6話:天使と逆お約束ハプニング
突如乱暴に開かれた扉の音と、男の声に反応して驚いたカレンが足を滑らせて転ぶと同時に、俺は仕切りを蹴飛ばして侵入してきた奴と対峙した。
体がアバターだとしても自分が強いのか、戦えるのか不安だったが、そんなこと考えるよりもプレイヤーの休憩中に強盗目的で部屋に侵入する奴もいたから咄嗟に反応してしまい侵入者と目が合う。
扉の前に立っていたのは、軽装の鎧と大剣を背負った赤髪の男だった。
この身軽さと攻撃力にステータスを振っているような特徴的な装備は――
「……竜騎士?」
近接戦闘に特化したうえで魔法も扱うことのできる騎士の上位職だ。
距離を取って戦う魔術師に対して高い速度と距離を詰めてからの近接攻撃が強く、いわゆるステータスを魔法に全振りした純魔アンチのプレイヤーがよく使っていた覚えがある。
「え? え!?」
混乱しているカレンの声が部屋に響く中、竜騎士っぽい男は呆然としていてみるみる顔を赤くしていく。
よく考えたら、俺もカレンも素っ裸だし、俺に至っては一切体を隠そうとしないまま真正面に立っていたから、正面に立つ男から全部見えてる。
「すっすまない覗くつもりはなかったんだ、ただカレンの噂を聞いて!」
敵意はない、というよりカレンの知り合いか?
強盗や暴漢ではないなら構える必要はなさそうだな。
「君……とりあえず部屋を出たらどうだい?」
その場で言い訳するのもいいが、こっちは二人して裸なのに扉を開けたまま立っていられるのは気まずくなる。焦っているのはわかるが、とりあえず扉だけでも閉めて欲しい。
「すまない!」
バタンッと扉を強く締めて男が部屋の外に出ていった。
とりあえずカレンにあの男のことも聞きたいし、倒した仕切りを戻していまだに何が起きたのかわかっていないカレンにタオルをかける。
「カレンの知り合い?」
「あの人は元勇者パーティーの方です。名前は確かアギトさんで、パーティーをやめたあとは北方の町に行ったと噂を聞いてたんですが」
カレンの噂を聞いてとか言ってたけど、そんなに関係があるわけでもなさそうだ。
とは言っても話を聞いておいてもいいか、こっちとしては繋がり増えるだけ便利ではあるし。
服を着終わった後、扉を開けて廊下に出るとすぐ隣にアギトが立っていた。
いまだ緊張しているみたいだが、律儀に待っていたようだ。
部屋に呼び入れたあと、二人分しかない椅子にカレンとアギトを座らせ俺は机の横に立つ。
「それで、乙女の湯浴み中にノックもせず入ってきた騎士様は何の用なのかな?」
「そのことについては本当にすまない……カレンがパーティーを追放されたという噂を聞いて、ラドンから馬を飛ばしてきたんだ」
ラドン、北方の町の名前だな。
カレンが言っていたことは本当みたいだ。
「僕がカレンに聞いた話だと、君はほとんど面識もないそうじゃないか? そんなに心配することかい?」
「カレンが勇者パーティーに入ったのは俺の責任なんだ……まさかあいつが仲間を追放するなんて思ってなくて」
パーティー加入に責任があるってどういうことだ?
カレンにも聞いてみないと話が見えないな。
「カレン、アギトとはどういう関係なんだい?」
「アギトさんは私と入れ替わりで勇者パーティーを脱退したんです。その時に誘っていただいたのがアギトさんでした」
つまり勇者パーティーを脱退する条件として新しいメンバーを誘ったわけだ。
それで追放に責任を感じてたわけか、いい奴なのかはわからないが、とりあえず勇者とのつながりもなければ敵意も無いだろう。
心配ないことを伝えればこの話は終わる。
「話はわかった。カレンのことを心配する必要はないよ、この子は一人でも頑張ってるし僕もついてるからね」
「待ってくれ、君は誰なんだ?」
「僕かい? 僕はシトリー、カレンの契約精霊にして異世界の天使さ! シトと呼ぶといい!」
胸を張って答える。
今の俺はカレンの契約精霊、自信を持ってそう言える立場だ。
「天使? 天使がいるだなんて聞いたことないぞ、カレンこいつは本当に信用できるのか?」
「なっ、天使たる僕を疑うっていうのかい!?」
「疑うとかそんな問題じゃない、天使を名乗るような怪しい人物がカレンの近くにいることが問題だ!」
「シトは怪しくなんかありません!」
俺とアギトの言い合いに、カレンが割って入ってくる。
ありがとう、君は俺の天使のようだ。
「シトは精霊と契約できなかった私を助けてくれて、契約もしてくれたんです」
「そうは言ってもだな……」
カレンに言われても引き下がらないアギト。
心配しているとか言ってもかなり過剰だな、こうなったら奥の手を使うか。
「なら僕が天使かどうか確かめるかい? 全身くまなく、すみずみまで調べられても僕は構わないよ」
服に手をかけながらアギトに近づくと、真剣な表情が一変して顔を赤くし椅子後ずさりする。
いまの体ならこういう時は便利だ。
服を脱ぎながら男に近づくなんて不本意極まりないが、このまま押せば一旦は諦めさせられるだろう。
「ほら調べたければいくらでも見るといい、多少なら触れることも許すよ」
「わかった! わかったからそれ以上近づくな! カレンが言うなら俺もこれ以上口を出さない、だから服を脱ごうとしないでくれ!」
手足をバタバタ動かして拒否している。
アセンブルだけじゃなくてギャルゲーにも手を出していた経験が生きたな、立場が逆だったらめちゃくちゃ羨ましいシチュエーションだぞ。
昼間から美少女と全身お触りし放題プレイだなんて羨ましいイベント起こしやがって、くそっなんでお前が俺じゃないんだ!
「シト、それ以上は!」
「わかったよ……アギトも認めてくれたみたいだし、僕たちはそろそろギルドに行こう」
脱ぎかけた服を戻してカレンの近くまで戻る。
急な乱入者が来てしまったが今日の目的はギルドでの冒険者登録だ。部屋のこともあるし早いとこ済ませて日銭程度でもいいから稼ぎに行かないと。
「冒険者登録をするのか?」
「はい、シトが契約してくれたので精霊使いの登録条件が達成できたんです」
「なら俺も同行されてくれ、こっちのギルドにも少し用があったんだ」
「私はいいですよ、シトはどうですか?」
「カレンが良いというなら文句はないよ」
「じゃあギルドに向かいましょう!」
こうして、俺たち三人は冒険者登録のためにギルドに向かうため宿屋を出た。
20時にもう1話投稿されます。
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