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勇者ヒイロの英雄譚  作者: 千里
五章 希望の勇者
38/45

38. 火山の決戦

 火山の頂上付近に辿り着いたとき、僕の仲間たちは誰もいなかった。だが、少しすればきっと彼らもやってくる。そうすれば、ガギンゴギンを倒したときのようにきっと勝てる。それまでは、一人でアチーチと向き合う。

「久しぶりだな、ヒイロ。お前もこんなところにいるなんてな」

「目的は?」

「そんなつまらないこと聞くなよ。ドワーフたちが魔族に従ってもらうために決まってるだろ?」

 アチーチはあまり敵意を見せることなく、暢気な様子で僕に話しかけてくる。暴力によってドワーフたちを無理矢理従わせようとすることは好ましくなかったが、発言の裏には平和的な思考が垣間見えていた。

「他人を支配することが正しいことだと思ってるのか?」

「自分の大切な人たちを守るためだ。それは仕方ないことだろ」

「自分にとって大切な人のためだからって、他の人を疎かにしていいわけない。お前の考えは間違っている!」

「何言ってんだよ、大切な人たちを守るためなら、他の奴らが支配されることくらい十分許容できる。それに、俺は殺していないだろ」

「そういうことじゃない、そうじゃないだろ」

 気楽にも思えるアチーチの発言に怒りの感情を抱いていた。しかし、彼の考えが間違っているという思いよりも、嫉妬の感情の方が大きかった。僕は大切な人を守れなかったのに、彼は自分の大切な人を守ろうとしている、守れている。その事実がたまらなく悔しかったけれど、今はそれの考えを頭の中から追い出すためにアチーチと戦う。


 相変わらずアチーチの放つ火が苛烈で、満足に近付くことはできなかった。なんとか近付いても、全方位に火を放たれてまた遠ざけられる。お互いが決め手に欠けていていたせいで、なかなか決着がつかなかった。きっと、聖剣の使用を躊躇していたことも、彼に勝てない原因の一つだった。

 周りで見ているドワーフもアチーチの放つ炎のせいで近付けないで膠着状態だった中、遠くから叫ぶ声が聞こえてきた。

「おい、勇者!受け取れ!」

 叫び声のする方向を見ると、テスタが見慣れぬ剣を手に走っていた。どうやらテスタは剣を完成させたようだった。そしてやって来た彼は叫び声を上げながら僕に向かって剣を投げたけれど、それはかなり手前で落ちる。

「剣を勇者殿に届けよ!」

 王様の命令で周囲のドワーフたちが落ちた剣を拾い上げ、僕に向かって剣を投げる。ドワーフの人たちの助けで何とか僕の手に渡った剣は、不思議と手に馴染んだ。

「よし、受け取ったな。その剣はラヴァとラヴァ・ロッサで作った剣だ。柔らかいせいでろくに誰も傷つけられないだろうが、火を使う相手なら無効化できる。いいか、それは聖剣の代わりじゃねえ、お前のための、お前の望み通りの剣だ」

 聖剣の代わりではなく、僕のための剣、不思議な言葉が胸に響く。

「丁度良く新しい武器が届くとか、何とも都合の良い展開だな」

 そんなアチーチのボヤキとともに始まった二回戦では、もらった剣だからこそできることを考えながら戦う。ラヴァ・ロッサの持つ特性である火を吸って放つ方法は、アチーチと戦うにつれてだんだんとわかる。聖剣から光を放つときと反対のイメージで火を吸い取り、同じイメージで火を放つ。

 確かに剣はアチーチの放つ火を無効化することができたが、吸えば吸うほど剣が熱を帯びる。直接触れていないのに肌を焼くような熱を放っていることに、恐怖と安心感を抱く。この熱がドワーフの人たちを襲っていたら、彼らは大けがを負っていたかもしれない。

「そこまでして守る必要があるか?知り合ったばかりの人たちを」

「さっきも言っただろ。知り合ったばかりだとか関係ない。誰だって見捨てることなんて許されない!」

 言葉とともに火を放つが、アチーチは何事もなかったかのように平然としている。

 その一方で、僕の手の感覚はおかしくなっていた。肉が焼けたようなにおいとともに、焼きただれた皮膚が剣に張り付く。熱さと痛みで頭がおかしくなりそうだったけれど、それでも剣は放さない、それでもアチーチの火からみんなを守る。

「見捨てればいいのに守るなんて、やっぱりお前はすごいな」

 アチーチは僕に対して感心しているかのような言葉を吐いた。それならば、戦う必要なんてない。

「守るなんて当然だ。お前だってそっちの方が良いと思っているのなら、魔王が人類を支配しようとしていることに疑問を抱いているのなら、戦うのを止めればいい」

「裏切れるはずないだろ。それで、魔王様の話はガギゴギさんから聞いたのか?殺したのか?」

「殺すわけないだろ」

「やっぱりな」

 僕の言葉を聞いたアチーチは、嬉しそうに笑った。ガギンゴギンが生きていることが嬉しかったのか、その理由は勝ってから聞こう。


 そこからは相変わらず耐久勝負だった。アチーチは火を放ち続け、僕はドワーフを守るために火を吸収し続け、手のやけどは一層ひどくなる。

「皆のもの、勇者殿を助けよ!」

 そんな僕らを見かねたのか、王様が吐いた言葉でドワーフの人たちが僕に加勢してアチーチを囲う。そのことに感謝の気持ちを抱きながら、僕が防御を担って、彼らがアチーチを取り囲む。絵面こそひどいものだったが、このままいけば勝てそうだった。

「お前を助けるためにこんなに多くの人たちが動いてくれるなんて、愛されているんだな」

 しかし、アチーチは決着がつくよりも先に火口に身を投げた。その途端に、この山に来る前に見たような溶岩と激しい噴煙が巻き上がる。彼が何をしたのか気になるけれど、今はそれよりも、溶岩から人を守るためには何をすべきなのか考える。そうやって思い悩む僕の視界の端で、王様が溶岩の吹き出す火口に向かう。

「何をしているのですか?」

「この山に住まわれる神様は、きっと私たちを助けてくれる」

 自らの危険も顧みず、自分に出来ることを行う王様の姿に背中を押される。

「それなら、僕に手伝わせてください」

 言葉通り、王様を守るために行動する。溶岩すらも吸い上げると、剣の帯びる熱はさらに増し、手はもはや熱さも痛みも感じなくなっていた。

「神よ、贄を捧ぎます。どうか、この危機からお救いください」

 願いが聞き届けられたのか、唐突に王様の顔が火で包まれ、それと同時に噴火が収まり、流れ出ていた溶岩が固まる。幸いにも、ドワーフの人たちが暮らす場所にまで溶岩が届いている様子はなかった。

「ああ、またか」

 とりあえず、危機は去った様子に安堵するが、王様が火に包まれていたことを思い出す。しかし、不思議なことに、彼が怪我をしている様子はなかった。

「勇敢ですね。あんな危険を冒してまで、人々を守るなんて」

「それは勇者殿も同じであろう?私を慕ってくれている民の思いに応えるためだ。民が私のことを支えてくれている限り、私も彼らを守るためにできることをするのだ」

 民のことを思う王様の言葉は、僕だけではなく周囲の人々に安心感を与えた。あたりから安堵の声が聞こえる。

 それから少し経ってから、ガナンさんたちもやって来た。

「勇者様!その手は大丈夫ですか?」

「あ、忘れてた」

 プレッセルの心配の言葉で、手の火傷のことを思い出す。気が付くと痛みすら感じていなかったが、彼女に治療をしてもらう。

 そうやって治療をしてもらいながらアチーチとの戦いが終わったことを感じ、それと同時に被害状況の話を聞く。どうやら、多少は怪我人がいるらしいが、死人は出ることもなく、居住区にも被害はなかったようだった。とりあえず問題なかった様子に安心するけれど、唯一の問題はアチーチが火山の噴火に乗じて逃げたことくらいだった。


 アチーチを追い返し、僕が望むような剣も手に入り、この国に来た目的も果たした今、ドワーフの人たちとの別れが近付いていた。

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