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51話:天使と守れない命

 鍵が開いたままだったが一応ノックして娼館へ帰るとアギトが服が飛び出すほど詰まった洗濯籠を持って歩き回っていた。


「なにしてるの?」


「……リズに娼館の裏仕事を押し付けられてな、お前たちも手伝ってくれ」


 話を聞くと俺たちが出た後アギトは服の洗濯、部屋の掃除など普段は営業前にやっている仕事の手伝いをすることになっていたらしい。冒険者の中でも強い竜騎士に家事をやらせるなんてリズはかなり図太い女性だな、いくら頼みを聞いてくれている立場であってもなかなかこんなことはできない。


「私手伝いますよ」


 忙しそうなアギトを見てカレンがはみだしている服を下ろして持ち上げ廊下の奥に歩いていったが、俺達は勝ったものを届けるためにカウンターの奥の部屋に向かう。

 入るとリズが書類などを見ながら様々な硬貨を数えており、扉の音でこちらに気づき持っていた書類を机に置いて立ち上がる。


「おかえり、思ったより早かったね」


「ちょっと寄り道したけどね。それで他に頼み事はあるのかい?」


「特にないよ、あの竜騎士の子が残ってくれたおかげで開店前の準備も整ったし部屋は用意してるから休んでな。アドレア、この子たちを部屋まで案内してあげな!」


 リズの呼びかけに応じて部屋に入ってきた女性に促され、俺達は部屋を出ようと立ち上がるとニコと俺だけが呼び止められた。


「アンタは手紙にはなかった子だね……悪いけどアンタは奥に入れられないよ、帰りな。あと白髪はアタシの部屋に来てもらうよ」


「いやいやニコが帰るなら僕が送っていくよ、町は危ないからね! さあ行こうかニコ!」


「わかった……」


 部屋に来いという言葉に悪寒を覚えてニコの背を押して娼館を出る。

 リズの部屋に行こうものならなにをされるかわからないから、いまは逃げて夜中になんとかみんながいる部屋に戻ることにしよう。さすがに怖くて素直に部屋まで行くことなんてできない。


「ニコはどこに住んでるの?」


「町の外、孤児院」


 アレクシオスの近くに孤児院があった覚えはないけど、ゲームではオブジェクトだった建物が娼館になっていたりするからどこかにあるんだろう。

 確かアレクシオスの近くには墓が設置してある小さな家があったことを思い出し、そこが孤児院だと思って歩き出した。


 夕方になり人通りが少なかったおかげが昼のように誰かに絡まれることなく町を出ることが出来たが、ニコが無口なこともあり全く会話が出来ていなかったので適当に話題を出して会話を試みる。

 名前と墓守であること以外ニコの素性を知らないし、この機会に色々聞いておこう。


「ニコは普段なにをしてるの? 墓守ってあんまり聞かないから気になっちゃって」


「墓荒らし、野盗から、お墓守る。みんな、安心して眠れる」


「そうなんだ、でも野盗とかいるのは危なくないの?」


「立ってるだけ、人がいれば、近づいてこない」


 人族に襲われて怪我をしていたニコには危険な仕事だと思ったが、立っているだけで近づいてこないというのなら安全ではあるようだ。そもそも危なかったらずっとニコに任せてはいないだろうし考えてみれば大丈夫だったか。


「孤児院には人がいっぱいいるの?」


「私と、あの四人、先生が一人。昔、教会の人が、大人殺してた、でも子供も殺されるから、孤児院に来る子供、少ない」


 聞けば聞くほど教会のやばさが伝わってくる。

 上位者と名乗っている奴も異常だ、本当に神だとしても人族じゃないってだけで子供まで殺しているなんて正直許せない。孤児院ってことはニコも親がいないわけだし、本人が生きているだけ幸運だがそれでもこの歳で両親がいないのは可哀そうだ。


「暇があったら僕たちのところに来ていいからね、しばらくはこの町にいるから」


「ありがとう、墓守の仕事、夜しかない。明日も、会いに行っていい?」


「もちろんだよ、待ってるから好きな時においで」


 ちょっとだけ嬉しそうに見えるニコに笑いかけ歩いていると孤児院に到着した。

 中からは誰も出てこないがニコはポケットから取り出した鍵で扉を開け、中に入る前にこっちを見て小さく手を振ってから扉を閉めた。


 ニコを安全に送り届けることもできたし、娼館に戻るため来た道を帰るがリズに会って部屋に連れ込まれたらと考えてしまい気がつけば夜になっていた。遅くなりすぎるとカレン達に心配をかけてしまうかもしれないし、重かった足を動かして町に入る。

 町は日が暮れると出店などでにぎわっていた道が静かになり人通りもさらに少なく、すっかり雰囲気が変わっていた。


 聞こえるのは水が流れる心地よい音だけで、自然の一部を感じながら歩いていると路地裏に三人の人影があることに気づく。

 二人は大人ぐらいの背丈でもう一人は子供のように見え……この町で起きている事件を思い出し駆け寄る。


「なにしてるんだっ!?」


 わざと大声で呼びかけると背の高い二人は奥に逃げ出し、追いかけようと思ったが子供が心配だったので周りを確認して倒れそうな子供を支えると――胸から服が赤く染まるほどの血が出ていて目をすでに光を失っていた。

 回復魔法でどうにかなる段階ではなかったがなんとか助けようと血で染まっている場所の中心の部分を見てみると、大きな穴が空いていて血はすでに流れず死んでいることが明らかだった


「……もう、手遅れだ」


 俺の大声で周りの家がざわつき出したので、上着を脱いで子供を隠し屋根に飛び移って娼館を目指す。時間的にも営業が始まっているだろうから正面から入れないので屋根から中を覗いてカレン達がいる部屋を見つけて壁に張り付き窓を叩くと、窓際にいたカレンが気づき窓を開けてくれた。


「遅かったですね、それにしても窓から入ってくるなんて――」


「待てシト……なんでお前から血の匂いがする?」


 勘のいいアギトに指摘されて隠すことなく抱えている子供をゆっくり下ろして上着から出す。

 全員が驚き声を失うが、すぐ冷静になったアギトが再び上着をかぶせて子供の前で手を合わせたのでみんな続いて手を合わせてしばらく祈り、数分で目を開けた。


「聞きたくはないが、どうして子供の死体を持ってきた?」


「襲われてた……助けに行った時にはもう手遅れで、置いておくこともできなかったんだ」


「"アイスメイド・ボックス"」


 アギトと話しているとシャルルが杖を取り出して床を叩き、子供の死体を氷の箱で覆う。


「気持ちのいい言い方ではないが防腐処理だ。娼館から血や死人の匂いがしたらまずいだろう」


「ごめんシャルル、ありがとう」


「落ち込むな、助けられなかったことも悔やまなくていい。冒険者をやってれば救えない命もある」


 そう言われて少しだけ気持ちが軽くなる。

 俺はこの世界来る前からも人を助けて感謝されるのが嬉しいというだけの日々を送っていて、そのために今まで以上にゲームをやり込んで強くなっていた。でも初めて目の前で助けられなかった人を見て、思っていた以上に落ち込んでしまっていたようだ。


「とにかく俺たちは朝まで部屋を出ないよう言われてる、明日になったらリズに事情を説明してこの子をちゃんと弔ってやろう。シトも気にせずもう休め」


 アギトに労われるように肩を叩かれて窓際の椅子に座る。

 シャルルにも気にするなと言われたとはいえさすがにすぐに立ち直ることはできず、その日は眠りたいと思っても眠ることはできなかった。

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