55話:天使と死神1
外に出て孤児院から離れつつ戦っていたためいつの間にか結界の縁近くまで来ていてアギト達がすぐ近くまで駆け寄ってくる。
来てくれたのは嬉しいが相手は本物の上位者、しかも防御できない武器を持っているから一緒に戦うことはできない。
「早く逃げるんだ、ダズの協力者はロードで……あいつは死神だ!」
「死神だとっ!? いや、それでもお前だけ置いて逃げるなんてできない!」
アギトが剣を抜いて結界を叩くと、空間にヒビが入り二度目の攻撃で割れて結界内に入ってくる。
だが仮にも上位者の張った結界魔法がこんな簡単に壊れるわけがなく、笑うロードを見て罠だと悟った。
「止まれアギト、罠だ!」
「うおおおおっ――"シグネイト"火竜の鱗!」
「人族の男なんかにに興味ないわヨ」
剣を構えてロードに向かって突っ込んでいくアギトの攻撃は容易に避けられ、身体強化魔法で得た防御力も虚しくアギトの腹に鎌が突き刺さる。
「ぐはっ……!?」
「アギトっ! "稲光"!」
雷魔法でロードを下がらせて腹から血を流すアギトを抱えて結界の縁まで戻りシャルルにアギトを任せる。見るからに重症だが回復魔法を保存しておいた護符を複数カレンに渡してあとは頼むしかない。
「シャルル、みんなのことは任せた。今すぐここから離れてくれ!」
「わかった……しっかりしろアギト、死ぬんじゃないぞ!」
「アギトさんっ、アギトさんっ!」
アギトを抱えるシャルルと涙を流しながら名前を呼び続けるカレンが離れていくのを見届けて再びロードと対峙する。
「まだ諦めないのかしら、放っておけばあの子死ぬわヨ」
「君を許せない理由ができた……」
「天使が神に勝てると思ってンの? 上位者にも序列ってものがあんのヨ。天使は神の下、逆立ちしても勝てる存在じゃないワ」
「それなら天地ひっくり返してでも勝ってやる!」
魔法で剣を生成して突っ込む。幸い距離を詰めても大振りの鎌は避けられるし、むしろ近接のほうが魔法を警戒しなくていいから戦いやすい。
俺もロードも一歩も引かない攻防を繰り広げるが、ロードが言った通り神の力は強くできるだけ有利な状況を作っても押しきれずむしろこっちのほうが危険だ。
「もう諦めたらどうなのヨ、死神の鎌で斬られたらアンタでも死ぬのヨ」
「お前殺された子供のことを考えれば、そんなこと!」
「見た目によらずたくましいのネ……そんなアンタの顔が悦楽に染まるところが見たくなったワ!」
力を込めた鎌を避けて大きく後ろに下がる。
手数で勝負しているというのにあっちは鎌で防御しつつ戦えるからすべて避ける俺と比べてスタミナに余裕があり、こっちとしては長引けば長引くほど不利になっている。
少しでも時間を稼いで回復しないといずれ避けられなくなってしまうかもしれない。
「ロードはなんで子供を殺してた、死神がわざわざ人を殺すことないだろう?」
「やだもうリディーって呼んでって言ったじゃない! まあいいわ――アタシは堕天したいのヨ」
「堕天?」
聞き慣れない言葉に疑問符が浮かぶ。
堕天と言えば天使が悪魔になるようなものだと思うが、死神が堕天するというのはどういうことなのだろうか。
「何百年も人の世で魂を切り取るだけの生活なんてもう懲り懲りなのヨ、上位者なんてやめて自由になりたい。そんな時に思いついたのヨ」
「上位者をやめるなんて、そんなことが?」
「できるわヨ。上位者が本来必要としない淫蕩、悦楽……そして罪、最高位の上位者を裏切る行為は神をも堕落させその身を落とす――それが堕天」
「そゆなことのために子供を……!?」
「子供を殺したのは魂喰い、堕天する三つの条件の内の一つ罪を達成するためヨ。二つ目の悦楽は教会の奴らをアタシの奴隷にして楽しませてもらったワ、神を信じる信徒が欲望を開放する姿はたまらなかった……でも淫蕩だけはまだダメなのよね」
淫蕩ってことは享楽にふける、つまり酒や女に溺れてしまえばいいという話のはずだが。
「教会の信徒、町の女、高貴な貴族……呆れるほど犯しても堕天できない。アタシなんてこんなになるまで頑張ったのになぜなのかしら?」
紫に染まった髪をいじりながら喋り続けるロードだが、どうやら本来死神はこんな姿をしていないらしく堕天を目指すうえで見た目も性格も変わってしまったらしい。
自業自得な上大勢を巻き込でいながらこんな態度を取れるなんて、堕天なんて考えるほうがおかしいと思う。
「でもそんな時にアンタが町に来たの、天使よ天使!」
「なんで僕……?」
「天使を犯せばそれは神への最大の冒涜、晴れて堕天の条件が達成できるのヨ! ああ早くアタシのをアンタに突っ込みたい……天使と交わうなんてこれっきりなんだから目一杯楽しまなきゃ!」
「ひっ……!」
下腹を擦りながら体をくねらせるロードに寒気を覚えて一歩引いてしまう。
この戦いで負ければいろいろまずいことになる、とにかく絶対に負けられないことが確信できた。一生そんなつもりはなかったが女になってまで初めてが殺人鬼の死神だなんて勘弁して欲しい。
「堕落した死神の相手なんて話にならないね」
「強がらなくていいワ、アタシ結構こっちは自信あるの――ヨっ!」
再び突っ込んできたロードの攻撃を避け体勢を低くして背中を蹴り飛ばし距離を詰めて斬りつけるが振り返りざまに横薙ぎに振られた鎌を避けて後ろに下がる。
「やってくれるじゃない……!」
さっきの会話の間にだいぶスタミナを回復できた、戦っているうちにロードの攻撃は単調であることがわかったしあともう一つ、弱点らしきものを見つけられれば倒せそうなんだが。
そのあと一歩が届かない。なんとかロードを倒せる一手がないか頭の中で扱える魔法やスキルを組み立てて対策を練るが死神という相手はゲームには存在しなかった。
どんな攻撃が弱点でどう立ち回るのが正解なのか全くわからず攻撃を避け隙をいてカウンターを狙うだけで精一杯だ。
「どうしたの、手が止まってるわヨ」
「ぐぇ!?」
次の一手に詰まっている隙を見られて鎌の柄で腹を突かれ痛みで動きが止まってしまう。早く動かなければ次の攻撃が来ると思いなんとか距離を取ろうとするが、ロードはその場で立ち止まり苦しむ俺の顔を見て気色悪いほど笑顔になっていた。
「いいわぁ……その顔最高にそそられる、もっと見せてぇ!」
「この変態……!」
明らかに格下だと思われ戦闘を楽しんでいるロードに対して俺は必死だ。でも勝てなきゃこの町の現状は変わらないし俺の身も危険、なにがなんでも死神という敵を攻略しなければ。
「"霧切"、"次元閉鎖"」
霧の魔法を発生させて結界魔法でロードごと閉じ込める。
孤児院の中で使った時すぐに避けたから物理攻撃が効く可能性を考えて確実に当たるよう結界魔法と併用した。この状況なら魔法発動中の数十秒間でかなりのダメージを与えられる。
ダメージを期待して見ていると、即座に結界を切り開いて中からロードが出てきた。
その姿は少しだけダメージがあったのか、服や顔に見えづらいが傷がある。
「なによもう、こんなナンセンスな魔法でアタシを倒せるとでも思ってんノ!?」
強がってはいるがどう見てもダメージはあったから、物理攻撃魔法で遠距離から組み立て行くことに決め残り少ない護符を取り出した。
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