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57話:天使と新たな事件

 ロードとの戦いから一週間が経ち、孤児院の先生が王都教会区に手紙を出してくれたおかげで娼館の前には豪華な馬車がいくつも止まっていて、中から綺麗な装飾が施されたマントを羽織った聖騎士団が下りてきているのが見えた。


 今日はアレクシオスで起きた殺人事件の犯人の片割れであるダズの身柄を聖騎士団に引き渡す予定になっていた。教会はロードのせいで完全に腐敗していて領主でさえ籠絡されていたからこの町では罪を裁く方法がなく、私刑をするわけにもいかなかったので聖騎士団に頼ることになった。


「アンタたち、客だよ」


 リズに呼ばれて一階まで全員で下りると窓から見えた金髪の聖騎士を中心に鎧とマントで身を包んだ聖騎士団が礼儀正しく並んでいて、中心に立っている男が一歩前に出て頭を下げる。


「始めまして。王都聖騎士団副団長に努めております、マッシュ・デバーダと申します。この度は我が教会のおける重犯罪者の捕縛に協力していただき感謝しております」


「堅苦しい挨拶はしなくていいよ、早くダズを連れて行ってくれ」


「では失礼いたします」


 三階に向かう俺の後をマッシュを先頭に聖騎士がついてくる。たかが教区長一人連行するのにこの人数、必要ないと思うがこれも教会の力の誇示だろうか。


「この部屋の中に――っ!?」


 扉を開けて目を疑った。

 昨日の夜まで逃げられないよう拘束していたダズが、死んでいる。窓からは誰かが侵入した形跡があり暖かい風が吹き込んでいた。


「これはどういうことでしょう?」


「昨日の夜までは間違いなく生きてた、一体誰が!?」


 不思議そうな顔をするマッシュを素通りして周りを見てもここには俺達と娼婦、リズしかいない。そしてここにダズがいるのを知っているのは俺達、事情を話したリズ、孤児院の人たちだけ。

 なにより念を入れて部屋にはシャルルに頼んで封印を施してある。破られたり侵入者がいればシャルルが感知できるはずだった。


「シャルル!」


「封印は破られてないぞ……!」


 聞いてみても侵入者を感知した覚えはないという。だが明らかに窓に形跡があるというのに、どうやってダズを殺したんだ。


「ふむ、とにかくダズ教区長のことはいいでしょう。いずれは死罪になっていた男です」


 冷静なマッシュが焦る俺達の背後に立ち、笑顔で丁寧なお辞儀をする。


「我々がこの町に来た理由は他でもない。天使様をお迎えに上がったのですよ」


「は、はぁ!?」


 膝をついたマッシュに手を掴まれて逃げられなくなる。


「我々に届いた手紙にはこう書かれていました。『白髪の天使様に子供たちを救っていただいた』つまりあなた、さあ我が王都教会にその身をお収め下さい! 信徒達がその美しいお姿を一目でも見たいと待っておられます!」


「待ってくれ! 僕は王都になんかいかないぞ、そんなことよりダズが――」


「おお……死した罪人ですらお気にかける慈悲! 我々の信仰する上位者に相応しい!」


 こいつ目がやばい。聖騎士も上位者の信仰者なのか、全く話を聞いてくれない。


「離してくれ! えーっと……不敬だぞっ!」


 考えて天使ロープレじゃなくて本気で天使らしく振る舞うほうがいいと思って手を振り払う。件のダズが死んでいるのだからもう帰ってもらうしかない。部屋の確認やダズを殺した人物を探さないといけないからな。


「申し訳ございません! 私天使様を前に我慢できず、この命を持って不敬の罪を償います!」


 手を振り払われたマッシュが剣を抜いて自分の腹に向かって構える。流れるように後ろにいた聖騎士が介錯のために剣を振り上げた。


「待て待て待て別に死ねなんて言ってないよ! わかった落ち着いたら王都に行くから今日はもう帰ってくれ!」


「ありがとうございます、教会区一同お待ちしております! 全員、礼!」


 揃った礼を見せられた後、マッシュたちはダズの死体を回収して馬車まで運び帰っていった。

 聖騎士というぐらいだからもっと落ち着いていて騎士らしい人物かと思っていたが、誰よりも信徒って感じだったな。なんかファンタジーのイメージが崩れそうだ。


「侵入は窓から、でもここは三階だし――あそこの屋根から飛ぶしか入れないな」


 部屋を調べて開いていた窓から外を見ると、よじ登れるような壁ではなく屋根から飛び移るぐらいしか侵入経路がない部屋だ。ほかに考えられることは内部から部屋に入って窓から逃げるだけど、元から中にいた人物だったらわざわざ窓から逃げる必要はない。


「シャルルが侵入を見逃すとも思えない。こんなことができる奴に覚えもないしな」


 一瞬ロードが頭に浮かんだがあいつは裁定者を名乗る上位者に連れられて別空間に連れ去られた。こんなに早く帰ってくることはないだろうし、帰っていたとしてもわざわざダズを殺す意味も考えられない。


「シト、ダズが殺されたってのは本当か?」


「もう動いて大丈夫なのかい?」


 調べているとアギトが部屋に入ってきた。

 傷が治ったとはいえすぐ動くことが出来ず戻ってから長い間眠っていたが、先日目を覚ましていた。一応まだ動かないように言ってはいたけど騒いでたせいで来てしまったようだ。


「自分で歩くぐらいできる。それよりもさっきの騒ぎのことだ」


「うん。ダズが殺された、犯人も見当がつかない」


「シャルルは気づかなかったのか?」


「まったく気づかなかった。封印魔法は得意ではないが、侵入者を見逃すことはないと思ってたんだが」


「責める気はない、俺だってなにもできなかったんだ」


 俯くシャルルの方に手を置くアギト。

 言う通りシャルルだけが悪いわけじゃない、見張りぐらいつけておくべきだった。


 その後も三人で話し合ったがまだ知らない町ということもあり、こういったことができる人物に見当がないことから部屋に戻ってカレン達にもさっき会ったことを教えて休むことになった。


「ダズを殺す理由……証拠隠滅? でも協力者はロードだけだしその線はないな。だとすれば恨みか?」


 恨みの線で犯人を考えると、浮かぶ人物はいくらでもいる。子供を殺された親だっているし、親を殺された子供もいる。だがダズを連れてきたのは誰も外出していない深夜、ダズを恨んでいる人物がいても今どこにいるか知っている人物なんて――


「孤児院……?」


 あの場にいた孤児院で暮らす人達の中で俺たちが娼館にいることを知っていて、ダズに恨みを持つ人物で絞り込むと、たった一人だけ浮かび上がった。一緒に過ごした時間を思い返してさすがに違うかと思ったけど、条件に会う人物があの子しかいないことに俺は頭を抱えながらエナの隠れている部屋まで向かった。

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