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5話:天使と入浴の時間

「宿屋アンネイへようこそ! うちは冒険者から旅人まで金がある客はいつでも歓迎だわん!」


 俺たちは少し歩いたところで、町の宿屋に到着していた。

 受付も見覚えのある獣人族のNPCだが、覚えているセリフと違う。

 たぶん異世界なだけに一人一人生きてるってことなんだろう、入店の挨拶一つとっても人のなりが出るってわけだ。


「お久しぶりです、部屋を三泊分ほどお願いします」


「ありゃ、カレンちゃんじゃないか。三泊なら銀貨五枚だよ~、後ろの人の分も部屋がいるなら銀貨十枚だにゃん!」


 犬なのか猫なのかはっきりしろよ……どうみても犬の獣人だろ。

 カレンとは知り合いみたいだが、なんだかいい加減な受付だな。


「銀貨十枚……あれ? あれ!?」


「どうしたの?」


「……お金が一部屋分しかないんです」


 全く持って非常事態だ。

 俺は今こそ見た目が美少女だが中身はれっきとした男、こんないたいけな少女と同じ部屋で三日過ごすなんていろいろ耐えられるわけがない。


「アンネイはお金があるお客しか歓迎しないわん」


「と、とりあえず今は一部屋だけ借りておくのはどうかな? 僕は外で待ってるからさ」


「でもシトが泊まる場所が、私が外にいますからシトが泊まってください!」


「それじゃあ宿屋に来た意味がないじゃないか!?」


 なにを考えてるんだ?

 俺は別に絶対に一人部屋がほしいとも言ってないし、いま金がなくても冒険者になれれば簡単な依頼で宿泊費ぐらい稼げるんじゃないのか。


「だって……天使様と同じ部屋に泊まるなんてとても」


 カレンが受付嬢に聞こえないよう耳打ちしてくる。

 つまり俺のことを気遣って二部屋用意しようと思ってたわけだ。

 俺としても嬉しいが、今はカレンが身だしなみを整えることが先決だから部屋のことは後から考えよう。


「じゃあ――」


「はいはいお二人共、他のお客さんが待ってますから早くお部屋に行くんだぴょん」


 次はうさぎかよ!? とツッコミを入れそうになるが受付嬢に背中を押されて部屋まで案内されてしまった。

 どうやらカレンと話している間に俺達の後ろには列が出来てしまっていたらしい。


 押されるまま部屋に入り、扉を閉められ強制的に二人で一部屋に入れられてしまった。

 これはまずいことになったが、とりあえず落ち着いて行動しよう。カレンは見た目通り俺を女だと思ってるし俺作責をつければなにも起こらない。


「ごめんなさい、私がちゃんとお金を見ていなかったせいで!」


「いいよいいよ、気にしないで。それよりも身だしなみを整えるんだろう? 冒険者ギルドは僕も気になるし準備するといい。それと僕も身だしなみを整えるとするよ、主に恥はかかせられないからね」


「ありがとうございます」


 それだけ言って僕の目の前で服を脱ぎ始めた。


 身だしなみを整えるって、着替えるってことだったのか!?

 やばい、二人きりの部屋で女の子の生着替えなんて俺には刺激が強すぎる――いや、でも着替えなんて持ってなかったはずだ。この世界にゲームと同じアイテムボックスがあるならわからないが、町に着いてから大荷物を抱えて歩いている人もいたからその線は薄いだろう。


 突然の脱衣の理由がわからず挙動不審にキョロキョロとしていてると、部屋の奥に人が数人が隠れられるほどの仕切りが見えた。


「ふっ……!?」


 咄嗟に出た声を口を塞いで止める。

 風呂だ、今からカレンは風呂に入ろうとしている!


「カレン、僕はちょっと外で待つことにするよ」


 自然な感じで部屋の外に出よう。

 仕切りがあるといっても俺がここにいるわけには行かない。

 いくら見た目が女になっただけの引きこもり陰キャゲーム廃人でも常識ってもんがある。


「お湯がもったいないですし、シトの背中も流しましょうか?」


 ふふん、そんな誘惑になるわけがないだろう?

 常識ある大人は見た目が女になったくらいで女の子といっしょに風呂に入ったりなんてしない。


外で待ってるよ(ぜひお願いしたいな)


 気がつくと俺は、年端もいかない少女に背中を流されていた。


 やってしまった……こんな簡単に超えてはならない一線を超えてしまうだなんて――人は、弱い……。

 こうなるといっそ吹っ切れてこの世界では女の子になってしまったほうが楽なんじゃないかとまで考えてしまう。


「シトは背中に変わった模様があるんですね?」


「模様? 自分の背中を見たことないからわからないな、どんな模様だい?」


「花や蔓みたいな、植物が羽のような形になっています。天使様だからでしょうか?」


 植物が羽のように? 俺はキャラクリエイトの時にそんな模様をつけた覚えはないし、そもそも体に模様があるのは亜人族の特徴だ。


 ボディペイントは可能だったがそんな複雑なものはなかったし、背中に模様については俺にもわからないな。

 とりあえず誤魔化しておくか。


「天使は謎が多いからね、その模様については僕の口からは言えないな」


「そうなんですか、すいません聞いてしまって」


「気にすることはないさ、それより僕にもっと興味がでただろう? カレンが僕のことを知ろうとしてくれていることが嬉しいよ」


 なかなかキザというか臭いというか、リアルで言ったら罰ゲーム過ぎるセリフだが天使というキャラにはあっているだろう。


「それよりカレンも体を洗いなよ、僕は湯に浸かって待っているからさ」


 そう言って立ち上がり、できるだけ壁をの方を向いて湯が張ってある大人二人分くらいの大きさの木桶風呂に浸かる。


「はあ……」


 思わず声が漏れてしまうほど気持ちがいい。

 実際数時間歩きっぱなしの後だからか、温かい湯が全身に染み渡る。


 この世界に来る前は毎日ゲーム三昧でゆっくり風呂に入ることもしてなかったから、風呂がこんなにも気持ち良かったことを思い出してしまった。

 体が変わっても日本人なんだな、湯に浸かるという文化はやはりなくてはならないものだ。


「シト、私も失礼していいでしょうか?」


 背後からカレンの声が聞こえる。

 カレンの方向を見ないように後ろ向きで浸かっていたのだが、カレンも体を洗い終わったようだ。


「どうぞ、疲れを癒やすといい」


 足を伸ばしていた方向に移動してカレンが入る隙間を空けようとすると、その前にカレンが僕の真正面に回ってきていた。


「なっ!?」


 途端に今まで直視していなかったカレンの全身が視界に入る。

 まずい、俺の最後の砦が決壊してしまいそうだ。


「失礼します」


 カレンが足を上げ片足を湯船に入れる。

 今は横向きだから真正面は見えていないが、足が入ってしまえばカレンは俺の方を向くことになる。


 くそっ、もう目を潰すしか――


「カレン! 勇者パーティーを追放されたというのは本当なのか!?」


 俺が罪滅ぼしとして両目を失う覚悟を決めかねていた時、部屋の扉が開かれ男の声が飛び込んできた。

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