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7話:天使と勇者パーティー

 宿屋からギルドへ向かう途中、町行く人々はリアルな人間とあまり変わらない見た目の人族(ヒューマン)、体に模様のような痣を持つ亜人族(デミヒューマン)、様々な獣の特徴を持つ獣人族(ビースト)、体が小さく羽を持ち飛び回る精霊族(エレメンタル)が行き交い平和というか、アセンブルでもおなじみの町だなって感じがする。


 だがこの町がアルタイルだというのであれば、冒険者らしき人の装備がパッとしないのが気になる。

 カレンやアギトも含めた宿屋にいる冒険者もそうだったが、この世界に来て高レベルな装備やレア度の高い武器を持っている人を一度も見ていない。

  

 ただの鉄剣や弓、鎧も軽装で革製のものがほとんど。

 アルタイルは魔族も含めたアクマ種との距離も近い要塞都市だし、モンスターのレベルも場所によっては高く設定されているはずだ。

 モンスターなら数の理で倒せはするだろうが、アクマ種相手ならあの程度の装備だと勝負にもならないと思うが、気になるな。


「ねえ二人とも、この辺は要塞都市だよね? それにしてはみんな装備が普通じゃない?」


「冒険者の装備はこのぐらいが普通ですよ、周辺に出没するモンスターは冒険者協会の人たちやギルドの冒険者が対処していますし」


「そうなんだ、でも魔族が現れたりしたら大変じゃない?」


「魔族だなんて!? 確かに実際現れたら大変ですけど、魔族は魔王が復活しない限りはヒト種の住む町に攻めてこないですから」


 攻めてこないことが前提の安全ってことか、ということはこの世界では冒険者が進んで魔族と戦うってことはしないんだな。ドロップ品や経験値はモンスターと比べ物にならないはずなんだが。

 だからこそ全体的な平均装備やレベルが低そうなのか。


「魔族とは百二十年前の戦争で、勇者ケインによる魔王討伐が行われてから双方接触しないことになってるんだ。俺だっていろんな場所を冒険してきたが魔族には会ったことはない」


 竜騎士のアギトが言うのであれば、魔族は本当に近づいてこないのか。

 ゲームじゃアルタイルは中級者の経験値稼ぎポイントとして有名だったのに。


「ただ魔王復活の予言もあったし、勇者も生まれているわけですからこの平和もいつまで続くか……」


「魔王復活の予言?」


 ゲームじゃ半年に一度魔王と戦えるレイドイベントがあったが、この世界じゃ百二十年も時間が経つんだな。


「王都の大神官様の予言です、近く魔王が復活すると……その予言通り人族から勇者が生まれました。勇者は魔王と同時に生まれるという言い伝えがありますから、予言も間違いではないと言われています」


「二人とも、道具屋があるぞ。ギルドに行くなら先に必要なものを買って言ったらどうだ?」


 立ち止まったアギトが道具屋を見つけたらしく声をかけてくる。

 そういえば俺も符術師のスキルを使うために護符を買いたいと思っていた。


「寄っていかないか? 僕も道具屋を見てみたんだ」


「わかりました、私も少し見ていきます」


 道具屋に入り周りを見渡すと、端っこに付箋のような大きさの紙を見つけた。

 これが符術師の使用する護符だ。


 符術師は護符に魔法を保存してストックしておくことでその場で即座に魔法を使うことができる。逆に言えば護符を持たない符術師は覚えているほとんどの魔法を使えず、低級の速攻魔法しか扱えないという欠点があった。


「店主さん、これはいくらだい?」


「あん? 護符なら十枚で銅貨五枚だよ」


「銅貨五枚だね、それじゃあ」


 自分の服のポケットに手を入れて気づく。

 そういえば俺は今ゲームで使用していたような便利なアイテムボックスを使えない。ゲーム内通貨もアイテムボックス内の別ウインドウで表示されていたため通貨を取り出すようなこともできない。

 つまり異世界での俺は無一文だ。


「シト、その護符が欲しいんですか?」


「欲しかったけど……でも僕お金持ってなかったや、今度買うことにするよ」


「なら私が買いますよ、店主さんその護符をください」


 カレンが懐から財布を取り出すと、護符を店主のところに持っていき銅貨を五枚支払った。

 俺はいま、明らかに年下の女の子に奢られてしまっている。


「いやいや、いいよカレン! 自分の買いたいものは自分で稼いで買うから!」


「気にしないでください、私はあなたの契約主なんですから」


 なんていい子なんだ……本来何一つ与えなくても契約しているだけでいうことを聞くのが契約精霊、そんな俺に金を出すだなんて。


「どうぞ、何に使うのかはわかりませんが、シトが欲しいというのなら必要なのでしょう?」


 手渡された護符を見て涙が出そうだ。

 こんな優しい女の子に出会えたことを異世界に感謝するよ、元の人生じゃ一生かけてもこんなイベントが起きなかっただろう。

 ただの銅貨五枚の護符なのに家宝にしたい気持ちだ。


「ありがとう、大切に使わせてもらうよ」


 護符をポケットにしまっておきカレンの買い物を待っていると、何やら外が騒がしくなっていた。

 耳を済ませてみると、アギトともう数人の若い男女の声が聞こえる。内容はわからないが声のトーンからしてあまり穏やかと言えない雰囲気だ。


 なにか外でトラブルがあったのだろうか?


「アギト、なにかトラブルでも――」


 道具屋の外に出ると、アギトの前に声の主であろう男女が四人立っていた。

 男女のグループは今まで見た冒険者とは違って、妙に豪華な装備を身にまとっていてレベルも少し高そうな雰囲気がある。

 見た目から推測できる職業は、剣士、魔術師、戦士、聖職者だろうか。

 アセンブルの典型的な冒険パーティーのようだが、アギトが簡単に人ともめるようには思えない。


「シト、こっちは大丈夫だ。でもしばらく道具屋で待っててくれないか?」


「なんだアギト、今はこの女とパーティーを組んでいるのか? こんな見た目だけの役立たずより僕らのパーティーに戻って来いよ」


 パーティーに戻って来い? アギトが以前所属していたパーティーは……そうか、こいつらが勇者パーティー! たぶん今アギトと話している金髪の剣士が勇者ということだな。


 初対面で人を見た目だけの役立たずとか、話は聞いていたがどうしようもないなこの勇者。


「シトと俺はパーティーを組んでいない、俺は今もソロでやってる」


「なあ寂しいだろう、仲間もいないのに毎日一人でモンスターと戦ってさあ、ちょうど最近パーティーに空きが出たところなんだ、お前の実力なら今からでもパーティーに歓迎するぞ?」


「……お前がカレンを追放した話は知っている、なんで仲間を追放するような真似をした!」


「あいつが役に立たなかったからだよ! お前の紹介だから受け入れてやったのに使い捨てればいい精霊を守って僕たちを危険に晒したんだぞ、あんな奴追放されて当たり前だろ!」


 おいおい、周りにいる野次馬の中には精霊もいるっていうのになんでそんなことが言えるんだ。

 ていうか俺も精霊族だ、いまの発言は見過ごせる気がしない。


「君が勇者……ってことでいいんだね?」


「なんでお前、関係ないんなら話に入ってくるなよ!」


「やめろシト、アルトはレベル60の勇者だぞ! ここは俺がどうにかする!」


 勇者という肩書だけで、こんなに横暴な人間になれるだなんて思ってもみなかった。

 俺の知っている勇者というのはもっと、人だけじゃなく世界中を救うために頑張っている存在で、困っている人を放っておけないような、そんな人物だ。


「な、なにがあったんですか!?」


 振り向くと、道具屋で買い物を終えたカレンが店から出てきていた。

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