夢で終わっていい話
昼休み、教室の窓際で頬杖をつく。
空はやけに澄んでいて、遠くの雲がゆっくりと形を変えている。
あれを舟みたいにして、どこまでも運んでくれたらいいのにと考える。
雲はただの水蒸気で、人を支えるなんてできない。そんなこと、中学生の理科で習った。
でも、理屈を知っていることと、乗ってみたいと思うことは別の話だ。
休み時間、友達はスマホで芸能人の噂を話している。
私はうなずきながらも、心の中ではまったく違う景色を思い浮かべている。
波の上を歩けたら、靴の底に水しぶきが咲くのだろうか。
夜空に手を伸ばして、星を一つだけ持ち帰れたら、部屋の明かりはいらなくなるかもしれない。
そんなことを考えている自分は、きっと少し変わっているのだろう。
けれど、変わっているからこそ、捨てたくない。
放課後、図書室の窓辺でノートを広げる。
勉強のために開いたページに、気づけば文字ではなく空の絵を描いている。
そこに雲の道を描き、空飛ぶ魚を泳がせる。
誰にも見せるつもりはない。笑われるのはわかっているから。
でも、描いている間だけは、本当にその景色が存在するように思える。
無理だとわかっている。
現実は、雲は乗れないし、海の上も歩けないし、星は触れない。
それでも、頭のどこかで繰り返し映像が流れてしまう。
きっとそれは、手放したくても手放せない種類の夢だからだ。
だから私は今日も、少しだけ空を長く見上げる。
その間だけは、ほんの少しだけ、現実が遠ざかってくれるから。