つくも神様でさえドッペルゲンガーになりまする
波野ゆずりには少しばかりの霊感が在り、良からぬ存在には近付かないよう、日頃から用心している。家に居るときも、会社に行くときも、常に霊アンテナを張りつめて過ごしているのだ。肩までの髪を簡単に解くとブラシを鏡台の引き出しに入れ、買い物の支度を始めた。この日は休日。駅前にあるモールで好きなように楽しむ予定だ。(まずは服を見て、時間がきたら映画館に入って、その後はフードコートで食事して楽しもうっと!)自由に遊ぶ予定を頭の中で組んで、ゆずりは心を弾ませている。(いくらかATMで下ろすか……)財布の中身を確認して鞄にそれを入れようとした時、ゆずりの手がピタリと止まった。心臓の音が生身で聞こえた気がした。嫌な気配を感じ取ったのだ。(ブラシがなんで、鞄に?)悪寒が全身を走った。先ほどブラシは鏡台の引き出しに入れた。間違いなく、入れた。「!」鞄に在るブラシから禍々しい気配がするのをゆずりは感じる。(こっちの方が偽者?同じモノ……これは……)霊アンテナがピン、と立った。この気配をゆずりは知っている。「ドッペルゲンガー!」思わず声に出た。気付かないふりをするには、心にゆとりが無さすぎる。ドッペルゲンガー、つまり霊。言葉に出した為ドッペルゲンガーに気付かれたせいで、全力で本物のブラシを守るべき。本物のブラシが消されないよう、ドッペルゲンガーのブラシの方を肌身離さずにいるという決断に至った。解決案は、ドッペルゲンガーが諦めるまでそちら側を手離さない事。(逆転の発想でつくも神様を護ります!解決するまで、引き出しの中で辛抱していて下さいまし)