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勇者ヒイロの英雄譚  作者: 千里
四章 立場の弱き者共
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27. 最後の決闘

 戦闘が始まってから数合打ち合ってすぐに、僕とヴィー君の間には明確に実力差があることが分かった。僕が強くなったのか、彼が怠けていたのか。疑念と落胆とともに放った一撃が彼の額を掠め、額から血が流れる。

「諦めてよ、ヴィー君。これ以上は危険だから」

「ああ、そうだな。俺が夢破れて絶望している間も、勇者という立場に甘んじることなく懸命に鍛え続けたんだろうな。そりゃ、お前の方が強いに決まってる。叶うかどうかわからない夢に向かうことも大変なのに、叶った後も油断せず努力を続けるなんて、お前はすごいさ。俺は叶わないことが決まっている夢に向かって努力出来なかった。お前のせいで俺の夢はつぶれた。だからお前の方が強いんだ」

 恨み言を吐きながら僕のことを睨みつけるヴィー君に、僕の夢は勇者じゃなかったなんて言ったところで余計に怒らせるだろうから何も言わない。黙って彼の怒りを正面から受け止める。

「俺が殺した奴らもそうだった。夢を叶えることすらできないこの世界に絶望したんだ。魔族の肉体、自分たちが正しいと思う肉体で生まれたかった、そう言ってたんだよ。俺だって勇者になりたいのに、その願いは絶対に叶わない。俺たちは哀れな被害者なんだ!」

 激しい怒りを僕にぶつけるために、怒りに身を任せてこちらに襲いかかってくると思った。けれど、彼は僕の方に向かって来なかった。それどころか、僕に背を向けてどこか違う方向に走り出す。

 勝負の途中で逃げ出すような性格じゃなかった。何か意図があると信じて背中を追いかけると、ヴィー君は燃え盛る一つの家の中に入った。そして、そこの床に描かれた魔法陣の中に立つ。

「既に呪文は詠まれている。あとはここに俺の血を垂らすだけだ」

 彼の額から零れ落ちた血が魔法陣に触れた途端に、彼は苦しみの声を上げる。尋常ではない絶叫と共に、背中からは翼が生え、額からは角が伸び、歯は鋭く尖り、肌の色は赤黒く染まる。そして、家の中にあった棚を振り回すと、家の柱に当たり、音を立てて家が崩れる。

 僕らは家の残骸の上で向かい合った。

「人間の肉体だった頃より力に溢れてるのが分かる。ハハハ、今の俺は強い!これも獣人のおかげだ」

 彼は力を過信し、正気を失ったかのような笑い声をあげる。その発言の中に、気になる言葉があった。

「何だよ、それ。なんでそこで、獣人の名前が出るんだよ」

「知らないのか?あの魔方陣に必要なのは、人間よりも不浄で、魔族に近い奴らの血だ。奴らの血のおかげで、俺はこの強さを手に入れられた。だから、俺の強さの礎となった獣人には感謝をしないとな」

 非道な発言に怒りを感じていたが、頭の中ではヴィー君を信じている部分もあった。彼はそんなことを言わない、魔族の肉体を得たことで正気を失ったからそんなことを言ったのだと。それなら、里を襲った邪神教団を元に戻したときのように、聖剣の力で彼を人の肉体に戻したいと願う。けれど、方法がわからない。

「あのときみたいに人間に戻さないのか?となると『聖剣を初めて引き抜いた時、その剣は一際強い輝きを放ち、奇跡を起こす』伝承に載っていた奇跡には再現性がないのか。それにしても、死者の復活とかに比べると、ヒイロの奇跡は見劣りするな、ハハハ」

「思い出した。ヴィー君のそういう無神経なところが嫌いだった」

「奇遇だな、俺もお前の薄情なところが嫌いだよ。実の両親を殺された復讐を果たそうともせず、俺達のことをあっさりと見限って出て行った薄情者が」

 お互いを睨みつける。僕は聖剣を構え、彼は爪を向ける。

「僕は薄情者なんかじゃない!お母さんとお父さんは、僕にみんなを守れって言ったんだ!その二人の教えを守ることでしか、恩返しができないんだ」

「ああ、なるほど。お前が誰も殺さないのは、両親を救えなかった罪悪感か?」

「それの何が悪い!」

 立場に合わないわがままのような理由を言い当てられた後ろめたさを誤魔化すようにして、ヴィー君に聖剣で斬りかかったけれど、先ほどよりもずっと速い動きで避けられる。避けられた驚きと油断のせいで思考が止まり、対応が一手遅れる。そのせいで彼は僕の懐に入り込むと、鋭い牙で僕の左肩に噛みついた。

 牙が深々と刺さり、血が流れる。激しい痛みに堪えながら、僕の肩に噛み付いているヴィー君の首を見て、聖剣を彼の首に突き立てれば殺せる。そんな恐ろしい考えが思い浮かんだけれど、実行に移そうとは思わなかった。

 そんな僕の躊躇に気がついたのか、彼は怒りを露わにして叫ぶ。

「ふざけるな!『復讐さえできればいいと思っていた。俺の故郷を滅ぼした魔族を殺し尽くして、俺が死んでもかまわないと思っていた。けど違ったんだ。勇者は人々の希望だ。俺は人々のために生きなければならない!』このまま失血死するかもしれねーのに、俺を殺すことを躊躇してんじゃねーよ!お前は勇者だ!人々に希望を与える存在が、こんな死に方していいはずないだろ!勇者の正しい死に方は、老衰か、魔王との相打ちのどちらかだけだ!」

「なん、だよそれ」

 敵対しているにも関わらず、ヴィー君は僕を励ますような言葉を吐いた。こんなときでも勇者への憧れを全面に出す彼に、思わず呆れてしまう。それでも、確かに励まされた。勇者として、平和に暮らす人々を守るため、こんなところで死ぬわけにはいかない。なんとか心を奮い立たせ、再び聖剣を彼に向ける。そんな僕を見て、ヴィー君はどこか嬉しそうな顔をした。

「そうだ。それでこそ勇者だ」

 僕らは改めて距離を取り、お互いに構える。彼は僕の一挙手一投足を見逃さないかのようにじっと見つめてくる。

「行くぞ!」

 僕は叫び声と共に駆け寄り、右手で上段に構えていた聖剣を、彼にまっすぐ振り下ろす。それに対して、彼は素直に上段からの振り下ろしを避けるような動きをした。落ち着いて見れば、彼の動きは十分目で追える速さだった。

 振り下ろしを途中で止め、彼を追いかけるように横薙ぎにし、彼の眼前で聖剣を止める。そして、倒すためではなく、純粋に光らせるために凝縮した光球を放つ。

 結果、ヴィー君はその光で目がつぶされたかのように目を抑え、やたらめったらに手を振り回す。そんな彼の首元に聖剣を当てる。明らかに勝敗は決していた。

「ああ、そうか。俺は負けたのか」

「そうだね。だから大人しく…」

 しかし、彼は僕の命令を聞かなかった。聖剣を両手でしっかりと掴むと、彼は自分の首に聖剣を突き刺した。手に伝わってきた嫌な感触に慌てて引き抜く。それと同時に、ヴィー君は力無く倒れ込んだ。

「な、何してんだよ!」

「耳元で、叫ぶなよ。そんなことより、久しぶりだったせいで、忘れていた。あんな、見え透いた上段狙いは、フェイントに、決まっているのに。お前は、何回も教えてくれたのに。反省だ」

 ヴィー君は首から血を垂れ流しながら、喋りづらそうに話す。治してもらわなければ、そう思ってプレッセルを探すために慌てて周囲を見回すと、既に彼女は近くにいた。

「プレッセル!ヴィー君を治して!」

 彼女は懸命に治そうとしてくれた。しかし、ヴィー君の首の傷は治らなかった。

「聖剣は、邪神由来の力を消し去る。その力が、黒魔術で魔族となった俺の体を、蝕んでいる」

 息も絶え絶えに語られたヴィー君の言葉通りなら、聖剣の力を弱めれば彼は救える。そう思ったが、力の止め方が分からない。目の前で苦しんでいるのに、僕が聖剣の力を使いこなせていないせいで、彼が死ぬ。

 信じがたい現実に、ふと、ガナンさんの言葉を思い出す。

『主曰く、他者を害するために剣を持つ者は剣によって滅ぼされ、人々を救うために剣を持つ者は多くの人に助けられる。だからこそ、剣を持つ前にしっかりと心がけることが大事なのです』

 僕のせいだ。聖剣の持つ力を過信し、相手を倒すためにしか鍛えてこず、その力の持つ危険性を考慮していなかった。だから、僕の目の前で友人が死ぬ。彼を助けるための奇跡は起こらない。聖剣という圧倒的な暴力を使う心掛けが足りなかった。

 僕のせいで、ヴィー君が死んでしまうかもしれない恐怖で泣きそうになる。どうすれば、彼を救えるだろう。

「ヒイロ。少し話そうぜ」

 ヴィー君は自分の辛さを表に出さずに、僕に向かって笑顔で話しかける。彼の優しさが辛かった。

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