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48話:天使と獣人の子

 一日目は慣れないこともありハプニングもあったが、以降は特に問題なく過ごすことができ水の都アレクシオスに到着した。


 水の都と呼ばれるだけあってアレクシオスは白い建物が目立つ美しい町で、出店に並ぶ魚介類も新鮮そうで見ているだけで腹が減る。

 なにより町の中心にある噴水に向けて流れる水路があってどこを歩いていても綺麗な水が目に入る。

 ただ観光目的で来たわけではないから船を降りた俺達はグレイから伝えられていた場所まで向かうため俺の記憶を頼りに町を探索していると、綺麗な町並みとは程遠い光の届かない路地裏に入っていた。


「本当にこっちで合ってるのか?」


「たぶん合ってると思うんだけど、地図とかないからな〜」


「表通りとは雰囲気が違ってちょっと怖いですね」


 カレンとエナも不安そうだが、この先にある三階建ての建物が目的地になっているはずだがら合ってると思い前へ進む。

 昼なのに日も当たらない場所だから俺も少し怖いが、着いてしまえば安心だ。


「あの……人が倒れていませんか?」


 エナが指差す正面には薄汚れた布が落ちていたが、子供ぐらいのふくらみがあり暗くてよく見えないが灰色の毛のようなものがはみ出していた。


「助けないと!」


 心優しいのは良いがエナは現状狙われている立場だ。不用意に近づくのは危険だと思い止めていると知らないうちにカレンが布をめくって驚きこちらに戻ってきた。


「シト倒れているのは獣人族(ビースト)の子供ですよ!」


「子供か……見て見ぬふりもできないし助けて話を聞いてみようか」


 刺客ではあればこんな回りくどいことしないだろうしアレクシオスにきてすぐに待機してるなんてことないだろうから、子供ということだし助けることにして布をめくり声を掛けるとか細い声で返事が帰ってきた。


「どういたんだい?」


「さっき……人族(ヒューマン)に殴られて……歩いてただけなのに」


 涙を流している少女に水を飲ませて落ち着いてもらい、服の汚れを払って何があったのか聞いてみた。


「助けてくれてありがとう……私はニコ。町の外で墓守りをしてる、必要なものを買いに来た、さっき人族に襲われた。二人いたから抵抗できない、動けなかった」


「こんな子供を襲うなんて、ひどい……」


「殴られたって言ってたけど、他になにかされた?」


「お金盗られた……お金がないと買い物できない、買い物できないとちゃんとみんな弔えない」


 なんか話し方がたどたどしいけど、墓守りとしての責任感は幼いながらあるようだ。エナも修道女だから気にするだろうしなんとかならないかな。

 ただ俺達なも別の目的があるしこんなところで立ち止まってるわけにもいかない、でも中途半端に助けた子供をここで放って置くのも……。


「とりあえず同行したらどうだろうか、放っておけないし危険でもないだろう」


「そうだね、ニコの問題は後でどうにかするとして先にこっちの用事を済ませよう」


 葛藤していたらシャルルが折衷案を考えてくれた。それなら両方なんとかなりそうだしニコには少しだけ待ってもらうことにしよう。


「ニコだったか、すまないが少しだけ待っててくれ」


「人族っ!?」


 膝をついて近づくシャルルを警戒するニコだが、シャルルは顔布を少しめくり顔の痣を見せて優しく微笑んだ。


「俺は亜人族(デミヒューマン)だ、それに人族も一緒にいるが怖がらなくていい、俺達はアルタイルからきたからここの奴らとは違う」


「……わかった」


 納得したニコを立ち上がらせて全体を見ると、耳が大きく尻尾が太い、歯も人のというより鋭い牙のような形をしているから狼系の獣人族のようだ。

 狼系のアバターは前衛職で強いイメージがあったがさすがに子供だし、人族に襲われても抵抗できなかっただろう。


「ニコさん、少しいいですか?」


 エナが近づいてニコの頬に触れると、殴られて擦り傷のようになっていた場所がみるみる治っていく。

 初級の回復魔法か、エナも修道女だけあって白魔導士の素質があるんだな。


「痛くないですか?」


「痛くない、お姉さん人族だけどいい人族……ありがとう」


 変わった雰囲気だけどお礼も言えるしいい子なのかな。エナも怪我を治してくれたし俺達といても違和感なさそうだ。

 ニコも連れてしばらく歩くと、俺のゲームでの記憶通り三階建ての建物がありドアをノックすると誰もでてこない。


「人がいないのか?」


「いや気配はある……扉の鍵は、開いてるな」


 アギトが扉に手をかけるとなんの抵抗もなく開きなかに入ることができた。

 建物の中は路地裏の暗い外観とは裏腹にきらびやかで、赤い絨毯やガラスの照明などがありカウンターが目の前にあるところを見るとなにかの店のような雰囲気を感じる。


「誰かいないのかー!」


「ちょっとここは日が落ちてからの営業ですよ!」


 アギトが大声で呼びかけると奥から若い女性が走ってきた。

 やっぱり何かしらの店だったらしく、営業時間外だったから誰もでなかったらしい。それなら扉の鍵は閉めておけばよかったんじゃないかと思うが、出てきてくれたのなら対応してもらう。


「あの僕たち――」


「あっママー、新しい子が来ましたー!」


 喋ろうとするとなぜかシャルルを見てはっとし、奥に誰かを呼びながら戻っていく。

 なんなのか理解できず待っていると、さっきの若い女性ではなく今度は妙齢の女性が姿を現した。

 その女性は俺とエナを勘定するように見定めて、しばらく黙ったあと指をさして話しだした。


「ふむ……金髪と白髪は合格、黒髪と獣人のチビはもう少し大きくなってから来な」


 そう言って俺とエナの手を引き隣に引き寄せ髪や顔を触られる。そのまま確認するように全身を撫でるように触られて、一通り済んだあとに両脇に俺達を置いて奥に戻ろうとし始めた。


「こっちはまずまずだけど白髪は珍しい、相場の倍で買うから金はタニアから受け取りな」


 胸を軽く叩かれながら言われるが相場とか金とかなにか勘違いしているようなのでその場で立ち止まり、アギト達もおかしな状況に気づいて止めに入る。


「ちょっと待ってくれ、僕たち別の用事できたんだけど」


「なんだあんたらこの子らを売りに来たんじゃないのかい?」


「売りにって、そんなわけないだろ!」


 女性が振り返って応対するけど俺達はまだ話してもらえていないままだ。とりあえず勘違いを訂正して今のやり取りの意味を聞いてみないと。


「ここってなんの店?」


「なにって娼館だよ、あんたらそんな事も知らずに来たのかい? タニア、この子たち売人じゃないってさ」


「そうだったんですか! すいません怪しい人がいたのでてっきり……」


 怪しい人っていうのは言うまでもなくシャルルだろう。確かに黒い服に顔まで隠してるし裏社会の誰かしらとか思われてもしょうがない。


「俺達はグレイの紹介で来たんだ、手紙はシトが持ってる」


 ポケットからグレイの手紙を出して渡す。

 グレイは中を見れば理解してくれると言っていたしとりあえず先に読んでもらおう。


「グレイ……あのダメ男が私になんの用だい?」


 渡した手紙を開けて中を読んでもらうと、最初は冷静だった女性の顔がだんだんイラつき始め最後近くまで読み勧めた頃には呆れきった顔をしていた。

 内容がすごい気になるがこの表情を見る限り読まないほうがよさそうだ。


「話はわかったよ、ったくアイツまた面倒事押し付けやがって、今度きたら玉潰してケツに竿ぶち込んでやる……」


 ゾッとすることを呟いたが聞かなかったことにして話を進める。


「エナってのはこっちだね――タニア、イザベラの部屋を開けてこの子を入れときな! あと今晩の営業は十六番の指名は取らないよ」


「わかりましたママ、さあこっちに来て」


 タニアと呼ばれた女性がエナの手を引いて奥に入っていったので追いかけようとしたら止められてしまった。


「あの子のことは心配しなくていい、うちはこういうのも日常茶飯事だからね。あんたらはこっちだよ、聞きたいこともあるからね」


 俺は妙齢の女性に肩を抱かれたままカウンターの奥の部屋へ連れて行かれた。

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