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40話:天使と長い朝

 翌朝、すでカレンは眠っていてエナはカルナが喋っているせいで眠れず目を閉じたり開けたりしながらふらふらとしたままベットと上で座っていることな気づき、カルナとの会話を切り上げた。


「ごめんエナ、眠たかったよね」


「いえ……天使様が、お話されていますので……眠るわけには」


「もう大丈夫だから寝ていいよ」


「はい……失礼、しますぅ」


『ふん、やはり貴様とはわかりあえんな』


 エナが眠ると同時に模様の光も消え、カルナの声も聞こえなくなる。許可なく喋らないという条件はエナが眠っている時にも適用されているようで、エナの意識がない時は無くなる前に許可されていても喋れなくなるようだ。


「もう朝か、結局眠らなかったな」


 おそらく眠る必要がないとはいえ、なんか生活リズムが狂ったみたいで落ち着かない。この体に慣れていくと人間だった頃の生活には戻れなさそうで不安になるが、そもそも元の世界に戻れるのかもわからないし、戻らなくてもいいと思ってるから問題ないだんが。


 ただ人が寝ている時間は手持ち無沙汰で、することがなくMPが回復していないというのもあり外に出る気力も湧かない。

 アギト達も昨日の今日で早く起きることもなさそうだから、完全に一人の時間だ。誰とも喋らない時間のほうが元の世界じゃ長かったけど、この世界に来てからは常に誰かと一緒にいたからか、こうなるとなにか会話してないと暇になる。


「シトさん、起きておられますか?」


 せっかくだから端のほうに寄って眠ろうかと考えていた時に扉をノックされた。

 この声はグレイだ、もう王都に向かったと思っていたが、まだ町にいたのか。


 一応寝ている二人は薄着だし、布団を掛けて見えないようにして扉を開けるとグレイが立っていた。昨日の夜あんなに大変だったのに立ち姿はしっかりしていて、こいつも黙っていればかっこいい奴なんだなと気づく。


「どうしたんだい?」


「大事な話がありまして、できれば全員に集まっていただきたかったのですかまだ早かったようですね」


 大事な話か……なら部屋の外で立ち話するわけにもいかないな。二人が寝ているところ悪いけど入ってもらうか。


「とりあえず入りなよ、もし誰かに聞かれたらまずいんだろう?」


「察していただきありがとうございます、では失礼して」


 部屋に入って椅子に座ると、グレイが懐から一通の手紙を机において話しだした。


「こちらは私の個人的な知り合いに宛てたものです」


「なんで君の個人的な知り合いの手紙を、依頼ならギルドにすればいいじゃないか」


「そうもいかない事情がありまして、エナさんの存在が教会に漏れました」


「それってつまり――」


「はい、秘匿死刑の身であるエナさんが生存しているということは教会にとって由々しき事態です。元々隠し事の多い教会、おそらく確実にエナさんを消すため刺客を向かわせることも予測できるでしょう」


 隠し事をする奴らが使う刺客となると、暗殺者の職業なんかも考えられる。正面からは対処できても認識する前に殺されたりしたらいくらなんでも対応できない、エナがここにいることは教会にはバレているだろうし身を隠す必要があるわけだ。


「ですので、この手紙を送り届けるという依頼を私個人から受けてもらいたいのです。そうすれば違和感なく町を出ることができ、身を隠すことも可能になります」


「なるほど、それでどこに届ければいいんだい? あまりに近いと身を隠すたとしても時間の問題だろう」


「届け先は南方の町アレクシオス、手紙には事情を説明できる内容が書いてありますので届けさえしていただければ匿ってもらえると思います」


「信用できる人物ってことでいいんだね」


「古い友人で、教会との縁もありません。それに問題を抱える女性を匿うのは初めてではないので問題ないと考えています」


 なんか不安がある言い方だけど、経験があるというのはいいことではある。女性が人生のすべてと言うようなグレイだし、エナのことで騙すということもないだろう。

 手紙を受け取ってポケットにしまい、机に手を置いて少し笑う。どうせまだ二人は起きないだろうしせっかくだからもう少しグレイと話していたい。


「それで、依頼と言うなら報酬があるはずだよね?」


 別に欲しいわけじゃないし、むしろ感謝してるぐらいだから要求するつもりはないけどもう少し話を引き伸ばしていたかったから適当に思いついた話題を出した。


「たしかにそうですね……では前払いとして私の肉体でお支払いさせていただきましょう!」


 立ち上がったグレイが上着を脱ぎ捨てて、上裸で接近してくる。こんな時に女好きを出してきたグレイを追い返そうかと思ったが、助けてもらった手前殴り返すこともできずなんとか止めようとするがグレイは意に返さず下がっていく俺に接近し続け、ついに仕切りまで追い詰められてしまった。


「冗談はいけないなグレイ、僕はそういう報酬の受け取り方は――」


「冗談? 私は本気ですよ、男を部屋に招き入れてなにもされないなどと油断してはいけません。男はみな狼なのですから」


 追い詰められていわゆる壁ドンの状態になり、近づいてくるグレイの顔からなんとか逃げようとするが、左手で仕切りを掴み右手は俺の肩を掴んでいて逃げることができない状況になっている。

 なんとか顔を逸らして抵抗しているとグレイの後頭部からガコッと大きな音がして突然倒れた。


「こいつ本当に見境いがないな……なにもされてないか?」


 音の主はアギトで、部屋に入ってきた後鞘でグレイの頭を殴って気絶させたようだった。

 危なかった……抵抗しようと思えばできはしたけど、良心とのせめぎあいで何もできずあのままだったら完全に貞操の危機が現実になっていただろう。


 これからは無闇に部屋に男を入れるのはやめよう……大丈夫だと思ってたけど場合によってはこういう事が起きるかもしれない。

 アギトやシャルルに慣れてて、元男なのに男のことを全然理解出来ていなかった。


「助かったよアギト、どうして気付いたんだい?」


「グレイの声で目が覚めた。お前なら殴り飛ばすだろうと思っていたが、抵抗する様子がなかったからな――もしかして受け入れる気だったか?」


「違うよ! 事情があって抵抗できなくて、とりあえずみんな起きた後に説明するよ……」


 アギトに誤解されないよう否定すると、大きな声を出しせいで寝ていたエナが目を覚ましてベットから出てきた。

 まずい、いまエナは下着姿だ!


 アギトの目を塞ごうか、エナのどかした布団をかけ直すか考えているうちにベットから出てきて立ち上がったエナが目をこすりながら周りを見渡した。


「どうしました、なにか大きな音が……」


「すまない、起こしてしまっ……て……」


 アギトとエナの目が合い、双方がいまの状況を認識してしまう。下着姿の自分、倒れている上裸の男、そして目の前にいるアギトという情報過多にパンクしたエナは体を隠すことなく驚いてしまう。


「ア、アアアギトさっ! なんで部屋に!?」


「待ってくれ! 俺はシトが襲われていたのを助けに――!」


「天使様を襲おうとっ!?」


 誤解が大きくなる前にアギトを部屋から投げ出して、パニックになるエナに俺の上着を被せて落ち着かせたた後――騒ぎで目を覚ましたカレンとシャルルを交えて話し合うことになった。

20時にもう1話投稿されます。

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