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44話:天使と乗船

 無事港町で四人と合流することができ、心配で泣きそうになっていたカレンに抱きしめられたり無茶なことするなとアギトに怒られたりしたけど、とりあえず生きているからと言って船内へ入ることにした。


「チケットを拝見いたします」


「五人分だ、問題ないな?」


 身なりの良い門番のような男にまとめてチケットを渡して確認してもらい、船内へ案内される。

 船中はこの世界の感じで見れば豪華でとても冒険者が移動で乗るようなものではないと思ったが、グレイが手配したというチケットはどうやら領主やらの貴族が使うような客船のチケットだったらしく、警備もしっかりしていてすでに中にいる人たちも豪華な服装やアクセサリーをつけた、まさな貴族といった人たちだった。


 俺達はこういう空間だと浮いてしまうが、資格が潜り込めるような場所ではないと考えるとグレイには感謝が絶えない。

 こんなところのチケットを五人分も確保できるだけあって、表向きにはかなりいい身分の人なんだろう。


「広いですね、ちょっと緊張しちゃいます」


「私もこんな船に乗ったのは初めてです。少し周りを見てみたい気持ちが……」


「落ち着け、船を見て回るのは出航してからだ。町に停泊している間は外から狙われるかもしれないからな、時間まで全員で部屋にいるぞ」


 アギトの最もな意見な全員納得して個室へ向かう。

 貴族が乗る船なだけあり個室も広く、二人部屋にはベットが二つちゃんとあるし部屋の位置もアギトとシャルル、俺とカレンとエナに分かれる形で隣同士で二部屋用意してあった。


「お部屋もすごいですね、こんなに広くて綺麗だとむしろ落ち着かなさそうです」


「ここに慣れたら町の宿屋には戻れなくなるね」


「そんなことないです、アルタイルの宿は過ごしやすいですから」


 他愛もない会話をして時間を潰し、出港の合図を待っているとしばらくして部屋の外からもうすぐ出港だと伝えられた。


「出港前に怪しいやつが乗ってないか確認しておくぞ、索敵は魔術師のシトとシャルルに頼む」


「任せてよ」


「わかった」


 二人で部屋から出て船内を歩き回る。

 全身黒一色で杖を多く持ち歩くシャルルと全身白で歩き回る俺だから関係ない人からしたらこっちのほうが怪しい奴だが、痛い視線は気にしないで歩くことにする。


「こっちは大丈夫そうだ、シトはどうだった?」


「大丈夫かな、強い魔力も感じないしみんな本物の貴族っぽい」


 客室から行ける場所を歩き回ってみた広い客室ホールでシャルルと合流し確認し合い怪しそうな人物は見当たらなかったので部屋に戻ろうとしたところ、近づいてきた貴族から声をかけられた。


「君、そこの白い服の君!」


「僕……? なんだい急に、僕たち急いでるんだけど」


「私に呼び止められのだから喜びなさい、私は西の町を治める領主だぞ」


 目立つから予想はしてたけど、貴族みたいなプライド高そうな人たちがいると俺等みたいな冒険者は絡まれるだろうな。

 早いところ逃げてしまって部屋に戻ったほうがいいと思いシャルルの手を引き歩き出そうとすると先回りされ道を塞がれる。


「なんの用かな、目障りならすぐ部屋に戻るよ」


「目障りなどではない――君を私の三番目の妻として迎え入れたい」


「なっ!? シトは冒険者で俺達の仲間だぞ、そんな勝手に」


「庶民は黙っていろ、冒険者風情が私に口出しするなど不敬極まりない! 顔も隠して怪しい奴め、貴様程度すぐに追い出せるのだぞ」


 予想外だったけど、貴族だからって勝手すぎるのはよくないな。でも騒ぎを起こすとまためんどうだから丁寧に断ってしまうか。


「いやだね。君の妻になるくらいならこの怪しい冒険者と結婚したほうがマシだよ」


「シ、シトそれはっ!?」


「貴様……庶民の分際で私よりもその冒険者を選ぶだと……!」


 ロールプレイでしか上手く話せないから言い方がきつくなってしまい、貴族が怒りで顔が赤くなっていく。

 まずい、身分的にも怒らせたら船から追い出されることもあり得る。なんとかこの男を黙らせないと。


「"チャーム"」


 魅了の魔法を貴族の男に使い、意識を操って怒りを収めさせる。人に使うことはないから効くかわからなかったけど、この世界の魔法はやっぱり好きに使えるようでよかった。


「おじさん、部屋に戻って寝ててね」


「わかった〜……私は部屋に戻っての眠る〜……」


 ふらふらしながら振り返り歩いていく男を見届けて帰ろうとすると、今の一連を見ていたのか貴族たちが背後にわらわらと集まっていた。

 さっきのことを糾弾されるとまずい、魔法で姿を隠してさっさと部屋に戻るかと思いシャルルに近づくと一番前にいた貴族が胸ポケットの薔薇を差し出して俺の前で片膝を着いた。


「僕と結婚してください!」


 その言葉を皮切りに貴族たちが俺達を囲んで逃げ場をなくし、全員が俺の体を掴んでは引っ張り大変な騒ぎになった。


「抜け駆けするな、彼女は俺の嫁だ!」


「いいや我が息子の嫁に!」


「我輩の倅に土産を!」


「跡継ぎは君との子がいいっ!」


「領地の半分をあげるから一生を共に過ごそう!」


 全員が全員俺に対して言ってくるが、貴族っていうのはグレイみたいなやつしかいないのか!? 女を見るなり見境なく結婚を申し込むとかこの世界の常識はかなりやばそうだ。


「もう僕は誰とも結婚しない、誰の子も産まないっ! 急いでるんだからどいてよ!」


 ――と大声で叫ぶと騒ぎを聞きつけた警備隊が押し寄せてきて正気を失っているようにも見える貴族たちを俺達から離れさせてくれた。

 その後は結婚を申し込んできた貴族たちが断られたショックかひどく落ち込んていたけれど、無視して部屋に戻ろうとシャルルを探す。

 隣りにいたはずがいつの間にか見失ってしまい目立つ杖を頼りに探すと、なぜかシャルルも貴族たちに混じって落ち込んでいた。


「……なにしてるんだい?」


「すまん、流されてしまった。部屋に戻ろう」


 立ち上がったシャルルと共に部屋に戻ると、ちょうど出港の時間が来たようで船が動き出した。

 客室ホールのことはシャルルには黙っていてもらうために、船内を見て回りたくてウキウキしているエナとカレンに付き添ってもらうことにした。


「じゃあ気をつけてね、あまり遠くに行くんじゃないよ」


「大丈夫です、私がついてますから!」


 そう言っているカレンが一番楽しそうだ。

 エナも本来町どころか教会区から出ることすら珍しい修道女だったからこの広い船は楽しいんだろう。大人っぽい格好をしているのにシャルルが保護者に見えてきた。


「シャルル、貴族には気をつけてね」


「ああ……またあんなことにはなりたくないからな」


 シャルルだけに伝えて三人は部屋を出ていった。

 残っているのは俺とアギトだが、ちょうどいいことに頼みたいことがあった。


 正直やるのは怖いが……崖の時に気付いた腰に埋まった羽をなんとか体の外に引っ張り出したい。俺を除いてパーティーで一番力が強いのはアギトだし、覚悟して頼もう。


「ちょっと相談があるんだけど……」


「何だ改まって?」


「アギトにしか頼めないことなんだけど、聞いてもらえるかな?」


 暇を持て余したのか話半分に剣の手入れをしながら聞いているアギトの後ろで上の服を全部脱ぐ。腰辺りを出すなら捲るだけでいいけど、羽のサイズを考えると服は邪魔になるし下着もゲームのアバターだったからタンクトップのような薄い布を着ているだけだったのでそれも脱ぎ捨ててアギトに背中を向けた。

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