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54話:天使と魂狩りの上位者

 月明かりを避けて人目につかないよう南の一角まで移動し、アギトとシャルルが逃げ道になる場所に潜み俺は一人で歩く亜人族(デミヒューマン)の少女を装うカレンを見守る。

 まだ街灯が光る明るい道を歩いているから犯人の姿は見えず、怖がりながらも歩き続けるカレンにもう少しだ暗い場所へ移動するよう指示を出した。


「あの時の路地裏だった、暗がりなら出てくるかも」


 暗い道に入ったカレンを隠れて見守っていると、しばらく進んだあたりで一人の影がカレンに近づくのを見つけて駆け出した。


「止まれっ!」


「うわっなんだ貴様!?」


 人影に後ろから飛びついて押さえつけてると、そいつは背の高い男で修道服のようなものを着ており首から教会のシンボルを下げている神父だった。

 神父らしき男は押さえつけられながらも暴れて抜け出そうとしているの力を入れて動けないようにする。


「貴様私を誰だと思っている、教区長である私に暴力を振るってただですむと――」


「勝手に喋るな、君が子供を襲っていた犯人だろう?」


 喉を押さえて大きな声を出せないようにして問い詰める。まさか子供を襲っていたのが教会区を治める教区長だとは思っても見なかったが、とりあえずカレンを安全な位置まで移動するよう言って話を進める。


「もう一人いたはずだろう、痛い思いをしたくなかったら話すんだ」


「待て待て、私はただその子供が心配だっただけで――ぎゃああ!」


 教会が絡んでいるというのは知っているし嘘や言い訳を聞いている時間がないから掴んでいる腕を強く握ってミシミシと骨が軋む音を出すと、観念したのか言い訳をやめた。


「神が、神が告げられたのだ。ヒト種と言われている亜人族や獣人族(ビースト)は魔族の血族だと。汚れた血を浄化しなければこの世界に平和は訪れない! 私は神を信じているのだ、あの御方は――この神父ダズと教会に本当の役目を与えてくれた!」


 さっきまで普通に話していたのに、神のことを話し始めた途端目が血走り息が荒くなり明らかに狂気を感じる表情に変わっていく。


「神はいま汚れた血と魂をこの世から消そうとしている、この町だけではない! 世界から人族以外の種族を根絶するのだ!」


「話せ、その神ってやつはどこにいる!?」


「汚れた魂の眠る場所……奴らに人族ト等しい死など許されない、神が永遠に地獄へ送ってくださる!」


 魂の眠る場所、眠るというのは――墓地か!

 いま上位者を名乗っている奴は墓地がある場所、孤児院に向かっている。早くいかないとニコや子供たちが危ない!


「"グローチェーン"、カレンはアギトたちを呼んできてくれ、僕は先に孤児院へ向かう!」


「わかりました!」


 魔法でダズを動かないようにして駆け出す。孤児院まではこのエリアからは距離があり時間がかかることを考えて屋根伝いに高い位置まで跳んで羽を使って滑空する。

 走るよりも早く町を囲む壁を超えて草原に着地し、全速力で孤児院に向かうと墓地の前で先生ともう一人の黒ずくめの男――ロードが話しているのが見えた。

 幸いまだ犯人は来ていないようですぐ隠れるよう促す。


「あなたは……どうされたのですかこんな時間に?」


「よかった、早く隠れるんだ。町で子供を殺してるやつがここに向かってる!」


「そんな、子供たちを地下に避難させます!」


 先生は孤児院の中に走っていき、寝ている子供たちを起こして地下室へ避難していった。


「ロードも離れたほうがいい、もしかしたら近くで戦闘になるかもしれない」


「花を添えに来ただけなのにねぇ、それに私は狙われないと思うけどそんなに危険なのかな?」


「ここに来るのは上位者(ハイロード)だ、狙われなくても巻き込まれる可能性がある」


「ならちゃんと守らないとねぇ、"ディメンショナルカット"」


 突然孤児院周辺に薄い膜のような結界が張られる。魔法を発動したのはロードで、魔術師にも見えない葬儀屋が魔法を使ったことに驚いた。


「ロード、君は結界魔法が――」


「"ヘビースタン"」


 振り返るとすぐ後ろにロードが立っていて麻痺のバッドステータスを与える魔法を至近距離で発動され体が痺れて動かなくなる。

 足にも力が入らなくなり倒れそうになったところをロードに支えられたか、なぜか服の中に手を入れて俺の体を触りだした。


「なにして、んっ……! 今はそんなことしてる場合じゃ……やめっ!」


「ずっとこうしたかったの、一目みたときからヨ? もう我慢できないワ!」


 雰囲気が変わり変なテンションのロードが動けない俺の服を脱がせようとして、痺れた体では抵抗できずされるがままになる。


「早く、逃げないと……本当に危険なんだ!」


「そんなことないわヨ、だってね――」


 動けない俺を孤児院の椅子に座らせて後ろを向くと、どこか取り出したかわからない巨大な鎌を右手に持ち左手で目を覆っていた包帯を外してこっちに振り向く。


「その上位者って、アタシなんだものっ!」


 振り返ったロードは口が裂けているように見えるほど広角が吊り上がっていて、隠していた目は白眼に光り十字架を逆にしたような異様な瞳孔をしていた。

 体全体を隠していたローブも脱ぐと、見えていなかった濃い派手な紫の長髪が姿を表しその容姿から人でないことがわかる。


「まさか天使が来るなんて思ってなかったけど、ちょうどよかったワ!」


「"アンチスタン"!」


 近づきながら鎌を振り上げて俺の胸に目掛けて振り下ろしたが寸前で状態異常回復魔法を発動して避ける。


「あら?」


「はぁ……はぁ……君が上位者だって? とても神には見えないけれど」


「失礼しちゃう、これでもれっきとした神よ? じゃあちゃーんと自己紹介しましょウ?」


 鎌を背に、礼儀正しく足を揃えて空いている手を胸に当ててロードは頭を下げる。


「始めまして可愛い天使ちゃん、アタシはロード・ラストリー……この世界唯一の死神(・・)ヨ。リディーって呼んでネ!」


 笑顔でウインクされ鳥肌が立ちそうだが我慢して構える。警戒するべきはあの鎌だと思うが魔法も使えるようだからできるだけ距離を取りつつ孤児院からも離れて戦いたい。


「距離を取ろうって考えても無駄ヨ?」


「――ッ!?」


 一気に距離を詰めてきたロードが振りかぶった鎌で切りつけてくる。


「"プロテクト"」


 咄嗟に防御魔法を発動するが鎌は魔法の壁をまるですり抜けるように通過して俺体を浅く切り裂いた。

 速攻魔法だから多少のダメージは覚悟していたが、そもそも守れていない。魔法は問題なく発動しているはずなのに鎌で壊されたわけでもなく俺にだけダメージが入った。


「アンタ死神の鎌を知らないの? 魂を切り取る鎌を魔法なんかで防げるわけないじゃない」


「なんだって……!?」


 つまりあの鎌は防御不可能の貫通ダメージ武器。

 そんなチート武器ゲームには存在しなかった、本当にプレイヤーではなくこの世界の上位者なのか。


「死神の鎌の前には鎧も魔法もことごとく無力、諦めて体を差し出したほうが身のためヨ?」


「そんなわけにはいかないね――"切霧"」


「あらやだ……!」


 投げた護符から霧が発生し範囲内の敵に切断ダメージを与える魔法を発動するとロードは孤児院の壁を切り崩して外へ逃げ、俺も追いかけていく。


「焦らさないで欲しいわネ、アタシはもうビンビンだっていうのにっ!」


「"ヘイスト"!」


 防御不可能の鎌による攻撃を速度を上げて回避する。確かに防げないのは強いし巨大だからリーチもあるがその分大ぶりで避けやすい。

 カルナと戦ったときと比べればまだやりやすい方だ。


「シト! お前は……ロードか!?」


 なんとか鎌を避けつつ攻撃の隙を伺っていると、結界の外に拘束したダズを連れたアギト達が走ってきた。

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