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8話:天使と初めての魔法

「アルトさん、王都に向かったんじゃ……」


「なんだアギト、カレンに会いに来ていたんじゃないか。自分が誘って追放された惨めな奴の顔でも見に来たのか?」


 わざとらしく手を広げて笑う勇者、後ろにいるパーティーもくすくす笑っていて揃いも揃って性格の悪い奴らの集まりなんだとわかった。


 こんなパーティーならカレンを追放したのも納得だ。

 気に入らないことがあれば寄ってたかって悪者にする、小物の集まりのような奴らだ。


「そんなわけないだろ、俺はただカレンが心配で!」


「はっはっは、竜騎士様には頭が上がらないな! パーティーを追放された役立たずのためにわざわざこんな田舎までやってるくるなんてな!」


「ちょっといいかい、僕たちは先を急いでるからもういいかな?」


 アギトと勇者の間に入る。

 こんな奴らとの話を聞いている時間は無駄だし、道具屋の用もすんだから早くギルドに行きたかった。

 だが勇者は突然入り込んできた俺を気に食わなかったのか、わざと突き飛ばしてアギトの近くまで歩いていった。


「おっとっと……」


「急に話に入ってくるじゃねえよ、奴隷の精霊族が! 僕はこっちに用があるんだ、お前たちのことなんて知ったことか!」


 こいつ、どんだけ精霊を下に見てるんだ。

 使い捨てとか奴隷とか、さすがに俺も頭に来たぞ。

 勇者と言ってもたかがレベル60、カンストしたレベル150の俺の相手じゃない。


「使い捨てだ奴隷だと、君の種族差別はひどいな。いくら僕と言えど許せないよ!」


「はっ、でかいだけの精霊程度になにができる!? 僕は選ばれし勇者だ――」


「"爆ぜろ"」 


「うわあ!?」


 勇者の足元で小爆発が起こると、驚いてしまった勇者はバランスを崩して尻もちをついた。


 火属性爆破系低級魔法"ミニボム"

 爆破アイテムの方が強いぐらいの初級魔法だが、町中で派手な魔法を使うわけにもいかないしこの程度で済ませてやった。


「せ、精霊如きが僕に手を出すなんて! どうなるかわかってんだろうな!?」


 尻もちをついたまま凄んでくるが、この程度に驚くやつに言われても怖くもなんともない。

 それよりも自然と魔法が使えた俺自身の方が驚きだ。まさかただの人間だった俺が、感覚だけで魔法が使えるようになるとは。


 それにしてもうるさいな、こっちは考え事をしているのにいまだに勇者の権利だなんだと喚いている。


「精霊如きがと言ったね?」


「そ、それがどうした!?」


「僕はただの精霊じゃない、異世界から来た天使さ! 僕から言わせてもらえれば、勇者如きが天使たる僕に手を出すつもりなのかい?」


「天使だと!? こんな田舎町に上位者(ハイロード)がいるわけないだろ!?」


「わかったら早く尻尾を巻いて逃げるんだ、堕落した獣のようにね」


「お前ら、この精霊を殺せ!」


 勇者の指示で後ろにいたパーティーメンバーが戦闘態勢に入る。

 こいつら周りに人もいる町中で戦うつもりか?


「"マギドアッパー"!」


「"マジカルフレア"!」


 聖職者がバフをかけ魔術師が遠距離攻撃、これも基本戦術だ。

 でも精霊族相手に元素魔術を使うとは、まるで初心者パーティーを見ているみたいだな。こいつら対人戦闘の経験もないのか?


 マジカルフレアが放つ七色の炎が俺を包み込むが、HP換算で数ミリ減ったかどうか程度のダメージだ。

 精霊族は全元素魔法に対して高い耐性を持つ種族だ。だからこそ精霊使いは冒険者として元素魔法に長けた魔術師になる。

 つまり、物理耐性が低いかわりに魔法に対して全種族で最も強くなれる。


「効いてない!?」


「そんな、このあたりのモンスターも一撃で焼き払うマジカルフレアよ!?」


「中級程度の元素魔法、バフの上り幅はレベルでいうとプラス5といったところかな?」


 魔法が効かず驚いている魔術師たちに近づいていくと、さらに後ろにいた武闘家が前に出て殴りかかってきたが、俺が止める前にアギトが前に出て拳を受け止めた。

 さすがは竜騎士、素早さにおいては前衛職の中でもトップクラスだな。


「もうやめろ! 町中で暴れるなんてそれが勇者のすることか!?」


 そう言われて周りの野次馬の目線が勇者パーティーに向けられる。

 さすがにこれだけの騒ぎを起こすと勇者とはいえ悪評がつくだろう。


「ぐ……くそ、覚えてろよ!」


 捨て台詞を吐いて勇者パーティーは町の奥、見えないところまで走って逃げて行ってしまった。

 逃げるときの捨て台詞まで小物だな。やっぱり勇者があいつなのは間違いなんじゃないか?


「シトは怪我ないのか? マジカルフレイムを食らって平気だなんて」


「僕は天使だからね、人程度の魔法が効くわけないだろう」


「そうなのか……」


 実際は精霊族の耐性のおかげなんだけど、ここは天使っぽさを出すためにこう言っておこう。

 これでアギトも俺のことを少しは信じてくれるかもしれない。


「シト! 大丈夫ですか!?」


 少し重めの衝撃を感じると、心配してくれたのかカレンが抱き着いてきた。


 ふおお……そんなに近づかれると肋骨の固い感触とともに、かすかに主張する柔らかいものが腕に! 心配してくれるのは嬉しいがこう何度も今まで触れ合ったことのない未知の感触と触れ合っているとどうにかなりそうだ。


「カレン、僕は大丈夫だから離れて!」


「は、はい」


「さて、ギルドに行くつもりだったけどあいつらのせいで汚れてしまったね、これは予定を変更したほうがよさそうだ」


 ぱっと見は無事なように見えるが、俺の服は魔法せいで舞った埃と道路が焼けてしまった煤で汚れている。せっかく綺麗にしてきたのにこんな姿で冒険者ギルドに行ったら神々しさのかけらもないだろう。

 今日のところは宿屋に戻って服も体も洗いたい。


「そうですね、日も暮れてきましたし今日は宿屋に戻りましょう。アギトさんはどうしますか?」


「そうだな、あいつらに絡まれたのは俺のせいでもある……飯でも奢らせてくれないか?」


「いいね! ちょうどお腹が空いていたところなんだ!」


 カレンに奢られるのは気が引けたが、それは俺が何もしてないからであってアギトからの詫びというのであれば喜んでご相伴に預かろう。


「じゃあ宿屋の近くにある食堂に行くか、あそこの親父とは知り合いなんだ」


 アギトの提案で、俺たちは宿屋の裏にある食堂で晩飯を食べることになり、俺はこの世界での初めての食事を楽しみに町を歩いた。

20時にもう1話投稿されます。

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