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39話:天使と魔王の性癖

「では双方の相互生存を目的とし、三つの条件を上限として契約を行う」


 ローゲンが杖で地面を叩くと、エナの足元と左腕に魔法陣が浮かび上がり契約の準備が整う。

 あとは二人で条件を出し合い納得すれば契約は完了する。


「エナ、君の条件に一つ"エナの意志を優先する"という条件を入れてくれないかい?」


「わかりました、では私からは"私の意思を優先する"、"勝手に喋らない"、あと……"人を殺してはいけない"という条件を提示します」


『我にそんな力はないのだがな』


 いや人を殺さないという条件は正しい。

 契約魔法はカルナの魂を指定して条件をつけるから、もし魂が開放されて元の力を取り戻したとしてもカルナは人を殺せなくなる。

 この条件を飲ませれば、カルナの復活は人にとって脅威ではない。


『なら我からは"我の魔力は貸与しない"、"左腕を失わない"、"我の力は魔族に使用しない"という条件を提示しよう』


 カルナの条件になにか裏があるとは思えない。自身の生存を目的としているようだから、そのままでも問題はなさそうか。


「双方、提示された条件に反論はないか?」


 エナが頷き、カルナも何も喋らない。

 両方の回答をイエスととったローゲンが杖を振り上げでる。


「ではエナ・リットリーとカルナは生涯を持って契約を遵守し、契約の破棄は行い得ないものとする。"アグリーメント"」


 振り上げた杖でもう一度地面を叩くと、魔法陣が輝き同時に消える。これで契約は完了し反故にすれば致命的なデメリットが身に降りかかることになる、とりあえずはカルナの存在は安心できるだろう。


「これで大丈夫なのですね」


「たぶんね、条件には許可なく喋らないことも含まれてたし周りに人がいても腕の模様が見られなければ問題ないはずだ」


「これで……終わったのか?」


 静かに見守っていたシャルルがエナに近づくと、エナもシャルルに気づいて強く抱きしめた。


「ッ……! エナさん急にっ!?」


 契約前に二人で抱き合ってたじゃないか。今さら驚くこともないだろう、シャルルにとってエナは特別な人みたいだし女性が苦手でも大丈夫だと思ってたんだが。


「ありがとうございます……みなさんも私のためにこんな危険なことをしてくださって」


「想定外なこともあったが、なんとか事態が収まったようだな……」


「ビクティ、目が覚めたんだね」


 倒れていたビクティが立ち上がり、なんとか長かったエナの反魂クエストは終わりを迎えた。

 ギルドに入って最初のクエストでエナに出会って、二度目のクエストが初めてのダンジョン攻略からの魔王との戦いなんていうめちゃくちゃな内容だったけど、大きな怪我人もなく全員無事に町に戻ることができただけで、俺がこの世界にいる意味が感じられたと思う。


 そして町ではギルドへ向かうビクティと別れ、グレイはカルナの魂を完全に封印するために王都へ向かう準備のためローゲンと一緒に教会区まで送り届けて宿に戻った俺は――。

 なぜかカレンとエナに挟まれてベットで寝転がっていた。


「ねぇ、なんで僕が真ん中なのかな……?」


「シトが一番作れていると思いますから、ちゃんと眠ってもらいたくて」


「天使様を端で寝かせるなど私にはできません!」


 カレンと一緒にいるのは慣れてきたし、妹みたいなものだと思えば問題ないだろうと考えていたけどエナが隣にいるのは想定外だ。

 宿のベットは俺とカレンでちょうどいいぐらいのサイズだし大人のエナが入るとギリギリでかなり密着していないと寝られない。少しでも離れれば落ちてしまうから離れてくれとも言えず、元々眠気を感じていないのにさらに眠れなくなってしまった。


 それにエナはすごい、とにかく胸がすごい……密着しているから腕にカレンでは感じることのできなかった底無し沼のように沈む柔らかい感触が感じられて、修道女相手に考えてはいけない煩悩が溢れて爆発しそうになる。


「エナはシャルルと一緒にいたらどうかな? 思い出話なんかもいろいろ――」


「いけません。天使様に捧げるこの身、たとえ古くからの友人であっても男性と一夜を過ごすなど……ですがご不満であれば廊下で過ごさせていただきます」


「いやいやいや、部屋から出ろなんて言ってないよ! ただベットが少し狭いからどうしようかと思って、やっぱり僕が椅子で寝るから」


「ダメですシト、ちゃんと休まないと疲れが残りますよ!」


「天使様はここにいてください、私が椅子で寝ますから!」


 寝るためにある程度の服を脱いでいるカレンと、ボロボロになった服の替えがなく――カレンのは当たり前だが俺の上着もきつかったため下着のみのエナが両腕にしがみついて離れず、逃げられないどころか別々の柔らかい感触に襲われて未知の体験になる。巨乳萌えじゃない俺でもどうにかなりそうだ、なんとか理性があるうちに離れてもらわないと。


「そそそういえばカルナは今喋れるかい!?」


「へ……? おそらく許可すれば話せると思いますけど、どうしてですか?」


「なぜエナの魂と同化したのか気になってね。神や天使を嫌っていたのに修道女と同化するのもおかしい気がして」


「言われてみればそうですね、エナさんお願いします」


 エナが左腕を出して模様に触れると、模様が光りだしてカルナが目覚めた。


『なんの用だ?』


「なぜエナの体を選んだんだい? 修道女は君の嫌う神や天使を信仰する人だろう」


『それは話せば長くなるな、あれは百二十年前のこと――』


「待て待て、百二十年分の話なんて聞いてたらいつ終わるかわからないよ!」


『なんだと……我の長く苦しくも素晴らしい魂の冒険譚を聞かぬとは、やはり天使は嫌いだ』


 嫌ってくれても全然いいけど、魔王の時間間隔で話されると終わる頃には何年経つかわからないからな。要点だけまとめて話してもらいたい。


「エナの魂を選んだ理由だけでいいよ、それしか気になってないから」


『魂だけで森を浮遊し、人の町にたどり着いた頃我は魂の同化を思いつき人を探したが――同調する人間が見つからずにいたところついに見つけたのだ』


 エナの魂がカルナに同調だなんて、考えられないけど実際同化していたわけだしわからないものなんだな。


『それはそれは巨乳の女をな――』


「え……?」


『魂の同調は全くなく、同化には長い年月を要したが同化が完全に終われば夢の巨乳美女の体を手に入れることができたはずだったんだがな』


「つまり……エナの胸だけを見てたってこと?」


『当たり前であろう、同調する魂などより豊満な胸のほうが大事だ』


 こいつ魔王のくせに中身を開ければただの変態オヤジじゃねえか! 胸がでかいからエナを選んだとか、ある意味同化に時間がかかってくれたおかげで助かってはいるけど、俺はこんなやつ相手に命を懸けて戦っていたのか……なんか残念な気持ちだ。


『それに対して貴様らの貧相な胸はなんだ? お前は天使なうえ胸もないとはとことん我の好みから外れる女よ』


 こ、こいつも巨乳が上だと思っているタイプか……!

 魔王だとしてもこんな胸囲の格差社会に与する者は許すまじ!


 巨乳萌えに対する怒りで夜がふけるまでカルナと俺は微乳と巨乳の素晴らしさを言い合い、気がつけば窓の外は空が白んで太陽がのぼり始めていた。

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