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勇者ヒイロの英雄譚  作者: 千里
五章 希望の勇者
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37. 代わりのもの

 僕は勇者ではないけれど、人々は僕のことを勇者だと思っている。そんなアネッテの言葉の意味はあまり理解できなかった。つまり、勇者としての役割を人々に期待されているということだろうか。それならば、期待されている役割だけでも果たさなければならないのだろう。

 期待に応えねばならないという使命感から戦う決意を固めたが、その前に僕が抱えている課題、ガギンゴギンとの戦いで気が付いた課題を解決しなければならない。聖剣を使わなければガギンゴギンに勝てなかったのに、聖剣の持つ圧倒的な暴力を恐れているせいで聖剣の力を振るうことに対して躊躇してしまうという課題。

 だから、聖剣以外の武器が必要だと思った。頭の中ではそのことを理解しているけれど、具体的にどのような武器を願っているのか分からなかった。弱い僕でも魔王を倒す強さを持つ武器なのか、魔族を殺めない優しさを持つ武器なのか。

 自分の中でも具体的な答えを出せないまま、仲間の人たちに相談をしていた。

「僕には、聖剣以外にも戦うための武器が必要なんです」

 そこまで困らせるつもりはなかった。愚痴程度のつもりで、一般に流通しているような武器を予備で持って、僕自身が強くなるべく努力をすれば良かった。しかし、気が付くと話は大事になっていき、ドワーフが暮らす国に向かうことになった。鍛冶を生業としている者が多いドワーフであれば僕が望む武器を作れるかもしれない、そんな希望を持って僕たちはドワーフが暮らす国に向かうことになった。


 ドワーフが暮らす国に向かう馬車の中では、ドワーフについての話を聞かせてもらった。彼らは手先が器用だからどんな武器でも作れると思われる。しかし、頑固で職人気質の者が多いため、断られる可能性も十分にある。そんな話だった。

 どこか不穏な噂話のせいで不安に感じながらも、無事にドワーフたちが暮らす国にたどり着いた。初めて見たドワーフの国に対して抱いた感想は、地球のように発展している。だった。エレツークの建造物は木や石でできているのもが多かった印象だったが、この国で目にする建物の大半はセメントのようなもので出来ており、鉱石や鋳物などを運搬するためだと思われる台車や車のような物は、前世の自動車のようだった。そして国の中心にそびえる火山には採掘場なども存在していたが、その大部分がそのままの姿で残されていた。

 文明の発展を感じさせる光景に圧倒されていたが、僕たちがこの国に来た本来の目的は観光ではないことを思い出す。本来の目的である武器を作ってもらうために、ドワーフたちの王様に会いに城を訪れた。王様と呼ばれる立場の人と簡単に会えるとは思っていなかったけれど、思いのほかあっさりと謁見は許された。

 そうして訪れた謁見の間で目にしたドワーフの王は、今まで見た誰よりも美しかった。わずかに伸びた髭があまり似合っていなくとも、性別が男性だとしても、言葉では表せない程美しい姿だったせいで、心が惑わされてしまいそうだった。

「ようこそ、勇者殿。して、我々ドワーフに何用か?」

「…、ああ。武器を。ドワーフの中には鍛冶を得意とする者が多くいると聞きました。だから、平和を守るための武器を作ってもらうためにこの国に訪れました」

 誰にも負けない強さを持つ剣を、誰も殺さぬ剣を。その言葉が出てこなかった理由は、王様の美しさに対する緊張が理由ではない。答えの出ない疑問はいつだって僕の心をかき乱す。

 僕の望みを聞いた王様は、少し悩んだ様子を見せてから言葉を発する。

「なるほど。それなら、テスタのもとに向かうのがよいであろう。彼のものはこの国一の鍛冶師であると言われている」

 王様の言葉を合図に、配下の人たちが僕らを謁見の間から外に連れ出した。部下の人たちの案内で僕らが連れていかれたのは、小さな鍛冶小屋だった。鍛冶小屋の扉を開いて中に入った途端、激しい熱気に襲われる。立っているだけで汗が止まらないような環境の中、一人のドワーフが僕らのことをしかめっ面で睨んでいた。

「お前たちは何もんだ?」

「こちらにいらっしゃるのが勇者様です。私たちは、勇者様の剣を作りに来たのです」

「剣?腰につけているのはなんだ?」

 ガナンさんが代表して話を進めようとしてくれたが、ドワーフはその目的について不思議そうな顔をした。聖剣を持っているのに他の剣を求める理由は?その疑問に対する答えは未だに出ていない。

「聖剣は危険な武器で、魔族のことを簡単に死なせてしまう可能性を持っています。だから、誰も傷つけないような、誰のことも殺さなくていいような剣を。いや、やっぱり魔王を倒せるだけの…」

 僕の迷いと矛盾に満ちた要求を聞いたドワーフは、不思議そうな顔で首をかしげる。

「結局、お前は魔族を殺したくないのか、殺したいのか、どっちなんだよ。

 それにしても、気に入らねえ言い方だな。誰も傷つけないための武器が欲しい。つまり普通の武器は人を傷つけるためのものだって言いてえのか?」

 どこか怒りに満ちた疑問、その疑問を聞いて最初に思い出したのは、ガナンさんの言葉だった。

「剣術なんて、結局のところただの暴力だからこそ、その力を正しく扱う心がけが大切なんです。剣術や剣が危険なものになるかどうかは、扱う人間の心がけ次第です。剣自体が悪いとは言ってません」

 結局、僕の心がけ次第。ヴィー君のときだって、僕が力不足で扱い切れなかったからああなった。悪いのは聖剣ではなくきっと僕だった。

「そうか。…鉱石を見せてやるからこっちに来い」

 疑問に思っているようにも、怒っているようにも見える態度だったドワーフは、僕の答えに納得してくれたのか、僕に対する態度を変化させた。気が付くと、僕は柔らかい態度になったドワーフと二人きりになっていた。

「見ろ。これがいわゆるミスラル鉱石。滅多に手に入らない希少な鉱石だが、軽さと硬さを両立する優れた鉱石だ。そしてこれはラヴァ、世界中で採掘される柔らかい鉱石で、爪などでも容易に傷つけられる程度の硬さだが、様々な用途で用いられている。そして、最後のこれはラヴァ・ロッサ。そこのデュポン山でしか取れない鉱石だ。基本的な特徴はラヴァと同じだが、山に暮らす火の神様の力が宿っているおかげで、火を吸い取り、吐き出すことができる。その代わりに火を吸っている間はかなりの熱を持つ」

 その後も、小屋の中にある鉱石の一つ一つについての説明を、そのドワーフ、テスタから聞かせてもらった。専門的な説明ばかりでそこまで理解できなかったが、どんな武器を作ってもらえるのか、少しだけ期待が膨らむ。


 そうして、テスタが武器を作っているのを待っているある日のことだった。噴火とは明らかに異なる様子で、火山が火を吐き出しながら煙を立ち昇らせていた。周囲のドワーフが焦っている様子を見せているところからも異常事態であることは明らかだった。そして、僕が確認しに行こうとしたが、ドワーフの人たちに引き留められた。

「勇者の力は借りなくとも、俺たちのことは俺たち自身で解決する」

 彼らが僕の助力を断るのはそういった理由だったけれど、それでも僕は行かねばならないと思った。泊まる場所を提供してくれたり、歓迎をしてくれたり、僕の武器を作ってくれていることに対する恩を返すために、出来ることをしたかったから。それに、僕は勇者ではないのだから、問題ないだろう。

「勇者としてではなく、あなたたちに恩を返すためです。あなたたちのことを守らせてください」

「なるほど、それならばよかろう。ついてくるがよい、ヒイロよ」

 そうして、無事に王の許可を得た僕は、ドワーフの人たちと火山の様子を見に行くことになった。アナベラさんは不思議な鉱石の力の由来などを調べ、プレッセルとエブールさんはドワーフという種族についての話を聞いて、ガナンさんも甲冑などを見ていたため、僕とドワーフのみで向かうことになった。

 火口が近付くにつれて暑さが増す過酷な環境の中、見覚えのある人影が目に入る。

「お、また会ったな、ヒイロ」

「またお前か、アチーチ」

 何度目かの再会に、思わずため息を吐いた。

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