46話:天使と気遣い
落ち着いて部屋に散らばった羽を掻き集め、一枚も残さずどう処理するか二人で悩んでいた。
部屋にあった袋に詰まる量ではあったから捨ててしまおうかと思ったが、まがりなりにも天使の羽として扱っているためゴミ箱に入れるのはアギトからしても気が引けるようだ。
「とりあえずベットの下にでも入れておくか?」
「そうしようか、抜けた羽だしどうなってもいいんだけどね」
まだ残っていないか部屋を見回していると、見つけづらいところに一枚羽が落ちているのを見つけたので拾って持って行く。
ただ袋は縛っているし開けるのも面倒なのでアギトに羽を手渡した。
「持っておきなよ、天使の羽なんだからいいことあるかもしれないからさ」
「もらってもな……いや一応持っておくか。天使本人はあれでも本物だしな」
あれってなんだあれって、俺そんなに信用ないのか? 今まで何度か天使と自己紹介で名乗ってきたけど信じなかったのはアギトだけだな。
羽がなくても白い見た目は天使っぽさあると思ってたんだが、最初から疑われるとなかなか信じてもらうのは難しいようだ。
「それにしても痛がるシトってのは見ていて新鮮だったな」
「なっ……!? やめてくれよ、もしかして君はそういう趣味があるのかい?」
「そんな趣味はない!」
「アギトが望むなら、羽のお礼に少しぐらいは――」
「やめろやめろ、俺に女をいたぶる趣味はねえって!」
さっきのことをいじろうとするアギトに、仕返しとばかりに恥ずかしがるふりをしてからかう。
こういう会話ができるあたり、天使とかそんなこと関係なく仲間って感じがするし無理に信じさせたりとかはやっぱりしなくてよさそうだ。
このぐらいの関係性の人が一人ぐらいいるほうが俺も気楽にやっていける。
なんだが今までより距離が近くなったような気がして、冗談を言い合って笑っていると扉が開いてカレン達が戻ってきた。
「ただいま戻りました! とても広くてすごかったですよ、大きなお風呂とかもありました!」
「初めて見るものばかりでとても楽しかったです。お夕飯の時間にはお部屋までお料理が運ばれてくるそうですよ」
楽しそうなカレンとエナだが、後ろに立っているシャルルは顔布の上からでもわからぐらい疲れている。
やはりめんどくさい貴族が多かったのだろうか、美少女二人連れて歩いていたわけだから大変だっただろうな。
「大丈夫だったかい? やっぱり貴族達が――」
「いや……シトの時ほどひどくはなかったんだが、二人がバラバラに歩き回るもんで、まとめるのが大変だった」
「カレンとエナが? それはちょっと意外だな」
子供っぽくはしゃぐ二人を想像すると、大変そうだが和んでしまう。どっちもいままでの感じだとしっかりもののイメージがあったがはしゃぐ時ははしゃぐようだ。
羽のことがあって付き添えなかったけど、そんな二人の姿は見てみたかったな。
「俺は先に部屋で休んでる……アギト、なにかあったら起こしてくれ」
「わかった」
その後なにごともなく過ごし、夕食の時間になったのでアギトも部屋に戻り俺とカレンとエナは三人で机を囲み豪華な夕食を食べながら日が落ちるまでの時間を過ごした。
おかわり自由でなかったことが功を奏し見た目の何倍も食べる大食いのカレンが異常な食欲を見せることもなく時間が過ぎ去り、気がつけば窓から見える海の景色は月明かりに照らされ綺麗な海面が幻想的な雰囲気を醸し出している。
ゲームのグラフィックも綺麗だったがこうして現実になるとより綺麗な景色だなとか思いつつ外を眺めていると、寝る準備が出来たのかカレンい呼ばれ窓際に置いていた椅子から立ち上がりベットに向かう。
「ベットは二つですけど、どうします?」
「うーん……エナのそばを離れるわけにもいかないし、でも三人固まって寝るには狭いからね」
「ではカレンさんにお願いできますか?」
よかった――エナの隣にいることになったら結局護衛のために起きていなければいけないとはいえ大変なところだった。このままエナの案を採用してカレンとエナに一つのベットで寝て貰おう。
「そうしようか、僕は扉側のベットを使うから二人は窓際に寝るといい」
「……わかりました」
なんか不満そうなカレンだが、とりあえず二人でベットに上がってくれた。
窓の外は一面の海で侵入者が来るようなことはないだろう。
安全を考えると扉側からの侵入を警戒したほうがいい、俺も夜中は起きていられるし寝込みを襲われるようなことはない。
「それではおやすみなさい」
「シトも少しは休んでくださいね」
「わかったよ、それじゃおやすみ」
数分後、昼間はしゃいでいて疲れたのかすぐ眠りについた。
こうなるとやっぱり暇だな、普段なら昼間だろうが夜中だろうが好きな場所にワープして狩りやクエストもできたしこうして部屋で朝を待つだけの時間はいつまで経っても慣れなさそうだ。
「大きな風呂があるとか言ってたな……でも部屋を離れられないし、ちょっと気になるんだけどなぁ」
船内にあるらしい広い風呂場というのを想像してため息が出る。
この時間なら人もいないだろうしゆっくり湯船に浸かって疲れを流したい、朝から歩きっぱなしで船に着いてからも気が抜けないから精神的な疲労が大きい。いくら眠気がないとはいえ起きっぱなしで常に周りを警戒しているというのはかなりきつかった。
――コンコン
少しでも癒されようと外の景色を見ていると、ドアをノックされていることに気づく。
こんな時間に扉の前に人がいるなんて怪しいと思いつつ、扉の前に立って確認する。
「誰だい?」
「俺だ、シャルルもいるんだが少しいいか?」
聞いてみるとアギトの声だ。一応魔力感知で確認してみると、感じる魔力はアギトとシャルル。
変身魔法は魔族が使えるけどプレイヤーは使えないし、変身していたとしても魔力感知や透破スキルで見抜けるし本人だと確信して扉を開ける。
「こんな時間になんの用だい? 夜這いなら追い返すよ」
「ちがっ……! 馬鹿なことを言うな、俺達はお前のことを考えて来たんだ」
声を荒げて否定しようとして、寝ている二人が目に入ったのか小声で喋る。反応を見てみても本人だな、なら部屋に入れても大丈夫だろう。
ただ俺のことを考えて? 羽の件はアギトしか知らないはずだし、心配されるようなことはないはずなんだが。
「お前ずっと休んでないだろ、寝なくてもいいとは聞いていたがさすがに放って俺達だけ寝るっていうのも気が引ける」
「エナとカレンが寝ている間は俺達が見てるから、シトは休んでいてくれ」
アギトとシャルルが寝ずの番を変わってくれるとは、渡りに船だ。
ちょうど少し休みたいと思っていたところだし任せて風呂でも入りに行くか。
「シャルルは昼間に二人の付き添いで疲れてるだろ、俺が見てるからお前もシトと休んだらどうだ?」
「いや先に寝てたから大丈夫なんだが、シトも一人で休みたいんじゃないか」
「そんなことないよ、アギトが見てくれてるなら安心だしシャルルも一緒に行こう」
引き下がろうとするシャルルの手を掴んで部屋の外に連れ出す。
今日エナとカレンのそばにいなかったのはアギトだけだし、ちょっとくらいアギトだけに任せたって問題ないはずだ。
「じゃあ任せたよ!」
「すまんアギト、すぐ戻る!」
扉を閉めるアギトに見届けられながら俺たちは広い廊下に駆け出した。
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