43話:天使と水の都へ
「優しくしてくれよ、僕は痛いのはいやだからね……」
「そんなこと言うな、俺だってこんなこと初めてなんだ。力加減なんてわからん」
俺の腰を後ろから掴むアギトの手に力が入り、俺も反応して力が入る。
「力抜いてくれ、このままだとたぶん痛いぞ」
「君が強く掴むからじゃないか、僕だって怖いんだ」
多少の痛みは覚悟しているが、できれば血が出ない方がいい。ここはアレクシオスに向かうの船の客室だから、下手に汚すとあとから面倒なことになるかもしれない。
「お前が頼んできたんだからな……あとで文句言うなよ」
「しょうがないな、少しぐらいなら痛くても許してあげるよ。ほら早くして、カレン達が来ないうちに済ませたいんだ」
「じゃあいくぞ――」
「いっ!?」
手に力が入り一気に腰を引き上げられ、驚きと痛みで叫びそうなのを我慢するが……俺は想像を超えた激痛に耐えられなくなる。
その後、客室から響き渡った声を誰にも聞かれていないことを祈るばかりだった。
なぜこういうことになったかというと、時間は数時間前――俺たちがアレクシオスに向かう船に乗るため町を出て歩いていた時まで遡る。
日が昇った頃に俺が寝ている全員を起こして、すぐに準備を整えて宿から出た。
宿屋の店主には長く戻らないことを伝えると、ビクティが今使っている部屋を取り続けてくれるらしくいつ帰ってきても問題ないと言われた。たぶんグレイが俺たちの部屋に来る前にビクティに話を通してくれていたのだろう。
ビクティにも挨拶をしてから出ようかと思ったが、ギルド周辺は早くから人が集まるということもあり店主にお礼の伝言だけ頼んでおき、町の外に出て南へと向かって歩く。
「とりあえず町は出られたね」
「そうだな、だがいつ狙われるかわからない。見晴らしのいいところを通ってエナを守りながら進むぞ」
一番危険な状況のエナを護衛する俺たちは先頭をアギト、後方にシャルルと俺、カレンはエナの隣を歩いてもらいすれ違う商人や旅人がエナに近づかないよう警戒しながら歩いていた。
今のところは問題なさそうだか、気配遮断――ゲームでは半透明になって視認しにくくなるスキルを持つ暗殺者や、遠距離からの高威力攻撃ができる狙撃手がいるかもしれないから休憩の時もエナからは離れずシャルルはできる限りの時間魔力感知スキルで広範囲の魔法もすぐわかるようにしてくれた。
「船着き場まではあとどれくらいだい?」
「この先の崖を下りたら着くはずだ、しばらくしたら運河も見えてくるだろう」
「ありがとうございますみなさん、私なんかのためにこんなところまで」
「大丈夫ですよエナさん、私が守ります……絶対守りますから……!」
緊張しているのか会話が成り立っていないカレンが心配だが、シャルルの魔力感知に加えた俺も結界魔法を使って遠距離からの物理攻撃も一度だが防げるようにしてある。守る気概があるのはいいけどそこまで緊張しなくいてもいいと言ってはあるんだけど。
「見えたぞ、あれが船着き場のある町だ」
アギトが指差す方向を全員で見ると、切り立った崖の下には巨大な運河が見えつながるように港町があり、大きな船が停泊していた。
あそこは確か港町シグルド――西から南に曲がりながら大きく大陸を分ける運河に沿う十八の港町の一つで、アルタイルから大きく離れてクエストや攻略に向かったプレイヤーがよく中継地点として使っていた記憶がある。
「カレン、出航時間まであとどれぐらいだ?」
「えっと……チケットには昼前と書いてあるので、あと一時間ぐらいだと思います」
「なら間に合うな、船に乗ってしまえば一応安心できるだろうから早く行くか」
「はい、もう少しですね……あっ!?」
崖上で話している時に突然突風が吹き、カレンの持っていたチケットが空中に飛ばされてしまった。
反射的に崖から走り出してチケットを掴むと、俺の足は空を踏んでいてこれから重力に従って落下することを余儀なくされる。
「シトッ!」
アギトが駆け寄って来て手を伸ばすが掴めず、俺は崖下への落下を始めた。
このままだと死ぬだろうが、空中移動用の羽があるから問題はない。合流したあとの言い訳だけ考えてみんなには港町へ向かってもらおう。
「大丈夫だから、町で待ってて!」
カレンがギリギリまで心配そうに俺のことを呼んでいたが、アギト達に連れられて崖から離れたのを確認し、ゆっくり降下するため羽を広げようと腰に力を入れたが――いつも通り出るはずだった羽が出なかった。
「はあっ!? なんでこんな時に、やばいやばい!」
上がり続ける落下速度に焦るが、なんとか頭の中でダメージ軽減の魔法を思い出して発動する。
「"プロテクションショック"! "フォールオブスロー"! "フィジカルリペア"! "アクアクッション"!」
重ね掛けした防御魔法と継続回復魔法、速度軽減魔法に落下地点に水の膜を張る魔法でなんとかダメージを最小限に抑えて崖下に着地する。
受け身など取れるはずもなく転がり、速攻魔法だからか効力が低いせいでダメージ相応の痛みはあるが回復魔法である程度の傷は治っていく。
「はぁ……マジで死ぬところだった」
ゲームシステム通り俺は羽が使えるはずだったのだが、なぜでなかったのかと思い羽が装備されている腰辺りを確認する。
すると背中には何かが出ようとして引っかかっているような出っ張りがあった。
「おかしいな、羽って服の外からでる装備品だったはずなんだが」
落ち着いて考える。
異世界とゲームの相違点として、羽自体は普及していないのはわかっている。そして俺の体は異世界基準になっているはず、装備品だった羽を扱えるまま召喚されていてさらに腰辺りに何かが存在している状況から出せる結論は――。
「羽が体と一体化してる……?」
そうだとしたら、もし本当にそうなんだとしたら……引っかかっている羽を無理矢理にでも引っ張り出さないとなんかまずいことになるかもしれない。明らかに背中の面積よりも大きなものが中にあるわけだから、なにかの拍子に裂けたりしたらと想像すると怖い。
嫌だなぁ、体からなにかを無理やり引きずり出すってすっげえ痛そう。
「とりあえずチケットは取れたし、みんなに合流するかぁ……」
自分で結論付けながらテンションが下がった俺は、とにかく目の前の目的のために一人で港町へ向けて歩きだすことにした。
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