49話:天使と娼館
妙齢の女性に連れられるまま部屋に入り全員が座る。
俺はと言うといまだに肩を抱かれたままで女性の隣に座らされていた。
それだけならまだいいのだが、たまに耳や首筋を指でなぞられるからくすぐったいしやめて欲しい。
「アタシはこの娼館のオーナーをしているリズ、この辺じゃピンクママで通ってるよ――ちなみに見た目が良けりゃ男も女も大好きさ……」
なぜか最後だけ俺の耳元で呟いて耳に息を吹きかけられた。ゾクッとして震えるが、まるで反応を楽しんでいるようにリズが笑い話を戻す。
「あの子についてはうちで預かろう、働いてくれりゃいいけど修道女なんだろう? なら代わりにあんたらにその分働いてもらうよ」
「感謝する、それでなにをすればいい?」
「そうだね……こっちの白髪が店に出てくれるっていうならそれで十分だよ、むしろお釣りが来るぐらいさ」
店に出るって、娼館で働けってことか!?
そんなの絶対無理だ!
「無理無理無理無理! 僕が娼館で働くなんて絶対無理!」
「俺達からもそれは勘弁させてくれ、一応パーティーメンバーなんだ」
「そうです、それにシトは私の契約精霊ですから!」
アギトに続いてカレンも拒否ししてくれて、シャルルも静かに頷いている。ニコはそもそも娼館がなんなのかも知らないだろうし、無表情で座ったままだ。
「アンタ精霊族なのかい? 珍しいねぇ上位精霊がこんなところにいるなんて、でも売れそうだからやっぱり考えてみないかい?」
「ごめんほんとまじでちょっと無理……」
娼館っていうとつまり風俗店だから、そこで働くってことはそういうことだ。いくらなんでも想像したくない、これはエナとためであっても無理だ。
「じゃあアンタには別のことを頼むよ――それじゃあ店に出なくていいから必要なものの買い出しと働いてる子達の頼み事をできる限り聞いてあげな。しばらくはそれで勘弁してあげるよ」
「わかった、じゃあまずは買い出しから言ってくる。そろそろシトを離してやってくれ」
「残念だけどいいよ、ほら戻りな」
「はぁ……やっと解放されひゃあ!?」
ずっと掴まれていた肩を離されアギト達側に戻るため立ち上がると尻を撫でられた。不意打ちに驚いて声が出てしまい恥ずかしくなるが、早く離れたい気持ちが勝ちそそくさとカレンの隣まで戻る。
「大丈夫ですか?」
「全然だいじょばない……」
この世界に来ていろいろ危ないことはあったが初めて人相手に恐怖を覚えた、リズにはできるだけ近づかないようにしよう。
「これが買い出しのリストと必要な金だよ、一端の冒険者なら簡単なお使いだ。夕方頃には揃えて帰ってきておくれ」
リズから渡された紙をアギトが受け取り、軽く確認して懐にしまう。
「最後に確認だが、ここは絶対安全ってことでいいんだな?」
「この町で一番と言っていいね。娼館は身分も種族も関係なく男が立ち寄る場所、貴族から警備兵までありとあらゆる男の秘密をここの女は握ってる。だから誰も手出しできないのさ」
「そうか、なら安心だが……俺も念のために残っていいか?」
「アギトも? 別にそこまでしなくてもいいんじゃ」
「いや今回は相手が相手だ。いくら娼館でも強行突破してくる可能性はある」
「そうかい、アタシは別に構わないよ」
リズから許可をもらい、アギトが受け取った買い出しのメモをシャルルが受け取り俺達は四人で娼館を出ることになった。
「ひどい目にあった……危うく娼婦になるところだったよ」
「シトをああいうところで働かせたりしませんから安心して下さい」
「それにしても気に入られてたな、シトは人に好かれるスキルでも持ってるのか?」
「そんなのないよ……あっても絶対使わない」
最近だけでもグレイに襲われるわ貴族に囲まれるわ、リズには体を触られて散々だ。むしろ人が寄りつなくなるスキルが欲しい――まあ昔の俺が持ってかもしれないが。
「シト、とてもきれい。だから、好かれてる」
「ありがとうニコ、でもやっぱり珍しさじゃないかな? 白髪は珍しいって言ってたし」
「確かに白髪はどの種族にも基本いないな、稀に狐系の獣人族で生まれるらしいが数はかなり少ないらしいし」
元日本人の俺的には赤髪のアギトとか灰髪のビクティのほうが馴染みがなくて珍しいんだが、ゲームじゃ自由だった髪色も種族とかで違いがあるのか。
「でも上位精霊ってなるとそもそも珍しいからな、白髪がいたとしてもおかしくはない気がする」
「そうだね、生まれたときからだしあんまり気にしてなかったよ」
自分の髪をつまんで見てみても、自分が作って使ってたアバターだから違和感はない。服も着せ替えられた時は恥ずかしかったが、最初から来てるこの装備なら特になんとも感じないし今の自分なんだと受け入れられている。
「さて、依頼の時限は夕方までだけどニコのこともある。早めに終わらせてニコの問題も解決しないとな」
「ありがとう、バッテンの人」
「バッテンの人って……シャルルって呼んでくれ、とりあえず買わなければいけないものだが――」
それからはまず買い出しのため町中を回り、買い出しリストにある物を探し回った。
幸いニコが町に詳しいこともあり、店の場所にも迷うことなく行くことができてスムーズに買い出しが進みある程度荷物が増えた頃、次の店を目指して歩いているとガラの悪い二人組に道を塞がれた。
「おいおい亜人族と獣人族が道の真ん中歩いてんじゃねえよ!」
「人の歩く道が汚れるだろうか、端を歩け端を!」
絵に描いたようなチンピラの二人は俺達の前に立ってどけと言いながら腕を振り回していて、突然のことで呆然としてしまったが関わりたくないので無視して通り過ぎようとするが、通り道にわざわざ移動して止めてくる。
「待てよ姉ちゃん、人族ならこいつらのしつけぐらいしときな」
「どいてよ、あと僕は人族じゃなくて精霊族だ」
「精霊族? 精霊族っつたらお前、あの虫みてえな種族じゃねえか、こんなやつもいるんだな!」
下品に笑いながら触れてこようとしたので手を払うと、笑っていた顔が怒りの表情に変わり腕掴まれそうになる。
「てめ――うおっ!?」
もう一度手を払おうとする前に、伸ばしてきた腕をシャルルが掴んで捻った。
「いてててて! てめぇ亜人族が人族にてあげていいと思ってんのか!?」
「知らないな……ギルドじゃ人族と亜人族の殴り合いなんて日常茶飯事だった――」
シャルルがチンピラを殴り飛ばすと、周りが騒然とする中もう一人のチンピラが焦りながら離れる。
「し、知らねえぞ! こんなことが教区長の耳に入ったらお前は終わりだ、生きて町から出られないと思え!」
殴られたチンピラも立ち上がり、捨て台詞を吐いて逃げていく。
シャルルは特に何も感じてなさそうだが、守ってもらったので礼をすると気にするなとだけ言われ先を歩き出した。
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