1. はざまの世界へようこそ
ふわりと心地よい風が通り抜け、快適な気温で、季節で言えば春の初めくらいだろうか。花々は咲き誇り、色とりどりの色が溢れる。様々な季節の花が一堂に咲き乱れ、その香りがその空間を埋め尽くしている。そんなまるで天国とも言えるような場所で、東ちあきは目を覚ました。
「いらっしゃぁい。何が気に食わなくて蝋燭捨てちゃったの?教えて?」
「・・・え・・・?私は確か、え・・・?ビル、のう、うえか・・・ら・・・。」
「そう。東ちあきさん。あなたはついさっき、数秒前に自死されました。詳細聞きたい?」
「わ・・・、私のな、名前・・・?え・・?私は死んだ・・・んですか?」
「そうとも言えるし、まだ、とも言えるよ。もし良ければあなたの話を聞かせてくれない?」
「わ、私の・・・はなし?・・・き、聞いてくれるんですか・・・?」
「もちろんっ!ようこそ、はざまの世界へ。僕はここの番人でジン。よろしくね!」
はざまの世界。
それは強い思いを持ったまま、寿命の蝋燭を折ってしまったもの、折れてしまったものを受け入れる場所。代々花の守護を受けたものが守ってきた世界。彼らは花呪いを掛けて、その傷を癒し、選択肢を与える。
ヒトが自分で人生を仕舞ってしまう時。その時に何かあれば違ったのかもしれない。何かあっても何も変わらなかったかもしれない。大いなるもののイタズラといえばそれまで。ヒトからすればほんの少しの可能性に、そうでない側からしたらほんの時の戯れに、それぞれの思いの中で何かひとつでも拾えるものがあるのなら、それはそれで悪くない。
そう、それは戯れ。
だから全てが与えられるとは限らない。奪われる事も思い通りにならない事ももちろんある。その可能性の方が多いかもしれない。
それでもあなたはその可能性に賭けたい?
もう全てを忘れて先の行くべき場所に焦がれる?
そんな思いがたくさんの花に込められた場所。
ここを守るのは花呪いを施す番人達。
全ての季節がここにあって、全ての花がここで咲く。永遠の時の中で。