色々と目立つ事をしたからね。

 そうした現代科学では一筋縄ではいかない案件への御意見番みたいな位置付けになるのも、ある意味では必然かも知れないよ。

挿絵(By みてみん)

「先方の御両親に話は通してあるんだね?それなら結構。それでグーリンと同じぬいぐるみも、まだ家にあるんだ。よし、だったら何とかなりそうだよ。」

 高石さんから話を聞いた私は、頭の中でプランを組み立てたんだ。

 何事も万全の準備と綿密な計画とが大切だからね。


 そうして吉日を選んだ上で、私は高石家を訪れたの。

挿絵(By みてみん)

「グーリン、お客さんだよ。」

 親しげな口調で誰かに話し掛ける羽衣子さんだけど、その目線の先には壁があるだけだった。

 彼女の話し相手が物質的な存在ではないのは明白だったよ。

「今は冬場で空気が澄んでいるから、御香の煙が立ちやすいのは好都合…しかし空気の乾燥は火事の原因にもなりかねませんから、消火器をしっかり構えていて下さいよ。」

 そう高石夫妻に指示を出しながら、私は儀式の準備に取り掛かったんだ。

 椅子にかけた羽衣子さんを囲むようにチョークで籠目紋を描き、用意した御香を焚き上げる。

 ネパール産の甘松の芳香が室内を満たしたタイミングを見計らい、私は赤い敷物の上に座りポケットから目当ての品を取り出したんだ。

「さあ、この左右に揺れる五帝銭の動きをよく見て…目を逸らす事は出来ない。貴女の潜在意識と其処に巣食う者の心の眼は、この軌道に釘付けなのだから…」

 吉祥結びで束ねた銅銭の振り子運動を強調するかのように、赤い房飾りが優雅に揺れる。

 平安扣として付けたドーナツ型の天然石が、天井のLED灯を静かに反射した。

「う…うう…」

 すると羽衣子さんの華奢な身体がビクッと震え、その輪郭がブレ始めたんだ。

「う、羽衣子?」

「これは一体!?」

 御両親が上げる驚愕の呻きに、私は小さく頷いたの。

 私と違い霊感の乏しい御両親にも、この光景が見えているって証拠だからね。

 嵐山の牙城大社で御神酒として用いられている清酒は、やっぱり効果抜群だよ。

 霊視だけじゃなくて厄除けにも効くんだから、常備しといて損はないよ。

「さあ、正体を見せるんだ!急急如律令!」

 そうして印を結んだ次の瞬間、御両親は声にならないどよめきを上げたんだ。

 それも無理はないだろうな。

 愛娘の輪郭からブレるようにして現れた影は、グッショリと濡れた巨大な熊のぬいぐるみの姿をしていたのだから。

「グーリンと名付けられたぬいぐるみに、間違いありませんね?」

「は、はい…こんな大きくはありませんが…」

 お母さんの返事は、私の後ろから聞こえてきた。

 我が子より遥かに年下な小学生の私の背中に隠れているんだから、全く情けない話だよ。

「ぬいぐるみ本体は太平洋の荒波に呑まれて消えたというのに、その残留思念だけが帰り着いて取り憑いたのか。大した執念と褒めてあげるよ。大人しくしているなら付喪神でも楽に成仏させて…」

「待って!」

 銅銭と霊符を構えた私を呼び止めたのは、椅子に腰掛けたままの羽衣子さんだったの。

「お願い、グーリンを消さないで…この子は私に会いたかっただけなんだから…」

 それに呼応するかのように、ずぶ濡れになった熊のぬいぐるみは声の主に寄り添ったんだ。

 考えてみれば、グーリンの残留思念はイマジナリーフレンドとして羽衣子さんに寄り添っていただけで特に霊障はもたらしていないからね。

 これはむしろ、無理に引き離さない方が良さそうだよ。

 それだったら…

「グーリンと言ったかな?これからも彼女と寄り添いたいなら、この中に飛び込むんだ。君も新しい身体が欲しいだろう?」

 すると次の瞬間、左手で掲げた真新しい熊のぬいぐるみ目掛けてグーリンの残留思念が突っ込んできたの。

 真新しい熊のぬいぐるみは一瞬だけ磯の匂いを立ち上らせてビクッと震えたけど、すぐに大人しくなったんだ。

 どうやら今回も、御霊移しの秘儀は上手くいったみたいだよ。


 その後の高石家はというと、何もかもが見事に元の鞘へ収まったんだ。

 羽衣子さんがすっかり元通りに回復したんだから、それも当然だね。

 復学した高校でもぬい活仲間が出来たみたいで、放課後にはカフェなどに行ってスマホで撮影しているんだって。

 勿論、あの真新しい身体になったグーリンとも一緒らしい。

 紛失防止の為にストラップをハーネス代わりに付けたらしいけど、それは羽衣子さんとグーリンの一層に深まった絆の象徴のように感じられたんだよね。

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― 新着の感想 ―
生命のあるペットだって他人から見たら『物』みたいなものですもんね。でも溺愛してる当人からすればかけがえのない存在── また会えてよかったです(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾
 ぬいぐるみだから特に違和感がないのですけど、これを人間でやられたら……。  生命ってなんなんでしょうね……。
これは言ってしまえば『ぬいぐるみロス』、つまり『ぬいロス』じゃ! とか言うお医者さんではなかったようだ(・∀・) 最初「あれっ?」と思ったけど、このお話はグーリンラブな立石さんと、ご両親と、もうひとり…
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